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テレフォンライン  作者: 新庄知慧
102/116

102 藤山刑事ふたたび

「わからない。私は、恐ろしい。私は、疲れた」




宮本は、また目を閉じてカウンターの上に倒れこんだ。




「ここまでかな」




私はいった。そして大声でどなった。




「どこのところから盗み聞きしましたか?おんぼろな店で、音は外に洩れるみたいだし、音楽もかかっていないから、だいたい、聞こえたでしょう?




聞こえなかったところは、補足説明してあげますよ。隠れていないで、出ていらっしゃったらどうですか?」




私の背後の扉が、おずおずと開いた。




あまり背の高くない中年の男が、そこに立っていた。




藤山刑事だった。




・・・・・・




店の戸口に現われた藤山は、大きな黒い眼鏡をかけ、大きな白いマスクをして、ソフト帽をかぶっていた。




変装しているつもりなのだろうが、藤山を一度でも見たことのある者なら容易に見破ることのできる、とても変装とはいえない変装だった。




藤山はいった。




「お見通しでしたか」




私はきいた。




「単独行動ですか」




「さいです」




「危険なことをなさいますね。どうしてまた」




「わけは聞かんといて下さい」




うつむいて深刻そうな口調になりつつも、藤山は、また例によって口を滑らせ始めた。




「捜査陣内部の意見の食い違いです。




上からの命令で、篠原の周辺調査を捜査の中心にすえる、となりまして、マユミや河合の捜査陣はそちらにまわることになったんですよ。




マユミや河合の事件の捜査は、はっきりいって、お休みにすると。でもそれは違う、方向違いやと、わては思う。




篠原の事件を洗うには、マユミや河合の件を洗うべきやと。それで私、浮き上がりましてん。それで私、おやすみとって、あなたの尾行をね。




これだから出世できまへん」




私はいった。




「思い切ったことしますね。私を尾行した甲斐はありましたか」




「ああ。あったようや」




「でしょうね。尾行してるのが、あなただと思ったから、私もあえて油断したところがあります。あなたを信頼してますからね」




私は藤山を真剣な目で見た。藤山は黒眼鏡をとり、私に答えるように視線を彼に返した。私はいった。




「私にとって重要なのは、事件の真相の解明とともに、依頼人のプライバシーの保護です。依頼人を傷つけないということ」




「わかってますよ」




藤山はまじめな顔をして頷いた。




「罪は憎むが人は憎まん。真相がどうあろうと、大切なのは、人間や。人間のために、わてらは働いてるんやからね」




私は藤山の口からでた、少し飛躍のある、少しキザな台詞に驚いた。藤山は続けていった。




「しかしまあ、おかげさんで、マユミ殺しが、河合の手によるもんやという、証人が見つかった。




篠原の実の息子が、犯人やなんて、篠原の友達の警察の上にとっちゃ、あんまりいい話と違うわなあ。




しかしこれで、内田の発言の裏が、きっととれますわ」




・・・・・つづく





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