↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺流の徳川家康はこうだ! 未来を知る俺が尽くすならば、同じ悪役令嬢様ならば織田の姫様よりも今川の姫様の方に使える事にした!  作者: かず斉入道
第2章 岡崎の麒麟児!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/535

第49話 苦労をかけた忠臣(2)

 ◆氏真姫の瞳が揺れた理由──悪役令嬢の仮面の裏側



 俺が深々と頭を下げた瞬間──


 氏真姫は、扇子の影で隠していた瞳を、ほんの一瞬だけ揺らした。


 その揺れは、怒りでも傲慢でもない。


 まるで……胸の奥にしまい込んだ《《何か》》が漏れたような、そんな揺れだった。


 だが次の瞬間には、いつもの《《駿府の悪役令嬢》》の仮面が戻る。


「……許しますわ、人質殿。次は避けなさいませ?」


 甘く刺すような声音……


 挑発的で、意地悪で、どこか寂しげで──俺を試すような響き……。


 だが俺は知らなかった。


 その言葉の裏に、氏真姫の胸の内で渦巻いていた《《別の感情》》を……。



 ◆氏真姫・内心



 ──どうして避けないのよ、竹千代。


 蹴鞠を蹴った瞬間──氏真姫は自分でも驚くほど強い力を込めていた。


 狙ったわけじゃない。


 でも、当たってほしくないわけでもなかった。


 胸の奥がざわついていた。


(尾張の吉法師姫……あの子のことを、また思い出していたのでしょう?)


 竹千代が尾張で過ごした日々……


 吉法師姫──織田信長の少女時代の姿……。


 彼女と竹千代が仲睦まじく育ったという噂は、駿府にも届いている。


 氏真姫は、その噂を聞くたびに胸がちくりと痛んでいた。


(……人質のくせに。どうして、そんな顔で笑うの?)


 竹千代が数正と楽しそうに話す姿……


 未来を語る姿……


 自分の知らない世界を知っている瞳……


 その全部が、胸の奥をざわつかせる。


(……わたくしの前で、他の姫のことを思い出さないで)


 蹴鞠を蹴った瞬間、心の奥でそんな声がした。


 だから、手毬は竹千代の頬に向かって飛んだ。


 ──ほんの少しだけ、当たってほしかった。


 当たれば、竹千代は自分を見る。


 自分の名前を呼ぶ。


 自分にだけ向けられる表情を見せる。


(……わたくし、こんなにも……)


 だがその感情を、氏真姫は絶対に表に出さない。


 駿府の悪役令嬢は、弱さを見せない。


 恋心など、もっと見せない。


 だから扇子で口元を隠し、挑発的に笑う。


「まあ……人質殿。避けられぬとは、鈍いのですね?」


 その言葉は、恋心の裏返しだった。



 ◇◇◇



 ◆竹千代視点──気づかぬまま、すれ違う恋



 俺は正座したまま、氏真姫の言葉を聞いていた。


 挑発的で、意地悪で、悪役令嬢らしい。


 でも──


(……なんでだろう。怒ってるようで、怒ってないような……)


 氏真姫の瞳の奥に、ほんの一瞬だけ見えた“影”……


 あれは何だったんだろう。


 痛む頬を押さえながら、俺はふと思う。


(吉法師……)


 尾張で一緒に育った少女……


 俺の幼馴染……


 信長になる勝ち気な《《尾張の悪役令嬢さま》》……。


 氏真姫の蹴鞠が飛んできた瞬間──


 俺は確かに吉法師のことを思い出していた。


(……まさか、それで怒った?)


 いやいや、そんなわけ──


 と思いながらも、俺の胸の奥がざわつく。



 氏真姫は、扇子を閉じて俺を見下ろす。


 その瞳は、挑発的で、意地悪で──


 でもどこか、寂しげだった。


(……氏真さま、もしかして)


 俺は気づかないふりをした。


 気づいてはいけない気がした。


 たぶん俺の気のせいという奴……。


 駿府には、俺の将来の嫁──《《瀬名姫》》、《《築山殿》》がいるわけで、氏真姫とは別人だから。


 だが俺の胸の奥で、何かが小さく芽を出した。



 ◇◇◇



 ✨第27話 苦労をかけた忠臣(2)



 俺が正座したまま頭を下げていると──


 氏真姫は、扇子の影からそっと俺を覗き込んだ。


 その瞳は、さっきまでの《《悪役令嬢の鋭さ》》とは違う。

 ほんの一瞬だけ、柔らかく揺れていた。


 まるで──


「……痛かった?」


 とでも言いたげな、そんな表情……。


 だが氏真姫はすぐに気づいたように、慌てて扇子をぱんと閉じ、ツンと顔を背けた。


「……人質殿が謝る必要などありませんわ。わたくしが、少し……強く蹴っただけですもの」


 駿府の悪役令嬢さま声は冷たい。


 でも、耳の先がほんのり赤い。


(……え? 今、優しい顔した?)


 俺は思わず目を瞬かせた。


 氏真姫は、俺にだけ見せた“素の表情”を、誰にも悟られないように隠した。


 だが──


 その一瞬を、見逃さない男がいた。



 ◆数正、恋と陰謀を悟って溜息をつく


「……はぁ」


 数正の兄ちゃんが、俺の横で大きな溜息を漏らした。


「えっ、数正の兄ちゃん? どうしたの?」


「いえ……若君。まさか、ここまでとは……」


 数正の兄ちゃんは、なぜか額に手を当て、心底呆れたように俺と氏真姫を見比べる。


「氏真さま……若君の前であれほど《《ツンツン》》して……。はぁ……」


「えっ? ツンツン?」


「若君はお気づきでないのですか。氏真さまは……その……」


 数正兄ちゃんは言い淀む。


 だが、あの日の──数正の兄ちゃんの目は、完全に《《恋を見抜いた大人の目》》だった。


「……義元公より、氏真さまの将来のことは伺っております。若君と氏真さまの関係は、いずれ……」


「いずれ……?」


「……はぁ。若君、覚悟しておかれませ」


 数正の兄ちゃんは肩を落としながら、俺の背をぽんと叩いた。


(えっ……何それ? 何それ!?)


 《《あの時》》の俺は、頬の痛みも忘れて、心臓が跳ねるのを感じた。



 ◆氏真姫、嫉妬の影を隠しきれない



 氏真姫は、数正の兄ちゃんの溜息に気づいたのか、扇子で口元を隠しながらこちらを睨む。


「……石川殿。余計なことを、その御方に吹き込まないでくださる?」


「いえ、氏真さま。余計ではなく……むしろ必要なことでございます」


「必要ではありませんわ!」


 氏真姫はツンと顔を背ける。


 だがその瞳は、俺の頬をじっと見ていた。


(……やっぱり心配してる?)


 その視線は、怒りでも傲慢でもない。


 どこか、胸の奥がざわつくような──


 そんな優しさが混じっていた。


 だが氏真姫はすぐに表情を引き締め、扇子をぱんと閉じる。


「……それに、人質殿は尾張で吉法師姫と仲睦まじく育ったのでしょう? わたくしなど、気にする必要はありませんわ」


 その言葉は、明らかに刺々しい。


 でも──


 声が震えていた。


(……あれ? 嫉妬してる?)


 俺は思わず数正の兄ちゃんを見る。


 数正は「やれやれ」と肩をすくめた。


「若君。氏真さまは……。その……吉法師姫のことを、少し……」


「少し?」


「……いえ、かなり気にしておられます」


「えぇええええっ!?」


 俺の声が廊下に響いた。


 氏真姫は真っ赤になり、扇子で顔を隠す。


「ち、違いますわ! わたくしはただ……尾張の姫が、人質殿と仲が良かったという噂を……その……」


 声がどんどん小さくなる。


「……気にしてなど、いませんわ……」


 最後の言葉は、ほとんど聞こえないほど弱かった。


 その姿は、悪役令嬢ではなく──


 ただの、恋する少女だった。



 ◆恋と陰謀の渦へ



 氏真姫の嫉妬……


 数正の兄ちゃんの溜息……


 俺の動揺……


 その全部が、《《あの時》》の今川館の空気を変えていく。


 人質生活は、ただの政治の駆け引きではなく──


 恋と陰謀が渦巻く舞台へと変わり始めていた。


 氏真姫はツンと顔を背けながら、俺にだけ聞こえる声で呟いた。


「……次は、避けなさいませ。人質殿」


 その声音は、甘くて、刺々しくて、少しだけ震えていた。


 俺は頬を押さえながら、胸の奥が熱くなるのを感じた。


 ──駿府の悪役令嬢は、俺にだけ素顔を見せる。


 そしてその素顔は、尾張の吉法師姫の影を、確かに揺らしていた。



 ◇◇◇




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。