第38話 誤魔化すでごじゃる
「うむ、確かにのぅ……和尚の言う通りで、ごじゃる。 竹千代~、そちは誰から、その話を聞いたのじゃ?」
謁見の間に、今川義元公の低い声が響く。
東海道一の弓取り――《《今川の狐》》……。
その隣で静かに目を細める軍師・太原雪斎和尚――《《駿河の鼬》》……。
二人の視線が、ガキの俺へと鋭く突き刺さる。
……やばい。 未来人バレの危機だ!!
俺は未来から《《女神さま》》の力で転生してきた《《異世界転生者》》だなんて言っても、 この二人は絶対に納得しない。
むしろ混乱して、俺の首が飛ぶ可能性すらある。
だから――誤魔化すしかない。
「えっ、えぇ~と、えっと、ですね……あっ、はははははは」
俺は乾いた笑いを浮かべながら、必死に脳内で言い訳を探す。
(やべぇ……《《信玄公》》って未来の呼び名で言っちゃったし…… どう誤魔化す? どう誤魔化す!?)
織田家の人質時代、吉法師姫(織田信長)には未来の呼び名で話しても普通に通じた。
あの悪役令嬢ビッチ姫は三国志も楚漢戦争も大好きで、 「もし自分が劉備なら~」「曹操なら~」「覇王項羽なら~」「国士無双の韓信なら~」と、 俺と一緒に歴史妄想をして遊んでいた。
だから俺は、今川の親父さまと雪斎和尚にも通じると思っていたのだが――
二人は楚漢戦争の細かい話を知らなかった。
(やべぇ……やべぇ……! 未来知識をそのまま言ったら、絶対に怪しまれる!)
俺は額から冷や汗を垂らしながら、 二人の《《戦国の怪物》》の眼光に耐えきれず、口を開いた。
◆誤魔化しの一手:吉法師姫の名前を出す
「お、織田の吉法師姫さまでございます!」
俺は反射的に、あのビッチ姫の名前を出してしまった。
義元公と雪斎和尚の眼光がさらに鋭くなる。
(ひぃいいいいいいいいいっ! こわいこわいこわいこわい! おしっこちびりそうなんだが!?)
だが、俺は続けるしかない。
「吉法師姫さまが……。その……楚漢戦争の話を好んでおりまして…… 。拙者も尾張にいた頃、よく聞かされたのでございます……」
沈黙……。
謁見の間が、時代劇のワンシーンみたいに静まり返る。
そして――
「お、おおうつけ姫がぁあああああああああっ!?」
「うそで、ごじゃ、りょぉ、おおおおおおっ!?」
「竹千代~~~!?」
義元公と雪斎和尚が、同時に叫んだ。
俺は慌てて首を振る。
「いいえ、嘘ではございません!」
雪斎和尚が唸る。
「……あの、うつけ姫にここまでの才があるとは…… 末恐ろしいでございますな、御方さま……」
義元公も深く頷く。
「うむ……。信秀の戯れ言だと思っておったが……。自分の娘を天下一の知恵者と褒めておったのは、本当のことだったで、ごじゃるな……」
俺は胸を撫でおろした。
(よし……誤魔化し成功……! 吉のビッチ姫の名前を出したら、二人とも納得してくれた……!)
◆俺の復讐心と、今川家の未来
俺は心の中で、吉法師姫と秀吉への憎悪が再燃する。
(絶対に許さねぇ……! 俺を捨てて猿に尻振ったあのビッチ姫……! 秀吉の首は盃に加工して、吉法師姫の目の前で、俺は魔王の如き振る舞いで、酒を飲んでやる……!)
だが――その復讐を果たすためには、今川家が滅んでは困る。
桶狭間で義元公が死ねば、今川家は歴史通りに衰退し、俺の復讐は成就しなくなる。
だから俺は、未来知識を使って今川家を救う必要がある。
(親父さま……長生きしてくれ…… 俺の復讐のためにも……!)
俺は《《あの時》》に切に願う。
◆今川家、織田家を警戒する
雪斎和尚が静かに告げる。
「御方様……織田の姫は、末恐ろしい将へと成長するでしょうな」
義元公も頷く。
「うむ……あのうつけ姫は、才を隠すために傾奇者のフリをしておる……。今後、織田家と対峙する時は、用心深く事を運ぶで、ごじゃる」
俺は心から安堵した。
(よし……これで今川家は、織田を侮らない……。桶狭間の悲劇を回避できる……!)
瀬名姫の未来も守れる。
俺の復讐も果たせる。
そして――俺自身の運命も変えられる。
◆義元公、俺を褒める
「でかしたぞ、竹千代! 麻呂は今ほど、お主を《《あの者》》と交換して良かったと思った事はないぞ! でかした! でかした、竹千代!」
義元公が満面の笑みで俺を褒め称える。
(あの者=秀吉のことか……、義元公は、猿を手放したことを後悔してたのか……)
だが今は違う。
俺の知識が、今川家を救い、 織田家への警戒を強め、 未来を変えようとしている。
俺は胸が熱くなるのを感じた。
◆そして未来……俺は進軍する
時は流れ、元服した俺――青年元信は馬に跨り、 青空の下、織田領へと進軍する。
瀬名姫のこと……
吉法師姫のこと……
秀吉のこと……
今川家の未来……
俺自身の復讐……
すべてを胸に抱えながら――俺は戦国の荒波へと踏み出していく。
◆青年元信、進軍す
空は高く、雲は流れ、風は戦の匂いを運んでいた。
俺――青年元信は、愛馬の背で揺れながら、鼻歌を歌いつつ、青空の向こうに広がる織田領を見つめていた。
復讐!
瀬名姫!
吉法師姫!
秀吉!
今川家の未来!
すべてが胸の奥で渦を巻く。
「あなたさま~……顔が怖いですわよ~?」
「殿! 何を考えているのですか?」
瀬名と築山が馬を寄せ、瀬名が扇子で口元を隠しながら俺を見上げ──
築山が困惑した表情で声をかけてきた。
二人の瞳は心配とツンデレが混ざった、いつもの瀬名と築山の瞳だ。
「怖い? いや、別に……」
「嘘。あなた、吉法師姫のこと考えてたでしょ?」
「はぁ~! 本当ですか! マジで奴をぶっ殺してやる! そして首を河原に曝してやる! はぁはぁはぁ」
「なっ……!」
「築山、お前、顔が真っ赤だぞ!」
図星すぎて言葉が詰まるのと、築山は相変わらず、吉法師姫を目の敵にした台詞しか言わねぇ。
「あっ、はははははは」
俺が苦笑いを浮かべ誤魔化すが。
瀬名はふん、とそっぽを向いた。
「……戦場で他の女のことを考えるなんて、最低ですわね~。わらわがまた、《《悪役令嬢化》》して、あなたさまの~、首を落としてさしあげましょうか~(プンプン)」
ツンデレ、悪役令嬢全開である。
その後ろで本田忠勝が元気よく叫ぶ。
「殿! アーシが、槍で敵陣を突破するでござる!」
「やめろ忠勝! 死ぬぞ!」
「えぇ~、死なんし!」
「トラも突撃する!」
「お前らなぁ~、はぁ~」
俺が本多忠勝と井伊直虎の無茶ぶりに呆れ、溜息をつけば。
「殿! 今川の武、天下に示すで、ござる!」
「殿~、石川さまの言われるとおりです……。でも正信は怖いでございます……」
俺の軍師二人……。数正の兄ちゃんと、本田正信が元気よく声をあげる。
まあ、正信の奴は、相変わらず弱腰だけれど。
「殿……虎の気配が強まっておりますぞ! 武田が動く前兆かもしれませぬ!」
服部半蔵が俺に甲斐の動向に気を付けるようにと教えてくれた。
「そうだな、気をつけよう……」
俺が半蔵に言葉を返すと風が吹く。
空気が震える。
俺の背後で、淡い光が揺らめいた。
霊獣――未来視の加護……
戦場が、俺を呼んでいる。
「行くぞ、今川軍――!」
俺は愛馬の腹を蹴り、戦場へと駆け出した
でもこの話の続きは、また後日……。
俺が元服後の未来の話で続きをするから、楽しみにしていてくれよな、皆……。
では一度サヨウナラだ!
この後は、俺のかっこいい、過去の話の続きを楽しんでくれたまえ!
◇◇◇




