第16話 尾張の悪役令嬢様との思い出(5)
俺が《《あの頃》》──鬼武蔵にボコられ、草原に転がる姿を見て、吉法師姫は腹を抱えて笑っていた。
「きゃははははははは~~~! 竹千代、最高よ! もっとやりなさい!」
「吉姉さま!? 俺は芸人じゃないんですけど!!」
「いいのよ、面白いんだから!」
……この人、絶対に天下取るわ。
本当にメンタルが強すぎる。
しかし、その直後──
吉法師姫の笑顔が、ふっと止まった。
「……鬼武蔵。ちょっと、近すぎじゃない?」
その声は、いつもの悪役令嬢スマイルではなく、どこか冷たい。
鬼武蔵は俺の腕を掴んだまま、びくっと肩を震わせた。
「えっ……姫さま? ち、近くねぇし! これは、その……稽古だから!」
「稽古にしては、距離が近すぎるわよ?」
吉法師姫の眉がピクリと動く。
恒興と利家が、すかさず俺の耳元で囁く。
「竹千代……あれ、完全に嫉妬だぞ」
「姫様、怒ってる怒ってる。やべぇぞ」
「やめろ! 煽るな!!」
吉法師姫は、鬼武蔵の手元をじっと見つめた。
「その手……いつまで竹千代の腕を掴んでるつもり?」
「ひっ……!」
鬼武蔵は慌てて手を離し、俺から距離を取る。
「ち、違うんです姫さま! これは、その……見張ってただけで!」
「見張るのに、そんなに密着する必要ある?」
「み、密着してねぇ!!」
吉法師姫は、ふっと笑った。
しかしその笑みは、いつもの《《楽しそうな悪役令嬢》》ではなく――
『取られたくないものを守るための笑み』
だった。
「鬼武蔵! 竹千代はね――アーシの丁稚なの! だから、あんまり近づかれると……困るのよ?」
「っ……!」
鬼武蔵の顔が真っ赤になる。
「姫さま……それって……」
「何か言いたいことがある?」
「い、いえ……!」
鬼武蔵は完全に委縮してしまった。
だがその目は、どこか悔しそうで……
《《負けたくない》》!
という感情が宿っていた。
◇◇◇




