瀬尾視点
この話で完結です。
彼女、野宮明音を初めて見たのは、総務課との合同新人歓迎会だった。
一目見て、「やっと会えた」と不思議な感覚に陥った。
話をしたかったが、女性達に捕まって動けない。彼女はというと、課長の娘の話を親身になって聞いていた。
その日、不思議な夢を見た。
僕は、白亜の宮殿の庭にいた。異国の衣装を身にまとい、夜空を見上げていた。
後ろから僕を呼ぶ声がする。瀬尾和樹という名ではなく、異国の姿の僕の名だ。
振り向くと、彼女がいた。姿は違うが、野宮明音だ。
ああ、これは前世の記憶。僕らは前世で恋人同士だった。
それからも時々前世の夢を見た。
見るのは決まって彼女を見かけた日だ。
彼女は僕のことを覚えているだろうか?気づいてくれているだろうか?
何度も彼女に声をかけようと思ったが、なかなか機会が無かった。
そんなある日、休憩コーナーに一人でいる彼女を見かけた。
彼女は葉書を見つめながら、何かを飲んでいた。
葉書を愛おしそうに見つめる彼女に胸が痛んだ。もしかして恋人からの手紙なのだろうか。
そう思うと、彼女に確認したい衝動に駆られた。
「いい香りだね」
彼女に声をかけ、彼女の飲んでいたタンブラーを手に取る。
「一口ちょうだい」
彼女が口をつけていた部分に口をつけ、一口飲む。
彼女が真っ赤になって僕を見ていた。
絵葉書は未使用のものだった。安心したのと同時に、その絵に驚いた。
「いい絵だね」
「はい、気に入っているんです」
僕は知っているよ。その景色。君と前世で過ごした場所。
別れ際に彼女の名前をフルネームで呼んだ。彼女は驚いていた。
その夜、前世の彼女と接吻する夢を見た。
数日後、直帰する予定だったが、思いのほか早く済んだので一度会社に戻ることにした。もちろん、彼女に会うために。
帰る途中の彼女に会えたのは、運命だったと思う。
彼女にお願いして、例の喫茶店に連れて行ってもらう。僕にとってはデートのつもりだが、彼女はどう思っているのだろう。
「懐かしさを感じる絵だ」と言う僕の言葉に、彼女が同意してくれた。そして、彼女も宮殿の夢を見たと。
この絵を見ると思い出す曲があると言ったので、帰りにCDショップに付き合ってもらい、その曲のCDを購入。僕の部屋で聴こうと誘った。
彼女は驚きながらも了承してくれた。
喫茶店で購入したお茶をいれ、ソファに並んで座り曲を流す。
彼女との間はほんのわずか。彼女の手にそっと触れる。
僕のことを思い出してほしい。彼女の手を優しく握り締め、夢の中の彼女の名を呼ぶ。
彼女は驚いて、僕のほうを向き、そして、夢の中での僕の名をつぶやいた・・・・。
思わず彼女を抱きしめる。僕の腕の中で、彼女は前世の僕の名を何度もつぶやく。僕も彼女の耳元で、彼女の前世の名をささやく。
「思い出してくれたんだね・・・・・」
彼女の唇に僕の唇を重ねた。
「生まれ変わっても君を見つける」
僕が前世で彼女に約束した言葉だ。
ちゃんと見つけることが出来た。
君は気づいているだろうか?
あの日、僕らが見上げた星の中に、青い惑星があったことを・・・・。
ありがとうございました。