第6話 席替え
結局、部活には入らなかった。そもそも僕自身がサッカー部に入るつもりがなかったというのもあるし、マツコも、なんか違う、という理由で入らなかったというのもある。ただ、部活に入る人たちはそろそろ加入しないとまずい頃である。教室では、皆どうしようかとワイワイワイと雑談していた。
僕はと言うと、朝のホームルームが始まらないかなと思いながら、何を言うわけでもなく机に向き合ってボーっとしていた。もちろんマツコと話せば良いじゃないかという意見もあると思う。しかしそう言うわけにもいかないのだ。
まず第一に、マツコは僕の唯一と言っていい友達ではあるが、マツコにとって僕は唯一ではない。つまるところ、彼には友達がたくさんいるのだ。
こないだのカラオケで好きなゲームで気が合い、押原軍団の一部と仲良くなったらしい。そこから押原軍団の勢力と芋蔓式に仲良くなったようだ。
コミュ障であるにも関わらず、いっぱしに寂しくなる。すぐさま腹の底が持ち上がるような気持ち悪さを覚えて口を抑え、天を仰ぐ。
「ぁーい、ホームルームぁじめまーす。席ついてー」
やる気のなさそうな担任の声で、皆が自分の席に座り始める。気だるそうな彼の口からところどころ”h”の音が失われている。
「最後にぃ、このクラスもそろそろ一か月になるので、このあたりで席替えでもしようと思いまぁす」
担任の根津先生、通称ネズはぼそっと重要なことを言った。席替えという言葉に皆がそわそわしだした。
「席替えの方法ですがぁ、みんなが納得するように決めてくれればなんでもいいでぇす。くじ引きなりなんなりしてくださぁい。決まったら私のところに持ってきてくれれば席の名簿を作りまぁす」
「ネズちゃん神かよ!」
「愛してる!」
「誰と隣になるんだろー」
「はぁいではホームルームは終わりまぁす。挨拶はしなくて結構でぇす。各々授業の準備をしてくださぁい」
そう言ってそそくさと教室を出ていくネズ。
「席替えだってよー。松村と離れんの悲しいわー」
「別に同じ教室なんだからいいでしょ」
「冷めてんなー。俺はこんなにお前のこと好きなのに」
「うっせー」
「俺のビッグラブを受け取れよ。間違えた。俺のBig Love……を」
「無駄に発音よくて草。……席替えしてもどうせ話す人いないから、時々話しかけに来てよ」
「松村の照れパート熱すぎだろ」
「張り倒すぞこら」
マツコとじゃれていると、柏部さんが前に出て話し始める。
「みんな聞いてくださーい! 席替えなんですけど、くじ引きが公平かなって思うんですけどいいですか?」
「いいよーー」
「おっけーです! 真希がくじを作ってくれるので、後で私のところに引きに来てください! なにかあれば私、柏部に言ってください!」
「はーい」
マツコが律儀に返事をしているため、一番視線を集める柏部さんの次にマツコが視線を集めている。それを見ながらやっぱりこいつはどこにいても友達出来るだろと確信する。マツコは基本性能が”いいやつ”なのだ。
僕のカースト理論に基づいてマツコのカーストを決めるなら、自分を下層だと思っている平和の民と言ったところだろう。しかし彼の場合は、僕が思う平和の民よりも多くの人間と関係を持っている。他社に対してフラットな視点を持っているのは平和の民の特徴ではあるが、それ以上に彼は上層側の性質を秘めていると僕は考えている。
ネット小説風にマツコを例えるなら『放逐された市民の俺はこの国の王子でした!? ~自由を手にしたので気ままにスローライフをしたいと思います~』といった具合だと睨んでいる。
柏部さんが舵を取ってくれた席替えだが、帰りのホームルームまでには皆が引き終わったようで、帰りに荷物だけ移動して明日から新しい席となった。マツコと離れてしまったが、正直なところどっちでもよかった。マツコと話すのは楽しいが、ボッチのほうが慣れているため落ち着く。
僕はそそくさとカバンを背負い、一人電車に揺られながら家に帰るのだった。




