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異世界でも野球やろうぜ!?  作者: ウエス 端
vs. ディクトレイト連邦
40/120

第40話 睨み合い

 試合は6回表、ウチのチームの攻撃中でワンナウト2塁。


 相手ピッチャーは変わらず巨漢格闘王ジョンストン。


 そして打席にはオレが左のバッターボックスに入っている。


 現状は、ナックルボーラーのジョンストンに苦戦しておりカウントは0−2と追い込まれている。



 それにしても、どうやってヤツのナックルを打てばいいのだろうか。


 140キロ前後で強い左右のブレと打者の手前での不規則な変化。


 まともにやれば打てる気がしない……。


 だからオレは、ヤマを張ることにした。


 球がきそうな箇所に狙いを絞って、実際に落ちてきたら迷わず振り切る。


 なお、3盗するかどうかはランナーに任せることにした。


 オレは自分の打席に集中したいし、左打席だからキャッチャーは3塁へ送球しやすい。


 この状況でも盗めると判断できればやればいいと思う。



 そうやっていろいろと考えつつ臨んだヤツの第4球目。


 オレは真ん中あたりにまっすぐ落ちてくるとヤマを張って待っていた。


 都合が良すぎるボールを待っているのだが、ピッチャー自身も変化が読めないのだから可能性はゼロではない。


 そして……ほぼ読み通りに落ちてきた!


 オレはすかさず目一杯の力でスイングする。


 ガキーン! と良い打球音を響かせたスイングであったが。


 タイミングが早過ぎて1塁スタンド側へライナー性のファールとなってしまった。


 惜しいことをした……いやそれよりも打球が1塁側ベンチに飛び込もうとしている。


 ヤバい、監督代行している相手の部長に直撃しそうだ!


「危ないっ、避けろー!」


 オレがそう叫んだ瞬間には打球が頭部付近に着弾してしまった。


 そして部長が深くかぶっていた野球帽が吹っ飛んでいった。


 オレは慌てて1塁側ベンチへ駆け寄った。


「申し訳ありません、大丈夫ですか!?」


「……ああ。避けはしたが、帽子のツバに当たってしまってね、それが吹き飛んでしまっただけだ」


「それは良かったですが、本当にケガはないですか?」


「問題ない、だからさっさと打席に戻りたまえ」


 ふう、大したことなさそうで良かったよ。


 でもこれで素顔が露わになったわけだが、ウチの監督はその正体がわかったのだろうか。


 あとでベンチに戻ったら聞いてみよう。


「おい、貴様よくも……!」


 戻ろうとして本塁側へ振り向いたら、そこにはピッチャーのジョンストンが凄まじい怒りの形相で立っていた。


 怒るのもわからんではないが、不可抗力だし本人には謝罪して了承してもらっている。


 そこまで睨み付けなくてもいいだろ……オレたちはそのまま睨み合いになってしまった。


 そこに駆けつけてきた球審ロボットに急かされてオレもジョンストンもそれぞれの位置に戻ったが、悪い雰囲気は残ったままだった。



 そして第5球目だが……ヤツの投球フォームがおかしい。


 いつものゆったりとした投げ方ではなく、強く足を踏み出して右腕を思いっきり振り切ったのだ。


「ぬうんっ!」


 雄叫びとともに放たれた球は、150キロをゆうに越えるスピードで内角に向かってくる。


 ストレートか?

 その割には微妙に揺れているような。


 そんなことを思っていたところに、手前で球がオレの方に向かって急激に曲がってきた。


 そして右肘へ向かってくる。


 オレは必死でバットを振って球に当てると、ガコッ! と鈍い音でファールグラウンドへ転がっていった。


 ヤバかった……まさかワザと狙ったのか?


 オレとジョンストンは打席とマウンドからお互いを強く睨みつけた。


 オレもジョンストンも一歩も引けない状況となったのを収めたのは、意外な人物だった。


「ジョンストン! もうそのあたりで収めるのだ。私は何も問題ない!」


 相手の部長がそう一喝すると、ジョンストンは直立不動の体勢となり、部長に向かって軍隊みたいな片手の敬礼をした。


 その後は完全に落ち着いた表情となり、次の投球に移るべくプレートを踏んでセットポジションをとった。


 わけがわからないが、通常の試合に戻れて良かった。


 オレもジョンストンの挑発に乗って睨み合いになったのは反省しないと。


 そしてジョンストンはいつものゆったりとしたフォームで、指をボールに突き立てた握りでナックルを投げてくる……。


 いや、明らかにボールの性質が違う。


 揺れずにほとんど真っ直ぐに向かってくる。


 球にはかなりの回転がかかっているようだが……ストライクゾーンに来ているから振らずにはいられない。


 でもコースは甘いし、球速も140キロ程度なので難なく打てそうだ。


 ブーン! とフルスイングで球を芯にとらえた!


 ……と思った瞬間には、オレは空振りをしていた。


 球は手前で急激に縦に割れて落ちたのだった。


 まさかこれってナックルカーブか?


 でもあの投球フォームでこのスピードと回転って……ほぼ指で弾く力だけでこれを投げたってのか?


「ストライク!」


 あえなく三振か……いや、キャッチャーがワンバウンドしたボールを後ろに逸らしている。


 オレは振り逃げで一塁に全力疾走だ。


 そして一塁に送球されてきたが……。


「セーフ!」


 よっしゃ!

 2塁ランナーのエドモンドももちろん3塁を狙ってセーフ。


 一気にワンナウト1、3塁のチャンスを迎えたのだ。


 ここまで基本的に顔色を変えなかったジョンストンに悔しさの色が少し見えてきたのもこちらには好材料だ。



 そして4番のピアーズは、2球目を詰まらされながらもレフトの定位置まで力で持っていってくれた。


 3塁にランナーがいるのでナックルカーブは事実上封じることになった。


 ピアーズにとっては、ナックルでヤマを張るだけでいけたのは有利に働いたと思う。


 エドモンドがタッチアップで余裕をもってセーフ、遂に同点に追いついたのだ。


 相手にラフプレーをやる隙も与えなかったし、ざまあみろってんだ。


 残念ながら同点止まりでこの回の攻撃は終わったが、こちらに流れが来ていると実感しつつベンチに戻っていったのだった。

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