第39話 揺さぶりをかける
試合は6回表、ウチのチームの攻撃中でワンナウト1塁。
相手ピッチャーは巨漢の格闘王ジョンストン。
ヤツは異常に強い握力を生かしてフルタイムナックルボーラーとして投げている。
そしてオレは左打席に入ろうとしているのだが。
どうやってヤツの140キロ前後の高速ナックルを打とうか、攻略法が見えてこない。
でもまずはエドモンドがフォアボールを勝ち取った方法を真似てみよう。
オレは打席に入ると、いつものバッティングフォームとは違う構えをとった。
バットを自分の正面に倒す神主打法である。
さっきエドモンドがとっさに構えたフォームだ。
あまり使う奴がいないこの打法と、キャッチャーの前に出されたバットが気になって制球を乱したようだから、これでどんどん揺さぶりをかけていこう。
しかしジョンストンはいきなり両手で顔が潰れるかと思うくらいに強くバチーンッ! と挟み込んだ。
うわっ、痛そう……とこちらが心配になるくらいの強烈な張り手だった。
それで気合を入れ直したのか、初球を何事もなかったかのようにアッサリとストライクゾーンに投げ込んできた。
「ストライク!」
当然のコールだが、ちょっと見逃し感があって悔しさもある。
でも切り替えていこう……だがジョンストンはオレに向かって皮肉るように嘲笑った。
「残念だったなぁ。だがこのジョンストンに同じ手は2度も通じぬ。特にまたフォアボールを狙おうなどという姑息な手にはな!」
その声は外見通りの野太いオッサン声で、意表を突いて高い声だったりはしなかった。
それはいいけど、殺人野球を仕掛けてきてる奴らに姑息とか言われるのは結構腹が立つ。
それに一発勝負なんだし、相手の弱点を突いて四球を連発させて崩すのは当然の戦術だっての。
でもまあ、こんなことを気にしている余裕はない。
実際に打席に立って見てみると、ヤツのナックルはえげつないものだった。
さすがにマンガに出てくるナックルみたいにボールが分裂して見えるようなことはないが、変化の軌道が全く読めない。
投球直後から左右に激しくブレ始め、どう打ったらいいかと面食らってしまう。
その状態のまま、打者の手前で急速に外角へ逃げながら大きく落ちていったのだ。
しかも、次は同じように動くとは限らない……というか違う落ち方をする可能性が高い。
コースも何も絞りようがない、相手キャッチャーはよく落とさずに取れてるよな。
ウォルターの言う通り、ヤマを張って、そこに来なければ諦めるしかないのかもしれない。
いや、それよりも先にこちらがやるべきことがあった。
オレはジョンストンが投球動作に入る前にエドモンドにサインを送りながら、構えをいつも通りのものに戻して2球目を待つ。
そして2球目を漫然と投げてくるジョンストンの投球動作を突いて、エドモンドは盗塁をしかけた。
フルタイムナックルボーラーは投げ方を変えると球種がバレてしまうし、ずっと同じフォームで、おまけにヤツはクイックも牽制も使ってくる様子がない。
つまり走り放題ってわけだ!
成功すれば間違いなく相手バッテリーに揺さぶりをかけることもできる。
そしてオレはさっきと同じくらいの箇所に狙いを絞って振りにいく……が、今度は内角側へ小さく鋭い曲がりだったのであえなく空振り。
もちろんさり気なくフォロースルーでキャッチャーの送球をちょいと邪魔をする。
当然だが奴らのような隠れたラフプレーや必要以上の守備妨害はしない。
「クソッ、バッターが左だと投げにくい!」
相手キャッチャーの呟きが聞こえてきたが、その程度は想定して試合に臨んでもらいたいねえ。
でもキャッチャーはなかなかの鬼肩で、必死でしゃがみ込んだジョンストンのすぐ上をすごい送球がいったが……。
余裕でセーフ、エドモンドの足がベースに到達した。
しかしオレも油断していた、奴らが殺人野球だってことを。
2塁ベースの上を通り過ぎていきそうな高さと勢いの送球を、相手ショートの軽業師ギャレンが軽快にジャンプしてキャッチ……したのはいいが。
なんと、滑り込んだエドモンドの頭上を、スパイクの裏側を見せながら飛び越えようとしてきたのだ!
「危ないエドモンド、上!」
オレは思わず叫んでしまったが、耳に入ったのかエドモンドは右腕で顔を覆ってブロックする。
そしてギャレンのスパイクの刃がそれを掠めて通り過ぎたのだ。
「エドモンド! ケガはしてないか!?」
「大丈夫、ちぃっとユニフォームを掠めただけだ。おれがこんなことでやられっかよ!」
ふう、大事に至らなくてよかった。
そしてギャレンは今回も気遣いすら見せない、というか惜しかったとでも言いたげな顔をしていた。
本当に油断ならねえな、勝負だけに集中できないよ。
で、オレはツーストライクと追い込まれてしまった。
次はどうやって狙い所を絞ろうか。
あと、エドモンドに3盗を仕掛けさせるべきか。
また危険なプレーをされたら困るし、どうしようかとオレにしてはクズグズと悩んでしまった。




