第二章4
戦闘が終了してまたしばらく日常的なのが続きます
「ねえねえセシル! 聞いた?」
「聞いたって、何を?」
朝からテンションをあげながらナタルは息せき切って教室に入ってきた。
「ここから少し離れた路地裏で戦闘の跡があったって!」
「! そっ、そうなんだ……」
セシルの頭には昨日のルイスとマキの戦闘が頭によぎったが、クラスどころか学校一の情報通と名高いナタルがどうやらつい先ほど知ったばかりらしい情報をセシルが知っているのはかなり怪しいので、若干挙動がおかしくなりながらもしらを切ることにした。
「そうなんだって、なんか乗り気じゃないわね。もしかしたらセシルの大好きな大陸から来た人間が関わっているかもしれないのよ!」
「! なっ、何でそう思うの?」
思わず動揺が顔に出そうになったセシルが必死でそれを抑えて聞くと、ナタルは顔に自身を浮かべて、
「それは私がナタル・クリングだからよ!」
胸を張って見せた。
「…………」
「冗談でしょ、冗談。そんな顔しないでよ」
それを見たセシルの反応がなんともいえないものだったことに危機を抱いたのか、ナタルは言葉を付け足した。
「いや、いくら軍事学校のある町とはいえ、急に路地裏に戦闘の跡があるなんていう事件は遅かれ早かれみんな知るでしょ? だったら私はその先を行かなきゃね」
町一番の情報通とは名乗れないでしょ、ナタルは最後にそう締めたがいったいいつから「町」一番の情報通になったのだろうか。
「まあとにかくわたしが集めた情報によると、あれはどうやら大陸から来た人間の仕業なんじゃないかって結論に至ったわけよ」
何で、と聞けばどうせまた企業秘密とでも返ってくるであろうことは目に見えていたので、あえて話の突っ込んだところを聞いてみることにした。
「じゃあ、誰かその戦っていた人たちを見た人がいるの?」
もしルイスが見られていれば、それはかなり危ないことになる。
どうしたってルイスは目立ちすぎるのだ。
この近隣であの背の高さのある白髪の人物などルイス以外に存在するはずがない。
だからこそセシルは目撃情報が気になった。
しかし、対するナタルの返事はあまり歯切れがいいとは言えない。
「それがさ、不思議なことに銃声らしきものを聞いた人はたくさんいるんだけどその決定的瞬間を目撃した人って誰もいないのよね」
「そう……なんだ」
どうやら目撃者がいないということに自分で思っていた以上に力が入っていたらしいセシルは一気に脱力してしまった。
「まあ今はまだ名乗り出る人がいないでしばらくしたら判明するなんて可能性もなくはないけど」
私の勘的にそれはないかな。そんなナタルの言葉はセシルにとって信用たるものだった。
情報矢としてのナタルの勘はかなり鋭い。彼女がないという以上それはおそらくないのだろう。
だが、次にナタルが発した言葉でセシルはまた体中に力が入った。
「とりあえず私はこの件をもう少し探ってみようかな」
「えっ! ナタルこの事件調べるの!?」
あまりの驚きに声を上げてしまったセシルにナタルは怪訝なまなざしを向ける。
「なに、わたしがこの事件調べるのが何かまずいわけ?」
「いや、そんなことはないけど……」
口では何とか取り繕うが内心は気が気ではない。
それこそナタルが本気で情報収集をすればルイスのことがばれてしまうのではないか。
「……セシル、何か知ってるの?」
「ナ、ナタルの知らないことをわたしが知ってるわけないじゃない!」
「……そうよね」
何とか誤魔化すがこの程度でナタルが退くとは思えなかった。
「はあ……」
どうすればいいのか、セシルは一人ため息をついた。