第二章3
区切りの問題で短めです
「やべえ、体が動かねえ」
ルイスがそう呟いたのはマキが立ち去ってすぐのことだった。
マキとの激しい戦闘によりルイスの体は限界を超えていた。
なにより、感情の無い状態のルイスは体の負荷の限界を超えた動きをさせる。それは肉体的にも精神的にも大きな疲労を伴うものだった。
「大丈夫?」
思わず地面に倒れ伏したルイスをセシルは上から覗き込む。
「なんとか、な」
荒い息をつきながらもルイスは何とか言葉を返した。
ルイスの改造された肉体は、銃で撃たれた傷口から出る血をすでに止めていた。
「周りはひどいことになっちゃったね」
ルイスに喋る余裕があることを確認したセシルは自分たちのいる路地裏を見まわした。
そこは先ほどの戦闘の様子がまざまざと残っており、まさに戦場の様相をしていた。
建物の壁面には銃弾の跡が残り、踏み固められていたはずの地面はあちこちが削れている。特にセシルの隠れていた鉄製のゴミ箱は大きくひしゃげていた。この状態を見ればなぜ周りの建物から人が出てこなかった不思議なほどである。
「まああんまり人の来ない路地裏みたいだからな。そこまで気にすることはないだろ」
ルイスの方はと言えばあくまで楽観視しており、この惨状にどう思うということもないようだった。
それはこういった状態の場所を見慣れているということでもあり、セシルは少し胸が痛んだ。
「とりあえずもう少し体力が回復したらここから離れよう」
「そうだね……」
ルイスの提案にセシルは返事を返すが、頭の中にはついさっきまで行われていた戦闘の様子がぐるぐると駆けまわっている。
(あのマキって子はルイスくんと関わりがあるみたいだった)
そしてマキはこうも言っていた。「ルイスの後釜」と。
(あの子はルイスくんと違って感情を全部失ったわけじゃないんだ)
喜び以外の感情が無いと言ったマキ。
そして彼は四兄弟だとも言っていた。
(ってことはあの子の兄弟達も『ルイスくんの後釜』ってこと……?)
それはルイスの去った後も彼の親たちが兵士を作りだす実験を続けていた証拠。
戦闘の途中で感情を失ったルイスは確かに冷酷非道な兵士となっていた。
マキに対して引き金を引くのを邪魔したセシルにも容赦なく銃を向け、迷わず撃とうとした残虐性。
なにより、今の状態のルイスを見る限り感情が無いことで肉体に限界以上の力を出させている。
人間が自分たちの能力にあえて制限を加えているのは学者の調べで判明しており、その知識自体は群島世界においても珍しい物ではなかった。
だからセシルにも分かる。そのリミッタ―を強制的に外し大きな力を行使することは肉体にダメージが蓄積していくであろうことを。
それは最終的に寿命を圧倒的に減らしていくであろう。
(何とかルイスくんが感情の無い状態にならないようにしていかないと)
ルイスとセシルの前にマキが現れたということはこれからもこうして戦闘が行われていくということである。
その度にルイスは感情の無い状態に陥っていては摩耗がどんどんと速まってしまう。
それを防ぐためにはどうすればいいのか。今のセシルには何も思い浮かばなかった。
「よし。帰るか」
「……うん」
ようやく歩ける程度に体力が回復したルイスは立ち上がり、大通りの方へと歩き出す。
(ルイスくん……)
セシルはその背中に何ができるのかいつまでも考え続けた。