第二章2
(俺はこいつを殺すだろうな)
感情の無い自分に身体は支配されていても、春宮ルイスの人格はこの戦いを眺めていた。
それは映画を見ているようなもので、どんなにその状態を変えたくても自分が干渉することはできないものだった。
「行きますよッ!」
自分の目の前ではマキが声を上げて突っ込んできていた。その手に握られたスコーピオンからは絶えず弾が発射されている。
(セシル……)
たとえ自分が勝てたとしても、この戦いはセシルの心に大きな傷を残すのではないか。
ルイスの頭を占めるその考えはしかし、現状を変えてなどはくれなかった。
「終わりだ」
弾が当たらないように複雑な動きを繰り返しながらマキは迫ってくるが、それに対しルイスが放ったのは一発。
「ガッ!」
正確に胸を射抜いたその一発はマキの膝をつかせた。
「ここまで正確に……? 正直、感情の無いあなたを……なめて、いましたね」
どうやらスーツの下には防弾チョッキを着ていたらしく、すぐに死にいたるということはないようだが、それでもかなり引き付けてから放たれたデザートイーグルの一撃はマキの動きを阻害するほどの威力があった。
「今度こそ死ね」
無情にも地面に手と膝をついたマキを見下ろしながらその額に銃を突きつける。
(また戻っちまうのかな、戦場の頃に)
どこか諦めの入ったその感情も、いつかは消える。分かっていてもどうしようもないことだった。
「ははっ、僕もここで終わりですかね」
マキも諦めのセリフをこぼし、ルイスが引き金を引こうとすると、
「待って!」
「……何をやってるんですか? お姉さん」
マキとルイスの間にセシルが割り込んでいた。
「ルイスくん、目を覚ましてよ! あなたはまだ感情を失っていないんでしょ!? だったら戻ってよ!」
「どけ」
セシルの必死の叫びもルイスには届かない。
「いや! その銃を下ろして!」
(セシル……)
今自分の体を支配するモノに言葉は届かなくとも、春宮ルイスの本来の人格には声は届いていた。
「邪魔するならお前ごと撃つ」
「!? そんな……」
無情にも今のルイスはセシルを撃ち抜こうとする。
だが、そんな行動に一番驚いていたのはルイス本人だった。
(なっ! やめろ! やめろ! やめろ!)
何とか自分を抑えようと念じ続ける。
自分の体の支配権を取り戻そうとする。
「死ね…………?」
ルイスの指は引き金を引いたはずだった。
「ルイス、くん?」
撃たれると思っていたセシルは思わず閉じていた目を開ける。
「指が……動かない」
その発言を聞いたセシルは直感的にルイスに呼び掛けた。
「ルイスくん。あなたにはまだ感情がある。さあ目を覚まして」
(セシル……)
「俺は」
ルイスの口はいつの間にかルイス自身の言葉を発し始めた。
「起きてんだよおおおおおおおおぉぉぉぉッ!」
「ルイスくん!」
どうやら元に戻ったらしいルイスに思わずセシルは抱きついていた。
「おい! 馬鹿! 抱きつくな!」
しかし、そんなルイスの制止もセシルには聞こえていないようだった。
「……何茶番劇を演じているんだか」
それを見たマキは一度撤退することを決めた。
「それでは僕はこの辺で失礼しますよ」
「あっ! 待て!」
セシルに抱きつかれていたことにより反応の遅れたルイスは結局マキを取り逃がした。
(あいつにはまだ兄弟がいる。しかもレオナルドもまだ……)
ルイスの頭の中には殺すべき標的が浮かぶが、今はどうしようもなかった。
とりあえずは残滓にすがりつく自分の感情にほっと一息つくのだった。
戦闘回終了です
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