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第02話「おごるから、頼むからあのお姉ちゃんには言わないで!」

実名隠しの極秘配信『お兄ちゃんねる』を、引っ越し初日の夜に秒速で義理の弟(同級生)に見つかった琴音。もしあのお姉ちゃんにチクられたら、私の人生はその時点で即死確定!? 生存本能に突き動かされた琴音は、翌日の放課後、氷河をあのファミレスへ拉致する――!

挿絵(By みてみん)


「お願いっ!! この通りよ、氷河くん……!!」


翌日の放課後。夕暮れ時の差し込むファミレス『デリデリ』のボックス席で、私はテーブルに額を擦りつける勢いで、目の前の少年に向かって深く頭を下げていた。

昨日の今日で、またしてもこの場所である。

だが、テーブルを挟んで対面に座る氷河くんの目は、昨日のお食事会の時よりもさらに数段階冷え切っていた。文字通り、ただの「痛い女」を見る、死んだ魚の目そのものだ。

二人の間には、湯気を立てる山盛りのフレンチフライポテトと、並々と注がれたメロンソーダ。

 

「……お前、昨日から何なんだよ」


氷河くんはポテトに手を伸ばすことすら触らず、心底めんどくさそうにカバンを抱え直した。


「引っ越し初日の夜に、ノックしてドア開けたら、液晶画面に向かって『愛人の座がぁぁーー!!❤』ってベッドでのたうち回って大絶叫してる姿を見せつけられて。で、今日の放課後は待ち伏せされて、ここに拉致られて。悪いけど、俺はお前のそのヤバいブラコン妄想に付き合う気も、関わる気も一ミリもねえから。帰るわ」


ガタッ、と氷河くんが席を立とうとする。


「待って! 待ってお願い行かないでーー!!(ガシィッ!)」


私は立ち上がり、テーブルを半ば乗り出すようにして氷河くんの袖を必死に掴んだ。

周囲に聞こえないよう、極限まで声を殺した必死の密談モードだ。


「いい? 氷河くん。あなたが見たものは、全て幻。いいえ、脳の錯覚! 私はただ、最愛のお兄ちゃんへの親愛の情を、少しばかり情熱的に表現していただけなの!」

「いや、どう見てもアウトだろ。ボイスチェンジャーまで使って音声加工の上からでも、隠しきれない狂気が廊下まで漏れてたぞ。もう手遅れだから離せ」

「離さない! お願いだから、これだけは聞いて!!」


私は涙目で、必死の形相で氷河くんを凝視した。


「最大の問題は……もし、昨日の私のあの姿と叫び(愛人計画)が、あなたの実の姉である理久お姉ちゃんの耳に一文字でも入ったらどうなるかってことよ!」


理久お姉ちゃん。

その名前を口にした瞬間、私の背筋に、昨日この場所で味わったあの「野生の天敵」に対する本能的な恐怖がビクッと蘇った。


『この街に住んでいて、あたしにおイタをしたら、どうなるかわかっているわよね?』


あの、笑顔のまま目の奥だけがガチのIT女帝だった理久お姉ちゃんの微笑み。

理由は全く分からない。自分が匿名で『お兄ちゃんねる』をやっていることなんて絶対にバレているはずがないのに、私の生存本能ははっきりと告げていた。

もしあの人に邪念がバレたら、社会的、あるいは生命的に、この街から私の存在そのものが消し飛ばされる、と。


「……思い出しただけでも冷や汗が出るわ」


私は本当に背中を伝う嫌な汗を拭いながら、すがるように氷河くんに詰め寄った。


「お願い氷河くん! 理久お姉ちゃんにだけは、絶対に言わないで! 昨日の夜のことは墓場まで持って行って! もしチクられたら、私はこの家からもこの街からも消されるかもしれないのよぉぉ……! 渡航先からリモートで消されるわ……!!」

「……姉貴がそんなに怖いなら最初からやるなよ。っていうか、俺は別に誰かにチクるほどお前に興味ねえし、家族の中でそんな泥沼のサスペンスに巻き込まれるの、こっちだって御免だ。だからもう離せ、俺は帰る」


氷河くんは本当に迷惑そうに私の手を振り払おうとする。

「関わりたくない」という彼の鉄の意志が伝ってきたが、ここで逃がしたら私の人生は薄氷の上だ。私はさらに身を乗り出して、必死の買収作戦へと打って出た。


「待って!! ポテト!! ポテトお、おごるから!!」

「……は?」

「ポテトだけじゃない! ドリンクバーだって、なんならデリデリのハンバーグだって、あなたがここに来たい時はいつでも、私のお小遣いから何でも奢るから!! だからお願い、その代わりにあのお姉ちゃんには絶対に秘密にして、私の『お兄ちゃんねる』を黙認してーー!!」


涙目でポテトとハンバーグの永久おごり特権を並べ立て、必死の形相で詰め寄ってくる限界ブラコン女。

氷河くんは、その猛烈な勢いに完全に圧倒され、呆れ果てたように深く、深ーーく溜息をついた。

この痛い女をこれ以上刺激して、さらにややこしいドタバタに巻き込まれるのは、彼にとって一番避けたい事態だった。


「…………はぁ。分かった、分かったから声を落とせ。お前の奢りなんてどうでもいいけど、これ以上ここで騒がれる方が迷惑だ。姉貴には何も言わないし、お前の配信にも一切関わらない。……それなら、もういいだろ」

「本当っ!?!?(パァァアアア、と顔が輝く)」

「ああ。だからその手を離せ。……あと、せっかくお前が頼んだんだから、そのポテトは残さず食えよ」


氷河くんは、やれやれと首を振りながら再び席に腰を下ろし、冷めた目でメロンソーダのストローをくわえた。

こうして、琴音の必死の怒涛の詰め寄りにより、実質的な口封じの裏契約


 ――通称『デリデリポテト契約』


が成立したのだった。

私の財布にとっては大打撃だが、理久お姉ちゃんにバレて社会的生命を抹殺されるリスクに比べれば、ポテト代なんて安いものである。


(これで最悪の身バレと即死ルートは回避できた……! 氷河くんの口さえ塞いでおけば、私の『お兄ちゃんねる』と、お兄ちゃんへの特別席を狙う作戦は安全圏よ、むふふふ……!)


そんな私の内心の邪念など、目の前の少年には全てお見通しのようだった。

「……顔に邪念が戻ってんぞ、舞阪」と、氷河くんは死んだ魚の目で、手つかずだったポテトをようやく一本、面倒くさそうに口に運む。

自分の『お兄ちゃんねる』が、実は前の時点で、大ボスの理久お姉ちゃんにはとっくに初見で一発看破されているとも知らず――。

私は「氷河くんを買収できたから完璧!」と、今日一番の安心した笑みを浮かべて、ドリンクバーの炭酸を喉に流し込むのだった。


(第02話「おごるから、頼むからあのお姉ちゃんには言わないで!」おわり / 第03話へ続く)

すでに理久の前では詰んでいるとも知らずに、琴音の埋葬に巻き込まれる氷河は? 理久が結婚を急いだ理由とは?

「お兄ちゃんねる」はこれからどのような運命なる?



メインヒロインの舞阪琴音が歌う「いんらぶ 〜 Love between siblings-in-law 〜」の前期ED主題歌です


『お兄ちゃんねるはもうおしまい?!』


架空アニメ 「いんらぶ 〜 Love between siblings-in-law 〜」 OP主題歌


歌:舞阪琴音


https://suno.com/s/qwdiLnxhzYf8LzWV

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