ボスフロアの隠し部屋
「ちょっと休憩します」
壁を背にして座る。
ボスの後なので、余韻と疲労感が大きかった。
『ボスフロアで休憩するスタイル』
『まあ、リスポーンはまだ時間かかるから』
『おつかれ』
『目は大丈夫?』
「はい。大丈夫です」
アイテムボックスからペットボトルの水を取り出し、水分補給する。
『二キ様、お話して~』
『お声聞きたい~』
『女湧くとコメント欄がうるさいな』
『クソキモなガチ恋勢湧くとロクなことが起きないからな』
『画質が粗い。見づらい。トークつまんない。ブラバするわ』
『ソロ狩りは単調。キツいから離脱する』
影山は携帯を取り出し、コメント欄を確認する。
(うむ。人が増えたから、荒れ気味になったり、否定的なコメントもつくようになったな)
こういった時の対処方法は、あまり思い浮かばなかった。
つい、相談できる人、教えてくれる人がいれば……と、思わなくもない。
配信アプリのマイページを開く。
DMには、大量のメッセージが届いていた。
「うわっ」
思わず、声が漏れる。
“どうも! シャークスチャンネルです。配信見ました、もしよければウチとコラボしませんか? 必ず、損はさせません!”
“透視スキル、素晴らしいですね! ぜひ、私とコラボしませんか? 共に未開のエリアを攻略しましょう!”
“突然のメッセージ、失礼します。当事務所に、壁破壊二キ様の参加をぜひとも検討していただきたいと思い、このたび連絡いたしました”
コラボ依頼やら、よくわからない勧誘など、盛りだくさんである。
あまり意識して見ていなかったが、知らない間にすごいことになっていたようだ。
『どうしたの?』
『変なコメントは気にすんな』
『女性とかガチ恋云々はありがちだから。放っておくのが吉』
『ブロックもどんどんした方がいい』
「い、いや、そのことじゃなくて、DMがすごい来てるから驚いたんです……なんか、コラボ依頼って書かれてます」
『でしょうね』
『知ってた』
『引っ張りだこだね』
『ええやん。受けてあげたら?』
「嫌です」
『嫌です(即答)』
『その返事はなに(笑)』
『未開エリア目的のやつもいるだろうしなぁ』
『顔目的もいそう』
『推し以外はダメなのかな』
『二キの推しって、他にはいないの?』
「いないですね。実はダンジョン配信に、そこまで詳しくないです」
『浮気してなかったのかぁ』
『ネオファン知らなかったし、詳しくないだろうなとは思ってた』
『ガチ恋勢の私、涙』
『二キのコラボは正直、見てみたいけどな』
『俺もパーティーでの二キは見たい』
『まあ、本人の好きにさせようや』
『二キがやりたいように、やればええんやで』
(やっぱりコラボっていうのは、需要が高いのか)
大手配信者で、コラボお断り、未経験なんて人はほぼいない。
ダンジョン配信においても、それは同じであった。
「さて……軽く、この辺りも透視で見てみます」
ボスフロアの壁も、透視で見る。
すると一番奥の右端――そこに、青白い亀裂があった。
影山は“線”にそって、ガンブレードをふり下ろす。
ボスフロアの壁の一部が、豪快な音を立てて崩れ落ちた。
人がすれ違える程度の、狭い通路。
同じ色の土壁が、斜め下へ向かって伸びていた。
『ボスフロアの隠し部屋!』
『絶対なんかあるだろ』
『なんか狭いね』
「そうですね……モンスターが出ないことを祈ります」
影山はスピードタイプのステータスなので、狭い場所での戦闘は不向きだ。
慎重な足取りで中へと入る。
下へ降りていくと――木箱の宝箱が見えた。
『宝箱だ』
『たまに湧くやつか。空の時もあるけど、これはどう出るか』
影山は木箱に触れ、中身を空ける。
瞬間、箱は魔力となって消えて、中身だけが残った。
拳サイズぐらいの、透明な光輝くクリスタルが10個入っている。
1つ手に取ると、とても軽い。
そして濁りのない透明で、ほんのりと金色に輝き、とても美しかった。
「宝石……?」
手に取った瞬間――とても不思議な感覚がした。
体の底から、力が湧いてくる。
そして気づく。宝箱を空けてから、辺りの空気が急激に澄んだのだ。
直感だが、クリスタルからは強い力を感じた。
『パッと見はダンジョン産のクリスタルだね。Aランクのレアアイテムだよ』
『は?』
『マジ?』
『ここはEランクダンジョンだぞ』
『鑑定スキルを通してないから、断言はできないけど。多分、クリスタル』
『うーん。違う気がするんだよな』
『わかる。うっすら金色に光っている。クリスタルが放つのは、青の光なんだよな』
『俺にはわかる。かなり異質な力を感じる』
『なんかヤバそう』
『査定が楽しみだな』
(未発見アイテムなら、お金はまた明日かな?)
影山はクリスタルを回収し、立ち上がった。
瞬間。
――どくん、と。
心臓が大きく高鳴った。
アイテムボックス越しでも、回収したクリスタルが存在を主張するような――あるいは、すでに影山の体内へ、なにか力を流し込んだかのような。
そんな奇妙な感覚が、襲いかかったのだ。
『どした?』
『大丈夫?』
「は、はい。大丈夫です。とりあえず、ここから出ます」
影山は呼吸を整えつつ、隠し部屋を出た。




