冒険イノベーションズ、検挙される
冒険イノベーションズのオフィスは、ビルの4階にある。
朝の9時。社長が出勤していなかった。
誰もが不思議に思いつつ、9人が業務をスタートさせようとした、その時だ。
ドンドンドン、とオフィスの扉が荒々しくノックされる。従業員の1人が怪訝そうに、扉を開く。
通路には、ゾロゾロと20人を超える警察官がいた。
警察の1人が、礼状を突きつけてくる。
「――警察だ。無許可製造、販売、違法取引によるダンジョン法違反、無許可営業、安全基準適合義務違反、商標法違反で令状が出ている! 強制調査だ、入るぞ!」
「え? え?」
従業員が目を丸くするが、警察はズカズカと厳めしい雰囲気でオフィスへ入っていく。
社員は誰もがなにが起きているのかわからず、顔を青くする。
影山の元同僚の男は、我に返って怒鳴り声を上げた。
「お、おい! ふざけんな! 俺達はなにも悪いことしてねぇだろ!」
だが、若い男の刑事が奥に保管された製品を取り出していく。
「ありました。これですね」
「ああ……しかし、こんなことは初めてだ」
「初めて?」
「彼らの顔と雰囲気を見ればわかる。違法なことをしているという自覚が、本当にないんだ。ECサイトを使った無許可営業を取り締まったことはあるが、こんなにも無知な容疑者達は初めて見る。異様な光景だ……」
ベテランの男刑事がため息をつく。
影山の元同僚が両腕をオラオラ振りながら近づいた。
「おい! 勝手に触るんじゃねぇ!」
ベテランの警察はパチモンガンブレードを持ち、影山の元同僚へ見せた。
「お兄さん。協会に無断でこういったものを販売したり、素材を売買することをどう思っている?」
「画期的なビジネスモデルだろ! 俺達の会社の武器だ! バカには思いつかない、唯一無二のアイデアだ! それを違反だなんて、言いがかりだ!」
若い警察官が口をあんぐりと開けた。
逮捕される時に出る、見苦しい言い訳とはまた違う。
本気で状況を理解できていない人間の顔と声であった。
従業員達も、なぜこんなことに……? なにが悪いんだ……? と、不思議そうにしている。
彼らはインターネットでの炎上もちゃんと把握しているが、”バカ共が嫉妬して騒いでいるだけ”という認識だ。
やはりか、とベテランの警察は肩をすくめた。
「許可というのは、必要だから法律で定められているんだ。例えばだが、世の中に流通している車だって、国土交通省やNTSELから安全性確保のため、厳しい調査と監査が行われている。君達が加担したことは、これを無視した、ということなんだ。きっちりとした機関の安全テストを無視した、ルール違反の車に君は乗りたいかい? そしてそれがコスト削減になるからと、無視する行為が世間から許されると、本当に思うのかな?」
「え、あ……」
「少しは、事態がわかったようだね」
ベテランの警察は声を上げる。
「ここにいる従業員全員、取り調べの対象となる。署までご同行願いたい!」
こうして社長を除く、冒険イノベーションズの連行が始まった。
子供のように諭された影山の元同僚は、しょんぼりと肩を落としながらも、歯ぎしりをした。
「くそ……なんで、俺ばっかりこんなことに。あのチー牛が成功したのに! おかしい! そうだ! 俺は悪くない! なにも悪くないんだ!」
パトカーの中で、彼はいつまでも、俺は悪くない、チー牛に負けるわけがない、と連呼していたという。
☆
時間は少しだけ遡り、早朝。
「ちくしょう、話が違うぜ……!」
アパートから出た冒険イノベーションズの社長は、ガサ入れのタレコミが入ったので、飛ぶために駅へと向かっていた。
「出来るだけ遠くに……クソ。最悪、海外か?」
しかし明確な逃走プランがない。
迷っていた、その時だ。
「よう、にーちゃん。どうした、顔青くして」
「っ!?」
一目見て、ヤバい奴だとわかる“危険”な人間が、社長の前に立ちふさがった。
170後半の身長。オールバックの前髪。肉食獣のような凶悪な顔立ちに、体に掘られた入れ墨。
そしてその右手には、ロングソードが握られている。
早朝とはいえ、駅前だ。
それなりに人通りはある。
それなのに――なにか探索者のスキルを使っているのか、通行人に認識されない。
社長だけが、彼を認識していた。
「あ、あぁぁ……」
「今回はちっとばかし、おイタがすぎたなぁ。この世界に足を突っ込んだからには、ケジメをつける覚悟はあんだろ?」
「けけ、ケジメ?」
「にーちゃんにタレコミしたヤツも、通さなきゃいけねースジがあった。だから、にーちゃんもスジを通さねーとなぁ」
「おお、俺は、ちょっとお前達みたいなヤツらに、協力してもらっただけだ! ちょっとだけだ! だから、や、ヤベー情報なんて持ってねーし、不義理もしてねぇ!」
「そりゃ、にーちゃんは小物だからなぁ。パクられたところで、まずいことは起きづらいだろう。けどよ、わりーがそういう問題じゃねーんだ。この世界に来たからには、こっちのスジってモンを通さねーといけねぇんだ。わかるだろ?」
「ひぃ……」
身の危険を感じた社長は駆け出そうとした――その瞬間には、胸にロングソードを突き刺さっていた。
男は腕を前へ押し込み、とずぶぶぶっ!!! と、刃が社長の胸を貫く。
「がはっ!?」
社長が口から大量の血を吐く。
そこまでいってようやく、通行人の1人が気づき、悲鳴を上げたが――まだ、ロングソードを持った男に気づいた様子はない。
「安心しな、にーちゃん。そのタマに免じて、社員に関してはサツの連中に任せるからよぉ。俺達からヤキを入れられるのは、にーちゃんだけだ。それだけは、絶対に約束してやるよ」
「ぐ、ふっ、ああぁぁぁぁ……」
剣を抜かれ、血だまりの中に社長は倒れた。
ロングソードを持った男は、剣をアイテムボックスへ収納した
「じゃあな、にーちゃん。次は地獄で会うかもなぁ」
そう言って、静かに去っていく。
社長は薄れゆく意識の中で、譫言を呟く。
「俺は、成功、するんだ……! ネオファンを、超える会社を……! チー牛を、潰して……!」
それが社長の、最期の言葉であった。




