格上狩り。レベル3へ
コメント欄へ混乱が走る。
壁破壊から接続数がさらに伸びて“70”となっているが、喜んでいる場合じゃない。
『いやいや、無理だから!?』
『おつかれ。そしてサヨナラ』
『なに構えてんだよ!?』
『逃げろ!』
『退け!』
『待て、出口は塞がれたんだぞ!?』
『透視でワンチャン?』
『無謀だ! レベル差がひどい! 相手は推定レベル10以上だぞ!』
『やばいやばいやばい』
『やっぱり調査が入っていないとこは、行くべきじゃなかったんだ』
『初見殺しすぎる』
様々な意見が飛び交っていた。
だが、影山は後悔していない。
(勝てばいいだけだ)
しかしその判断が過酷な道であることは、すぐ判明する。
クモは口を開き、糸を吐いた。
糸はスピーディーに影山の体に、べったりとまとわりつく。強度・勢い共に信じられないほど強く、影山の体は浮き、床へ叩きつけられた。
「っ、とれない……!」
ネバネバとした、高密度な糸が体中に張り巡らされており、動けば動くほど縛られる。
腕や足は動かせるものの、芋虫みたいな状態なので、移動することは不可能だ。
「シャアアアアアア!!!」
クモが恐ろしい声を上げながら、ゆったりと歩んで近づく。
勝ち確。そう思っているのかもしれない。
『あああああああ』
『死んだ』
『マジかよ』
『ナイフ! 糸を切って!』
音声が読み上げたコメント。
アイテムボックスからナイフを取り出し、右手で握る。
すぐさま透視スキルを起動。お腹にまとわりつく糸に、長い線が浮かび上がるのが見えた。
手際よく左手で糸を持ち上げて、ナイフの刃で線をなぞる。
当たった瞬間、パチンっ!!! と、糸が弾けるように切れ、影山は逃げ出した。
『おおおおおおっ!』
『一発で切ったのか!』
『透視TUEEEEE!』
『ワンチャンあるやん!』
『残念ながら彼の透視スキル、クールタイム20秒です』
『さらに効果時間は1秒の模様』
『なんだよそれ!』
『ダメじゃん!』
『あと20秒逃げ続けるなんて無理だろ!』
クモがこちらを追いかけながら、糸を吐く。
今度は常に走っているので、ギリギリのところで回避できた。
しかし糸の勢いはすごく、予備動作も少ないので、どれも紙一重。
肩や、肘、手をかすって、ネバネバとした感触がまとわりついた。
それでも走る。とにかく動き回り、粘って時間を稼ぐ。
体力が緊張感で削られ、息が苦しい。喉も痛み、全身が熱くなる。
手が震えた。
経験したこともない、圧倒的な恐怖だ。
(これはヤバい。死ぬかも。逃げたい。でも……だからこそ、楽しみだ)
同時に感じるのは――これを乗り越え、クモを倒せたら強くなれるのではという、ワクワクだ。
イカれたその思考は、強さを求めなければいけない探索者として、才能があることを示していた。
その陰キャ、秘められた戦闘狂が覚醒しつつあるのだ。
『怖い』
『もうダメだ』
『走れ、絶対に止まるな!』
『死んだだろ、これ』
『ギリギリすぎる!』
「あれ」
影山が小さく声を上げる。
走り抜けた先は、土壁が立ちふさがる行き止まりが待っていた。
『逃げ道がない!』
『通路もう終わりかよ!』
『そんな!?』
しかし時間は十分に稼げた。
20秒だ。肩で息をしながら、振り返る。
「シャアアアアアア!!!」
クモは仕留められないのにイラだっているのか、前進して突っ込んでくる。
運が良い。糸を吐かれるアクションの方が、近づけなくて嫌だった。
ナイフをアイテムボックスへ収納。
これ以上、逃げ場はない。故に外すことは死を意味する。チャンスはたった、1回だけだ。
この頼りない、素手一本で勝負する。
「透視……起動。弱いところを見せろ」
長い前髪の下で、青く光った瞳が敵を見る。
クモの頭上だ。そこに“点”が映しだされている。
「……っ!」
小さく息を吐き、前へ思いっきり踏み出した。
ビキナーズラックなのか……キレのある、真っ直ぐな良いパンチを放つ。
その拳はクモの頭上に見事、当たった。
瞬間、クモはびくんっ!!! とその場で小さく跳ねて、8つの足を忙しなくバタバタさせた。
怯んでいる。そして間違いなく、痛がっていた。
『やった!』
『すげええええ!』
『いや、まだだ! 油断するな!』
ここからは追い打ちだ。アイテムボックスからナイフを再び取り出し、移動しながら斬りまくる。
ざしゅっ、ざしゅっ! と、攻撃力が低く、格上のクモの体を傷つける程度。
だが、弱ったクモには十分なダメージだ。
糸を吐かれたが、先ほどのような勢いがない。
しっかりとクモの攻撃を回避し、ナイフで何度も斬りつける。
そして10回目の一閃と共に、ついにクモがバタンと倒れた。
その体が、魔力の光となって消え始める。
システム音が、彼のレベルアップを告げた。
『――影山 光のLVが3へ上昇しました。HP+6 MP+3 攻撃+2 防御+2 魔力+2 精神+2 俊敏+6』
影山 光 LV2→3
HP 25→31
MP 4→7
攻撃 2→4
防御 4→6
魔力 3→5
精神 4→6
俊敏 16→22
『マジか! 倒しやがった』
『よっしゃあああああ!』
『これはナイス!』
『もうレベル上がったのか。早すぎる』
『まあ、これだけの格上相手だからね……』
『前よりも、数値が伸びている……か?』
『俊敏+6は高い』
『レベル一桁帯は”+3”が平均なので、平均以下ですね』
『基礎ステには恵まれないのか?』
『てか、レベル2の男1人でDランクモンスターを狩るなんて映像、あるか?』
『ない』
『あるわけない』
『まずやろうと思わない』
『初回配信で歴史を塗り替えまくる男』
『運も良かった』
『最後クモが雑に突っ込んできてたからな』
『モンスターも舐めプするのか』
『低レベルソロが良い方面に働いた……のか?』
影山は一安心して、ふう、と息を吐く。
「……ここから出ます」(ボソボソ)
『リアクション薄くて草』
『戻ろう。すぐ戻ろう』
『こりゃとんでもない冒険者が出てきたな』
『同接増えてるぞ』
『いやこの内容で153は少ない。日本中が見るべき』
アプリを確認すると、接続数は“153”と表示されている。
すごい数字だ、と影山は思った。
(こんな冴えない男1人の配信を、153人も見ているのか……可愛いあさひちゃんよりずっと多い……なぜ……?)
影山は困惑しながら、疲労のたまる体で来た道を戻った。
本作の閲覧ありがとうございます。
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