よけいな出費と、彼女の悲しげな声
──少しずつ、この状況にも慣れてきてしまっている自分が、なんだか怖かった。
椅子に座るたびに、シトリが「ん……っ」とか小さな声を漏らし、
寝るときは、ネムが「ご主人様……」と嬉しそうに体を預けてきて、
ごはんはクッカが作ってくれて、
本を取ろうとするとリブリアが「ご主人様、それは……」と顔を赤くして目を逸らす。
──異常だ。どう考えても、異常なはずなのに。
でも、その温かさや、柔らかな笑顔や、香りや、触れたときのぬくもりが、
じわじわと日常に溶け込んできているのを感じていた。
「…………。」
ただ──やっぱり、申し訳ないと思う気持ちもあった。
シトリに座るたびに「んっ……♡」なんて声を聞かされるのも、
ネムに「一緒に寝て……♡」と手を引かれるのも、
どうにも落ち着かない。
俺だって一応、男だし。
罪悪感、って言えばいいのか。
なんだか、心のどこかがザラつく感じがあった。
だから、思い切って、スツールを買った。
「……よけいな出費だな。」
財布を開いたとき、そんな言葉が自然と口を突いて出た。
でも、これで少しは普通に戻れるだろう。
そう思いながら、重たい段ボール箱を抱えて帰宅した。
玄関を開けると、いつものように「おかえりなさいませ、ご主人様……!」と家具娘たちが迎えてくれる。
「ただいま。ああ……ちょっと荷物があるから、先に部屋に置くな。」
靴を脱いで、段ボールを持ったまま部屋に入ると、
シトリが嬉しそうに小走りで近づいてきた。
「ご主人様、おかえりなさい……! あの、今日も……」
そこでシトリの言葉が途切れた。
視線の先で、俺が段ボールを開けて、スツールを取り出すのを見た瞬間。
「……え?」
シトリの表情が、みるみる引きつっていくのが視界の端に映った。
口元がわずかに震え、
瞳が潤んで、ガラス玉のように揺れている。
肩が小さく震えて、
その場に立っていられないように、がくりと膝をつく。
「ご、ご主人様……それ……」
小さな声が震えて、
まるでこの世の終わりみたいな、悲しい音が混ざっていた。
「…………。」
俺は、一瞬、何が起きたのか理解できず、
ただシトリの顔を見つめたまま、
固まった。




