鬼酒の盃
酒呑童子からの頼みは
『先の戦いで各地に封じられてしまった酒呑童子の力を探し出し、取り戻して欲しい』
というものだった。
雄太はひとつ疑問に思う。
「あの、なんで僕なんですか……?」
そんな願いならば酒呑童子が自分で探して取り戻したほうが効率がいいだろう。みりんに任せたっていいはずだ。
「理由は二つある。」
そう言って酒呑童子は雄太に説明してくれた。
一つ目の理由は、己の力相手では酒呑童子の攻撃は通用しないというものだった。
────待て、攻撃が通用しないって
俺、何かと戦うってことか?!
酒呑童子によれば、各地に散った酒呑童子の力というは、元々みりんのように人の姿を持っており、それぞれに司る12種類のお酒があるそうだ。
そのうちの9種類のお酒が現在それぞれの祠に祀られており、その力を手に入れようと近づくものには一切容赦なく襲いかかってくるという。
特殊な封印が施されており、同じ力同士では力を吸収し合うだけだが、雄太のような別の存在を介すことで初めて酒鬼に対抗することができるのだそうだ。
鬼の間では弱者は強者に従うというのがルールのため、戦いに勝って鬼を屈服させれば、鬼は大人しくなり、雄太にも力を分けてくれるのだという。
「あの……いくらなんでも鬼の力相手に人間の俺が敵うとは思えないのですが……」
雄太はおずおずと挙手をして、酒呑童子に話を聞いていた感想を述べる。
そこへ、鬼の形相をしたみりんの一喝が飛んできた。
「貴様、酒呑童子様の話を遮るとはっ!この無礼者めっ!」
ガルルル……と威嚇するみりんを、酒呑童子は「良い、良い」となだめて話を続けた。
「そこで、二つめの理由だ。」
そう言って酒呑童子は雄太の左手を指差す。
雄太は刺青のある左手をが指差された理由がわからず、くいっと首を傾げた。
「雄太、お前のその左手の印は『鬼酒の盃』と言って、俺たち酒の鬼の力を使うことが許されたただ一人の人間という証なのだよ。」
「きしゅのさかずき……鬼の力を使うことができる人間ですか?」
雄太は初めて聞く単語に頭が追いつかず、言われた言葉をただ繰り返すことしかできない。
「そう。そして、その印が現れるのは誰でもいいという訳ではない。
私たち鬼が与える酒を飲み、精神力、体力、知力共に優れていなければならない。
更に、酒にすぐ呑まれるような人間は向いていない。
喜べ、雄太。お前はあまたの人間達の中から選ばれた特別な存在なのだ。」
『選ばれた』なんてことを言われたって、この刺青は雄太がずっと忌み嫌ってきたものだ。
『お前は特別な存在だ』と言われたところで喜べるはずもない。まさかそんな目的があって現れたものだったとは。
────というか、この刺青の元凶はお前か!
酒呑童子!!
内心怒りは覚えたが、現在自分は借金のせいで全く逆らえない立場のため、怒り散らすのはなんとか堪えた。
「でも、鬼から貰った酒なんて、僕飲んでません。」
雄太が今まで飲んできたのは、全て市販されているお酒だった。何か特別な物は飲んだ覚えがない。
「ふむ、そうか。ちなみに、お前日本酒は好きか?」
「はい……好きですけど」
唐突になぜそんなことを聞かれるのか皆目見当つかずに雄太は遠慮がちにそう答えた。
「俺の部下は優秀でな、この事態を打開するため、盃の適合者を探すよう指示していたんだ。」
先の見えない話に、雄太は「はぁ。」と相槌を打つ。
「適合者を探すには、俺達の力が宿った酒を飲ませるしかない。
そこで、俺の部下である日本酒を司る酒鬼に、人間の間で売られている全ての日本酒に干渉させ、鬼酒の器たる者が現れるのを待っていたんだ。」
「盃の適合者以外の普通の人間が飲んでも特に害はない。」と付け加えながら、酒呑童子は得意げに笑う。
つまり雄太はこの鬼の「力が無くなって困る。取り戻さねば。」という勝手な都合の為だけに、この数ヶ月間、好奇の目に晒され、避けられ、恐れられ、苦労してきたということになる。
そう考えるとやっぱり腹が立ってきた。
「……ぇの……せいで……」
「なんだ、どうした。」
先ほどまでと纏う空気ががらっと変わった雄太に酒呑童子は少し驚いた顔をする。




