水虎の決断
怨嗟の声が響き渡る。
朧車が田んぼに消えて行く。
結局二人を殺したのは後から来た楠葉の御蔭だったな。
まぁ、楽出来たから良かったと言うべきか。
問題は二人が死んだことで今のラボ三班がどう動くか、だろうな。
そろそろ本格的に追われると見た方がいいかもしれない。
それに……ラボがこの島にも、しかも自分がいるクラスにまで二人も潜んでいたんだ。まだ潜んでないとも言いきれない。
仲間のように近づいてタイミングを見ている敵。
もしかしたら雄也が? 根唯が? あるいは……
やっぱりここに残るのは危険なんじゃ?
思えば思うほど深みに嵌る、疑心暗鬼のトラップ。
正直知り合いが誰も居ない方がやりやすい気がしなくもないが、ヒルコがそれなりに楽しんでいるのを奪い去るのも私には出来そうにないことだ。
結果的に敵が襲ってくるまで待ちの構えを取ることになってしまう。
「小雪、刈華、なんか巻き込んでごめん」
「まったくよ、こうならないために私達この島に来たんだけど」
「何よ刈華、有伽と一緒に居られるのよ、最高じゃない」
小雪は普通の会話が出来ないのだろうか?
ほんとこのツンデレストーカーはなんとかしてほしい。
かまってちゃんなのに構ってやるとツンツンしやがるのだ。
「高梨先輩、そろそろ妖能力解除して大丈夫そう?」
「そう、ね。もう三十分は経つし、そろそろ酸欠になってても良い気はするけど……」
「あら、人間って結構しぶといわよ、生き埋めだと一週間以上生存確認されてるし」
「それは水がなかった場合でしょ、沼に引き込まれた場合空気が水に置き換わるから下手に口を開くとおぼれ死ぬんじゃない」
刈華の言葉に反論を上げてみる。
そのせいで楠葉も悩んでしまい能力の解除を先延ばしにしたようだ。
「ね、ねぇ、さすがに、さすがにもうやめよう。これじゃ事故でも正当防衛でもなく殺人ですわ」
青い顔で楠葉に縋りつく秋香、さすがになんか可哀想になって来たな。
一般人なのに暗部の闘い見せつけられたんだし、警察にも頼るべきじゃないと言われたら良心をどこに持って行けばいいか分からなくなるのもうなずける。
とりあえず、彼女の心の安寧を手に入れる為にも迷い家に戻るか。
「さて、とりあえず一旦迷い家に戻ろうか」
「あ、じゃあ私は帰ります。母に無断で抜けて来たので」
楠葉だけは用事終わったと自宅に帰るようだ。お前、母親居たんだな。
というか静の実家がここなのか?
あの馬鹿犯罪組織の一員みたいなことやってんだけど家族の安全考えてなくね? 一家揃って止音君の関係者だったりするんだろうか? それなら問題は無いんだけど。
能力を解除して去っていったので、私達も帰ることにした。
とりあえず朧車と不落不落は死んだと思っていいだろう。
今後はそのつもりで動くが、一応土筆に脱出されてないか確認して貰おう。
いや、明日もう一度楠葉に来て貰って死体の確認するのが確実だろうな。土筆と一緒に会いに行こう。
んで後始末は土筆におまかせ、で。
そして戻って来た学校の校舎横。雄也は内部に入った後全員が寝てると勝手に決め付けたようで迷い家ともども異世界に消えていた。
根唯達も本日はご一緒らしい、当然土筆たちもである。
「やっちまった」
「今日有伽家ないねぇ」
「うちの下宿先でよければ来る? 小雪いるけど」
「秋香、今日泊めてください切実に」
「え? ヤですわ」
即答かよ!?
溜息吐いて秋香を家に送るために皆で移動を開始する。
「結局、どうなってますの? 私、どうしたらいいんですの?」
「説明はそうねぇ、根唯にお願いするのが一番かな? というわけで明日根唯に聞いてみて」
幸運を司る彼女なら悪いようにはならないだろう。
秋香は今日一日悩んで貰って、聞きたい事をまとめた後で根唯に明日尋ねて貰うことにした。
そして私は……
本日刈華と小雪の部屋に案内されて、川の字の真ん中にされて寝ることに。
途中刈華を自分と入れ替えておいたが、正直貞操が危なかった。
小雪の奴普通に襲いかかって来たからな。
キスしようとして刈華だったことに気付いた小雪と起きた刈華が見つめ合って悲鳴上げてたとだけ言っておく。
もう小雪の近くでは絶対に寝ない。
あいつは滅茶苦茶危ない。おもに被害受けるのはヒルコだけど、できるだけ近寄らないようにしよう。
次の日、とりあえず登校と同時に雄也を殴って根唯に昨日あった事を告げる。
秋香が聞きに来る事を告げたらなんであたしが!? と嘆いていたけど、私と関わると言ったんだからこのくらい責任持ってくれ。
そして、今私の周辺で何が起こっているか知らされた秋香は……決断したらしい。
私と敵対するのか、それとも……
放課後、二人きりで会いたいと言われたので、私は楠葉に放課後会う約束をしてから指定の場所へと向かうのだった。




