起死回生の氷柱
本来であれば水虎の仕事である。
重量のある朧車相手に私ではさすがにキツい。
危険を察知したのか畦道から外れて凍らせた田んぼの上に避難する小雪と刈華。
ついでに秋香も一緒に避難済み。
完全に私と楠葉で何とかしないといけない状態である。
ハンマー程度でどうにかなるか? とりあえず真正面から一撃放ってもこっちの腕が壊れるだけだ。
なら初撃は、躱してからの側面への一撃。
迫る朧車の突進を軽く飛び退き避ける。
が、なぜか楠葉はその場に立ったままだ。
あの野郎なんで……まさか!?
即座に舌を伸ばして楠葉を絡め取り、ぎりぎりで朧車を回避する。
クソ、避け際の一撃叩き込めなかった。
朧車は少し通り過ぎた後、人型に戻りこちらを振り向いて再び巨大な朧車へと変化する。
下手に畦道を切りかえすよりも簡単な旋回である。
再び畦道に戻る。
田んぼの中に入るとぬかるみ足を取られて逃げ切れない恐れがあるからだ。
結果、マタドールのように突進して来る相手を避けて攻撃する戦法になってしまう。
とはいえ、芹先輩も猪突猛進型のようなので避けるのは楽だし攻撃も結構楽だ。
相手の大きさが大きさなので側面からのハンマー攻撃が結構ダメージデカい。
楠葉を回避させないといけないっていう面倒はあるけど。この一定パターンなら楽に倒せ……っ!?
避けようとした瞬間、朧車のライトが消える。
一瞬まっ暗闇になったことで焦るが、避けるだけは出来た。
カンを頼りに一撃必中。
朧車から悲鳴があがるが、そこまでだ。
なんとか畦道に戻るが目が暗闇に慣れてない。
朧車のライトが光源となっていたせいで瞬間的に暗闇に目が慣れなかったのだ。
それは朧車も同じはず。なのだが、相手は反転してアクセル踏み込むだけなので、迷いなく迫って来る。
音で見分けるしかないか?
タイミングを計って逃げようとした次の瞬間、唐突に光るライト。
マズい、タイミングがっ!?
思わず目を瞑ってしまった。ずらされたタイミングは致命的、もはや目の前に迫った朧車が笑みを浮かべているのが見えた。
「有伽!!」
そして……
そして、車輪の一つに巨大な氷柱が噛み込み朧車が片輪走行になる。
思わずしゃがんだわたしと楠葉の真上を通り、ガタンと音を立てて畦道に着地。そこで凍った畦道に滑って慌てて人型に戻った。
「あ、危っな!?」
「おしい」
「有伽。今の私が助けなきゃヤバかったでしょ! 惚れた? ねぇ、惚れた!?」
「一応あんがと小雪。そしてウザい」
ワンパターンな攻撃かと思ったけどこれはこれで面倒だな。
ただ攻撃を仕掛ける程度じゃアイツを倒すのは難しそうだ。
何かいい方法はないだろうか?
さっきは車輪に氷柱をジャンプ台みたいに噛ませたんだっけ。
待てよ、車輪っていったら……
槍、は無い、なんか長いのっていえば七枝刀くらいだろうか?
さすがにアレを使うのはもったいない。
「小雪ッ! 長い氷柱頂戴」
「おおぅ、有伽のために特大の作るわ!」
絶対張りきって馬鹿やるだろ。
普通ので良いんだよっ!
「そういうことっ。小雪、有伽に渡すのは長さは腕位、頑丈に作って!」
「がっちがちにするわよ。有伽に貴女の氷棒って、たくましいのね。って言われたいもの」
「あんたの表現なんか癪に障るんだけど」
「気のせいよ刈華」
迫り来る朧車を今回も避ける。
「小雪!」
「あいあいさーっ」
私の言葉で作られる巨大な氷柱。
武器を投げ捨てた私の手にすっぽりと収まる。
ちなみに金槌坊の金槌はヒルコが直ぐに拾って回収していた。よっぽど大事らしい。
「くら、えぇっ!!」
手にした氷柱を思い切り前の車輪へと投げつける。
車輪に突き刺さった氷柱が地面に杭のように突き刺さり車輪に急ブレーキを掛ける。
驚く朧車、しかし加速した彼女は止まらない。
結果……
バギャっと音を立てた車輪が一つ、吹き飛んだ。
地面に突き立った氷柱は車輪の隙間に差し込まれたことで梃の原理で車輪を破壊してしまったのだ。
硬く作られた氷だった御蔭で氷柱が壊れるより早く車軸が潰れたようである。
地面を擦りながら横転する朧車。畦道では止まり切れず田んぼの中へと落下する。
「ここからは私の仕事」
「やら、せるかァ!」
即座に変化を解いた朧車。田んぼに足を取られながらもぎりぎり草を掴んで這いあがろうとする。
上半身部分だけ沼の外に届いたのだ。
泥まみれになりながら必死に這いあがろうとする芹先輩。
しかし、楠葉も慣れたもの。引きずり込む力をさらに高めて芹先輩を田んぼの中へと引き摺り込んで行く。
引き込む力の方が強い?
ぶちぶちと引き離される草。
直ぐに別の草を引っ掴んで抵抗する芹先輩、しかし、全力全開の楠葉はさらに力を強めた。
芹の腰の後ろ辺りから、泥まみれの人型が現れる。
驚く芹の腰を掴むと、そのまま田んぼへと引き込み始めた。




