爆砕
「ど、どうしよう高梨先輩、わ、私、ひ、ひと、人殺し見ちゃった、ど、どうしたらいいんですの!?」
動揺する秋香。
楠葉を警察に突き出すべきかどうか迷って私に聞いて来たようだ。
しかし、私に聞かれても困る。私としても殺人は問題にしなくなってしまっているし、というか既に七人同行とか殺しちゃってるしなぁ、警察にはあまり出張ってほしくないし、で警察には黙っといてほしいんだよね。
「芹先輩も芦田も残念だけど警察に告げるのは勘弁してほしいかな」
「ど、どうしてですのっ!?」
「あいつらが所属してる組織が警察の癒着してんのよ。あんた知り合いや先輩を大量に地獄に送りたいの? 妖研究所、裏で人体実験してるわよ」
「……え?」
「皆そこで素材になってもいいっていうなら、今すぐにでも警察に言いに行けばいいと思うよ」
正直な話、警察に告げ口されるようなら仕方ない。雄也を連れだせるようだったら雄也の妖能力使って全員を詰め込み一緒に逃走するしかないだろう。
無理なら小雪たちだけでも連れて島を脱出、しかないだろうな。
二人の能力なら海を凍らせて渡るくらいは出来そうだし。
「う、嘘、ですよね?」
「本当です。警察に言ったが最後、ラボの組員殺したってことで貴女の仲間も根こそぎ捕らえて、罪の有無など関係無しに死亡扱いにして研究されるでしょうね」
私だけじゃなく楠葉からも言われてたじろぐ秋香、縋るように小雪と刈華に視線を送る。
「そうね、本土に居た時、私の友達、妖だとバレただけでグレネーダーの従兄に殺されたわ。人魂の妖使いは生きてるだけでも危険だっていう理由で、ね」
本当は生きてるけど、と小さく呟いていたが、秋香には聞こえなかったらしい。
正義感は強いのだろう、犯罪推理に参加しようとしていた訳だし、でも、下手に警察に言えば仲間も全て地獄に落ちると言われれば、殺人者だと声高に告げるのが本当に正しいことなのか、彼女には分からなくなってしまったようだ。
「とりあえず、一応ラボのメンバー二人は倒せたみたいだけど、そろそろ暗殺者共も本腰入れてきそうね。私が生きてるの、一班にもバレたかな?」
「可能性は高いですね。私も本腰入れて貴女の護衛を始めるとしましょうか、初めに田舎に行けって言われた時は戦力外通告かと憤った物ですが、紫音さんは結構先見の明がるようで」
「仕方ない、根唯達にも伝えておいた方がよさそ……っ!?」
「っ!? 皆逃げてっ!!」
咄嗟に声に出したのは楠葉。
自身も即座に飛び退く。
刈華は逃げたけど小雪が戸惑っていたので舌で絡め取って飛び退く。
しまった、秋香だけ逃せないっ!?
飛び退いた瞬間、直ぐ近くの田んぼが爆散した。
否、田んぼが盛り上がり朧車がロケットの如く飛び出したのだ。
水虎の能力を解除している上に呆然としていた秋香へと迫る。
あ、と一言だけ呟く秋香へと、朧車が突っ込んだ。
いや、違う?
私から伸びた半透明の何かがぎゅんっと引っ張るように秋香を引き寄せ私に激突させた。
なんとか受け止め畦道に倒れ込む。痛い、でもヒルコナイスっ。
田んぼから田んぼへ。
朧車が勢い付け過ぎ田んぼの中へと顔面から突っ込んだ。
直ぐに変身を解除して起き上がる朧車。
倒したと思って引き込むのを止めたことで足場の地面が硬くなってしまったんだろう。朧車が土の中で必死に車輪を回して脱出してしまったらしい。
すぐさま畦道へと上がって来た芹先輩が荒い息を吐きながら私達を睨む。
「し、死ぬかと思ったじゃない」
「すいません、殺す気でした」
迷わず告げる楠葉、全く悪びれた様子の無い彼女に、一瞬目を見開いた芹先輩は、額に手を当ててふふと笑う。
「ふふ、あは、あはははははっ、凄い、本気で私殺して良心の呵責すら感じないつもりだったって? ラボでもなかなか居ないよあんたみたいなの。よっぽどキてる一班の奴らとタメ張れんじゃない?」
「仕事なので」
本来であれば朧車の突撃は水虎が止めてくれるのだが、秋香はまだ困惑中だ。
一先ず小雪と刈華に任せて私は楠葉ともども前に出る。
「別に、手伝ってくれなくてもいいですよ?」
「いやいや、一応アイツが狙ってんの私なんでね「ワタシも手伝うよ」」
「……そうですか。まぁいいです、ご協力お願いしましょう」
ヒルコから取り出されたのは金槌。
金槌坊が持っていたものをヒルコが奪った奴だ。
小さなモノではない筈なのだが、これ、いつもどの部分に隠してるんだろうか?
ちょっと重量物だが刀やナイフで闘うよりは朧車に適した武器だろう。
ただ、相手は速度を付けて襲ってくる存在だ。場合によってはこれ、壊れるだろうけど大丈夫かヒルコ? 後で泣いても弁償はできないぞ?
「とりあえずなんとか田んぼに投げ入れてください、後は私がやります」
「オイ、それって私が手伝いに来なきゃ八方塞がりだったんじゃ?」
「ソレは言わない約束です」
抑揚のない声で告げる楠葉。本当に打つ手なしだったのかよ。