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追放先は廃旅館でした——前世は旅館コンサルの令嬢、今度は自分の手で王国一の名宿を作ります  作者: 歩人


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第32話: 田植えの日

 令嬢の足が、泥に沈んだ。膝まで。


 「きゃっ」と声を上げて——それから、笑った。


 「最高じゃない、これ!」




 話は今朝にさかのぼる。


 「体験コンテンツの実証実験をやります」


 朝食の片付けが終わった帳場で、私は手帳を開いてみんなに宣言した。夏の盛りを過ぎて、空の色が少しだけ高くなっている。田植えには遅い時期だが、復田したばかりの棚田に季節の常識は通用しない。


 銀泉楼に今日泊まっている宿泊客は三組。王都から来た商人の一家——フリッツと同い年くらいの父親と、六歳くらいの息子。隣町の老夫婦。それから、新婚と思しき若い二人組。


 「今日は棚田で田植えをします。お客様にも参加してもらいます」


 ユーディットが腕を組んだ。


 「客に泥仕事をさせるのか」


 「させるんじゃない。体験してもらうの。農業体験は一番人気のコンテンツになる。田植え、稲刈り、蕎麦打ち。お客様は『ここでしかできないこと』にお金を払う」


 リュカが首を傾げた。


 「泥に足突っ込んで金取れるんすか?」


 「取れる。断言する」


 取れる。確信がある。ただし、それを成立させるには「体験の質」が全てだ。


 景色。指導者。食事。ストーリー。


 全部が揃わなければ、ただの泥遊びで終わる。


 「ヴァルターさんに指導をお願いしてあります。田植え後の昼食は——」


 「あたしとこの小僧で用意する」


 ユーディットが先に言った。もう段取りを考え始めている。さすが元副料理長、現場の組み立てが早い。


 「田んぼで食う飯だ。気取った皿は要らない。手で持てるもの、外で旨いもの。——小僧、おにぎり握れるか」


 「握れるっす! 親父の焼きおにぎり、得意っす!」


 リュカの目が輝いた。




 朝九時。


 復旧した南斜面の棚田に、小さな人だかりができていた。


 水を張った棚田が朝日に輝いている。段々に連なる水面が鏡のように空を映し、南に銀嶺連山の稜線、北に霧峰山の深い緑。その間を薄い霧が帯のように流れていく。


 「わぁ……」


 商人の息子——レオンという名前だった——が声を漏らした。六歳の目に、この景色はどう映っているだろう。


 「きれいだねぇ」


 老夫婦の妻のほうが、夫の腕を掴んでいた。


 私は心の中でメモした。第一印象は上々。景観の力は想定通り。


 ヴァルターが棚田のあぜ道に立っていた。いつもの麦わら帽子に、古い作業着。腰に手拭いを挟んで、苗の束を腕に抱えている。


 「来たか」


 それだけ。愛想はない。でもいい。この人の寡黙さは、むしろ「本物」の証だ。王都のサービス業に慣れたお客様には、飾らない農家の素朴さこそが価値になる。


 「皆さん、こちらがヴァルター・シュタインさん。この棚田を三代にわたって守ってきた方です。今日は田植えの手ほどきをしてくださいます」


 ヴァルターがちらりと私を見た。「余計なことを言うな」とでも言いたげだったが、口にはしなかった。


 「靴を脱げ。裸足で入る」


 ヴァルターが棚田の水際に立ち、ぶっきらぼうに告げた。


 宿泊客が少しだけたじろぐ。当たり前だ。泥に裸足で入るなんて、王都暮らしでは経験がない。


 だから——私が先に入った。


 足を踏み入れた瞬間、泥がぬるりと足の甲を包んだ。ずぶ、と沈む。足首を超え、ふくらはぎの半ばまで。


 冷たくない。


 温かい。地脈水が地下を通って棚田に注いでいるから、泥ごと温もっている。まるで、大地が足湯をくれているみたいだ。


 「きゃっ」


 声が出た。膝まで沈んで、一瞬バランスを崩して——それから、笑いが込み上げた。


 「最高じゃない、これ!」


 振り向いた。あぜ道にいるみんなの顔が見えた。


 レオンが目を丸くしている。老夫婦が顔を見合わせている。若い二人組の妻のほうが笑い出した。


 「私も入りたい!」


 若妻が靴を脱ぎ始めた。それを見て老夫婦も腰を下ろし、おそるおそる足を水面に近づける。レオンは父親に抱えられて「早く早く!」と暴れている。


 ノアがあぜ道の端に立って、こちらを見ていた。


 「……お前が先に入ると思った」


 「当たり前でしょ。体験コンテンツは主催者が一番楽しまないと、お客様も楽しめない」


 「……楽しんでるのか。仕事じゃないのか」


 「両方よ」


 泥の中で笑った。スカートの裾はとっくに泥まみれだ。令嬢の格好じゃない。でもいい。現場に自分から入る人間が、一番信頼される。




 ヴァルターが田んぼに入った。


 腰を落とし、苗を左手に持つ。右手で三本を取り、水面すれすれに——押し込むのではなく、そっと置くように泥に差す。一連の動作に無駄がない。六十八年の、いや、三代百年の蓄積がこの手に詰まっている。


 「根元を持て。深く刺すな。土に置くように」


 短い指示。だけど、それで十分だった。


 レオンが見よう見まねで苗を掴んだ。小さな手に三本は多すぎて、二本がぽろりと落ちる。


 「一本でいい。丁寧にやれ」


 ヴァルターが目線を落とした。子供相手でも口調は変わらない。でも——声が、ほんの少しだけ柔らかい。


 レオンが一本の苗を、両手で大事に持って、泥にそっと差した。


 「できた!」


 振り向いた顔が、泥だらけで輝いていた。


 「パパ見て! お米植えた!」


 商人の父親が笑った。「すごいぞ、レオン」。その声も少し震えている。


 老夫婦の夫は最初ぎこちなかったが、三株目あたりから手つきが安定してきた。妻がそれを見て「あなた、上手じゃない」と嬉しそうに言う。


 「こんな体験、王都では絶対にできませんなぁ」


 老人が腰を伸ばして、棚田の風景を見渡した。朝日を受けた水面が金色に光り、植えたばかりの苗が風に揺れている。


 私は笑顔のまま、頭の中でデータを取っていた。


 体験価値は十分。顧客満足度は高い。所要時間は約一時間で丁度いい。指導者はヴァルター一人で三組を回せる。価格設定——銀貨五枚から八枚が妥当。昼食込みで十枚。リピート意向の確認は昼食後に。


 コンサルタントの頭と、女将の心が同時に動いている。数字も大事だ。でも今、このお客様たちの笑顔は数字には収まらない。




 一時間ほどが経った頃だった。


 私は上段の棚田から中段に移動しようとして、あぜ道の段差に足をかけた。


 泥がまとわりついた足が重い。段差は膝の高さくらい。普段なら何でもないのに——右足を持ち上げた瞬間、左足の泥が吸盤のように足首を掴んで離さなかった。


 「っ——」


 体が前に傾ぐ。手を伸ばしたけれど、掴むものがない。あぜ道の草すらも手が届かない。


 このまま顔から泥に突っ込む——と思った瞬間。


 腕を掴まれた。


 強い力。引き寄せられる。体が立て直される代わりに、慣性で前に倒れた分だけ——ぶつかった。


 ノアの胸に。


 近い。


 息がかかる距離だ。ノアの深い緑色の目が、真正面にある。まつ毛が長い、と今さら気づいた。額に汗が一筋。藍色の髪が風で揺れて、こめかみに貼り付いている。


 私の頬に泥が飛んでいる。ノアの袖にも泥がついた。


 「……足元を見ろ」


 低い声。


 「見てたよ」


 嘘だ。見てなかった。段差ばかり見ていて、泥の吸着力を計算に入れていなかった。でもそんなことはどうでもよくて——問題は。


 心臓がうるさい。


 泥のせいだ。きっと泥のせいだ。足を取られて驚いたから、心臓が速いだけ。泥のせい。泥。頭の中が必死に理由を並べている。


 ノアが手を離した。


 その指先が——少し、震えていた。


 「もう少し慎重に動け。泥は見た目より——」


 「おねえちゃんとおにいちゃん、なかよしだね!」


 高い声が棚田に響いた。


 振り向くと、フリッツの娘アンナが、あぜ道から身を乗り出してこちらを見ていた。六歳の無邪気な笑顔。花柄のワンピースの裾を泥だらけにして、にこにこしている。


 ノアが耳まで赤くなった。


 一瞬で背を向けて、何も言わずにあぜ道を歩いていく。長い脚で一歩、二歩。逃げるような足取り。


 「な、仲良しっていうか、その——」


 私は笑ってごまかした。ごまかしたつもりだった。


 でも息が整わない。


 アンナがきょとんとした顔で首を傾げている。フリッツがその後ろで「アンナ、余計なこと言うな」と小声で叱っているが、顔が笑っている。


 棚田の水面に映った自分の顔が、泥だらけで赤かった。泥のせいだ。日焼けのせいだ。


 ——そういうことにした。




 昼が近づくと、あぜ道に良い匂いが立ち始めた。


 ユーディットとリュカが、棚田を見下ろせる広いあぜ道に陣取っていた。ガルドが作った携帯用のかまどに霧杉炭が赤く燃え、その上に金網が載っている。


 「田植え弁当」——ユーディットの命名だ。


 地脈米ちみゃくまいのおにぎりが並んでいた。リュカが握ったものだ。三角ではなく、丸い。両手でぎゅっと握った素朴な形。それを金網の上で焼いている。醤油を塗ると、じゅっと音がして、香ばしい煙が立ちのぼる。


 「焼きおにぎり、親父の得意だったんす。醤油はハンナ婆ちゃんの手作りっす」


 リュカが胸を張った。父親の味を、今日はたくさんの人に振る舞える。その誇らしさが全身から溢れていた。


 隣でユーディットが笹の葉を広げていた。中には谷鱒の身がきれいに並んでいる。


 「谷鱒の笹巻き。塩と銀泉草だけで味をつけた。蒸し上がりが最高だから、今が食べ頃だ」


 笹を開くと、白い湯気が立った。鱒の身がほろりと崩れるほど柔らかい。


 それだけじゃない。


 霧蕪きりかぶの浅漬け——塩で一晩締めたもの。噛むと甘い汁が溢れる。山菜の天ぷら——こごみとタラの芽を、朝採りで揚げたてにしてきたらしい。まだほんのり温かい。それから、銀泉草の茶。水筒に詰めてきたものを、木の椀に注いでくれた。澄んだ黄金色。口に含むと、清涼な草の香りが鼻を抜ける。


 全て、この谷の食材だ。


 「いただきます」


 みんなで手を合わせた。宿泊客も、ヴァルターも、フリッツもアンナも、ノアも。あぜ道に座って、棚田を眺めながら。


 焼きおにぎりを一口。


 ——旨い。


 外はパリパリ、中はふっくら。噛むたびに米の甘みが広がって、醤油の香ばしさが追いかけてくる。同じ米なのに、炊きたてのご飯とは別物だ。外の空気と、目の前の棚田と、泥だらけの手で持つという体験が、味を何倍にもしている。


 レオンが両手でおにぎりを持って、頬を膨らませていた。米粒が顎についている。


 「おいしい! ママにも食べさせたい!」


 老夫婦の妻が谷鱒の笹巻きを一口食べて、目を閉じた。


 「……ああ。こんなに美味しいお魚、初めて。この柔らかさ……」


 夫が頷いている。言葉にならないらしい。黙って二口目を口に運んでいた。


 若い二人組は天ぷらに夢中だった。「このタラの芽、苦くない」「いや、ほんのり苦いのがいいんだよ」と笑い合っている。


 私はまた頭の中でメモしていた。食事の満足度は最高点。特に「棚田を眺めながら食べる」という状況が付加価値を生んでいる。料理単体の品質はもちろん高いが、「自分が植えた田んぼを見ながら食べる」というストーリーが味を完成させている。


 これだ。かつて見てきた、成功する農業体験の核心。


 「食」と「体験」と「景観」の三つが重なったとき、お客様の記憶に刻まれる。二度と忘れない味になる。


 ユーディットが金網の上で最後のおにぎりを焼きながら、棚田を見渡していた。


 「……悪くない景色だ」


 リュカが隣でにかっと笑った。「すよね」。




 昼食の後、宿泊客は満足そうに銀泉楼へ戻っていった。


 「また来ます。秋の収穫にも参加したい」


 老夫婦がそう言ってくれた。商人は「取引先にも勧める」と名刺を渡してきた。若い二人組は「来年も絶対来る」と約束してくれた。


 リピート意向——三組中三組。百パーセント。


 手帳に数字を書き込みながら、にやけるのを抑えられなかった。


 ノアが隣に来た。


 「データは取れたか」


 「取れた。大成功。体験価格の仮説も検証できた」


 「……お前、あの客の前では笑顔だったが、頭の中では数字を回していたな」


 「当たり前でしょ。コンサルの基本よ。笑顔の裏で損益分岐点を計算する」


 ノアが呆れたように——でも、どこか感心したように、小さく息をついた。


 「……お前はすごいな。俺にはできない」


 「褒めてる?」


 「事実を言っている」


 ノアの声はいつも通り素っ気なかった。でも「すごい」という言葉を、この人が口にするのは珍しい。


 胸の奥がまた疼いた。さっきの泥の一件を思い出す。指先の震え。耳の赤さ。


 ——やめろ。今は仕事だ。




 宿泊客が去った後も、棚田には人が残っていた。


 フリッツが、最後の一枚を植え終えようとしている。


 アンナは泥遊びに夢中だった。小さな手で泥団子を作って、あぜ道に並べている。一つ、二つ、三つ。「おだんご屋さんでーす」と誰に向けるでもなく歌っている。


 「おねえちゃん、おだんご買ってー」


 私はしゃがんで、泥団子を受け取るふりをした。


 「いくらですか?」


 「えっとね、百まんえん!」


 「高い! でも買います」


 アンナが声を上げて笑った。途方もない値段をつけるのは子供の特権だ。でも少しだけ、胸が温かくなった。


 フリッツが最後の苗を植え終えて、腰を伸ばした。泥だらけの顔に汗が光っている。


 私のほうに歩いてきた。


 「セラフィーナさん」


 「はい」


 「……ありがとうございます」


 フリッツの声が震えていた。


 目が赤い。泥の汚れの下で、唇をきつく結んでいる。こらえている顔だった。


 「娘が——アンナが、昨日の夜、言ったんです」


 一度、言葉が途切れた。


 「『この町、だいすき』って」


 フリッツの目から涙がこぼれた。泥だらけの手で拭おうとして、余計に顔が汚れた。


 「初めてなんです。あの子がそう言ったの。それまでは……何もない町だって、友達もいないって。俺は……何も返してやれなくて」


 「……フリッツさん」


 「この町に生まれてよかったと……初めて、思えました」


 声が掠れた。二度、三度、瞬きをして——それでも涙は止まらなかった。


 私は何も言えなかった。


 言葉が出なかった。コンサルタントの言葉も、女将の言葉も、どちらも今は違う。


 だから、ただ頭を下げた。


 「こちらこそ。——この棚田を守ってくれて、ありがとうございます」


 フリッツが袖で目を拭いた。「すみません、みっともないところを」と笑おうとして、失敗した。


 その時。


 足音がした。


 ヴァルターだった。


 上段の棚田から降りてきて、フリッツの隣に立った。何も言わない。息子の泣き顔を見て、一瞬だけ眉が動いた。


 それから——フリッツの肩を、ぽん、と叩いた。


 大きな、節くれだった手。爪の間に土が入った、百年の棚田を守ってきた手。


 それだけだった。それだけしかしなかった。


 でも、フリッツの肩が大きく震えた。


 「……親父」


 ヴァルターは何も答えず、踵を返した。あぜ道を歩いていく背中が小さくて、でも曲がっていなかった。


 私はアンナの泥団子を掌に載せたまま、二人の父子を見ていた。


 涙が出そうだった。泥のせいだと言い訳する余裕もなかった。




 日が傾き始めた。


 棚田の水面が夕陽を受けて、赤銅色に変わっていく。植えたばかりの苗が等間隔に並んで、風に揺れるたびに小さな波紋が広がる。


 あぜ道に座って、手帳を開いた。


 今日の記録。体験コンテンツの検証結果。顧客反応。価格仮説。改善点。


 ——フリッツの涙。アンナの笑顔。ヴァルターの手。


 それは手帳には書かなかった。書けなかった。数字に変換できないものがある。コンサルタントの手帳には収まらないものがある。


 でも、私の中にはちゃんと残っている。残り続ける。


 ノアが隣に来て座った。何も言わない。銀泉草の茶の残りを二人で分けて飲んだ。温かいのに清涼な、不思議な味。


 「今日の体験は成功だった。データも取れた。次のフェーズに進める」


 「ああ」


 「次は——養魚場の成果を見に行きたい。トビアスさんの鱒が、そろそろ育ってる頃」


 「トビアスが毎日嬉しそうに川に行ってるのは知ってる」


 「『引退した』って言わなくなった?」


 「少なくとも俺の前では言ってない」


 笑った。ノアも——口元だけ、ほんの少し。


 夕陽が棚田を金色に染めている。苗の列が真っ直ぐに伸びて、水面に空が映っている。数ヶ月後、ここが黄金の階段になる。ヴァルターが守り続けた景色が戻る。


 「ノア」


 「なんだ」


 「今日、ありがとう」


 腕を掴んでくれたこと。とは言わなかった。言ったら、また耳の奥が熱くなる。


 「……別に。転ばれたら困る。お前が泥に顔から突っ込んだら、客の前で示しがつかない」


 「それ、心配してくれてるんでしょ」


 「……見てられなかっただけだ」


 この人はいつもそうだ。優しいことをして、言葉では素っ気なく包む。


 でも——隣にいてくれる。いつも、一番近くに。


 考えるな。今は仕事の話だ。


 「鱒が帰ってくる。養魚場の成果を確認して、体験コンテンツの第二弾——渓流釣り体験を企画する」


 手帳にペンを走らせた。夕陽の残光で、ぎりぎり文字が書ける。


 「体験は成功。次は養魚場の成果を——鱒が帰ってくる」


 ノアは黙って棚田を眺めていた。夕陽を受けた横顔が、柔らかい。この人がこんな顔をするようになったのは、いつからだろう。


 手帳を閉じた。立ち上がる。


 「帰ろう。明日は忙しい」


 銀泉楼の屋根が、茜色の空に浮かんでいた。湯殿のほうから硫黄の匂いがかすかに流れてくる。


 棚田に植えた苗が、夕風に揺れている。


 今日という日が、この谷の未来を少しだけ変えた。


 少しだけでいい。それが積み重なれば——谷は変わる。

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