男の子女の子
豪勢なごちそうを振る舞われ、酒もたらふくいただいて、暖かな寝室まで用意していただき、さらには朝食まで食べさせていただいた。
伯爵には十分なお礼を述べ、イズモ・キョウカと茶色肌の同級生を馬車に乗せて、いざナンブ領へ!
「……しかし殿?」
「どうした、ヤハラどの?」
「ダイスケさまが従者とともに追いかけてきますが……」
「まあ、標準装備のようなものだ。イズミはいるか?」
「は、これに」
どこからともなく忍びのイズミが現れて、私たちとともに歩く。
「先行して屋敷に伝えよ、今宵は客人が増えそうだとな」
「かしこまりました」
そう言い残して、イズミは姿を消した。
「でも悪いなぁ、ナンブさま」
馬車の窓からひょっこり顔を出す、茶色の同級生。
「アタイみたいな貧乏人が馬車に乗ってナンブさまが歩きだなんて、気が引けちゃうよ」
「トヨムと言ったな、お前さん。気にするこたぁ無ぇよ、お前にはキョウカどののお相手を頼んでるようなモンだ」
「そんならナンブさまがキョウカと二人きり、馬車でラブラブすりゃいいじゃん♪ キョウカもそれを望んでるぞ?」
「ンなことしたらキョウカどのは春には御懐妊で学園を退学。秋には出産となってしまうぞ。俺としてはキョウカどのにはもう少し学生生活を楽しんでいただきたいのだが」
「あ〜〜アタイもキョウカとお別れはヤだなぁ……」
「それにだ、トヨムよ。……キョウカどのと二人きりになって、キョウカどのの方が床上手だったらどうする?」
「あ〜〜キョウカ、上手だもんなぁ……」
コラコラ、なんの話をしておる。
「その床上手なキョウカどのと二人きりになってみろ。道中お前たちは俺の嬌声を聞きながら歩くことになるのだぞ」
想像もしたくないわ、ンなもん!
っつーかナンブ・リュウゾウ、お前ミドルティーンの小娘に転がされるのかよ?
今までの『息子修行』どーしたよ?
シロガネ・カグヤにさんざん稽古つけてもらってたべよ?
あれは演技か?
主を慮ったシロガネ・カグヤの演技かよ?
よう、息子? おめーの父ちゃんダラシねぇーなー。
「ときにトヨムよ、そなたキョウカどのの恋人であろう? キョウカどのの弱いところとか、好むところとか教えてくれぬか?」
なに聞き出そうとしてんだ、オメーぁーよー。
そら見ろ! 馬車ン中でイズモ・キョウカが咳払いしてんだろーよ!
っつーか本当に、相手はミドルティーンだろーが!
「キョウカに聞こえちゃうから、コッソリだぞ、ナンブさま……」
おう、茶色。オメーもだよ、そこで耳打ちしたってイズモ・キョウカに丸聞こえだろーがよ。
などと言いつつ、私もアヤコ相手の床の術として参考にするために、片耳を巨大化させて聞き耳を立てる。
「実はキョウカのヤツ、髪を撫でられたり指で梳かれたりするのがすきなんだ」
「そうなのか?」
意外と拍子抜けな答えだった。
「大事なことだよ、ナンブさま! 娘にとっちゃ髪は好きな人にしか触らせないんだから!」
「お、おぅ……」
「それと乱暴にはしないこと、自分に色んなこと許してくれてんだから、相手のことを考えて、ゆっくり優しくな?」
「ためになる」
「それから……肩を抱いたり優しく撫でたり……って言うとオッパイやお尻のこと考えるかもしんないけど、そっちよりも肩や腕、背中の方が女の子は嬉しいんだ」
「そうなのか?」
「男子から聞いたら、男の子は女の子に感じて欲しくてそういうトコ撫でようとするみたいだけど、女の子からすれば恥ずかしいだけなんだ。それより優しく撫でてくれた方が、よっぽど嬉しいのさ!」
意外なり、男と音の性の違い。
「ナンブさまも一度誰かに好き放題されたらわかるよ? 聞いた話しじゃあ、そっち筋のお兄さんたちにモテるんだろ?」
「ちょっと待て、どこから聞いたそんな話!」
「違うのか? キョウカが言ってたぞ? 衆道家の刺客がナンブさまのお尻とハトを狙って襲って来たって」
馬車の中からクスクスと笑い声。
あながち外れていない事実だったので、ナンブ・リュウゾウも否定できない。
むしろ王子に恋するバキ少年が、「それは真ですか、ナンブさま!」と変に食いついてきた。
バキ少年は一時的に王子の護衛を離れ、帰郷することになっていた。
その別れの場面はその筋の者ではない私の目頭をも熱くしてくれた。
アーサー王子も名残りを惜しむように、バキ少年の髪や肩、逞しい胸板を撫でていたので、もしかすると両想いなのではないかと、今では考える。
いや、今はバキ少年の恋などよりもナンブ・リュウゾウのお尻とイチモツの話だ。
「なーナンブさま? キョウカを抱くよりも、一度キョウカに抱かれてみたらどーさ?」
とんでもない提案を茶色が持ち出す。
するとこの世界、この時代には存在しない「電球マーク」が、馬車の上に浮かんだ。
まるで、「それはグーなアイデアですわ、トヨムさん! 今年のホームラン王はトヨムさんで決まりですわね!」と言わんばかりである。
「一度キョウカに好き放題してもらったらさーキョウカの好きなこと、嫌いなことってわかると思うぞ?」
「それで俺がされるだけのデク人形になったらどーする?」
「じゃあナンブさまは、キョウカがされるがままで嬌声あげるだけのデク人形になってくれて、嬉しくない?」
「……嬉しいな、好きな女に喜んでもらえるのは、男冥利につきる」
「女冥利もあるんだから。そうだな、ナンブさまが受ける側ならキョウカも御懐妊なんてこと無いし! どうだ、キョウカ!」
すると細く白い腕が馬車からニュッと伸びてきて、親指と人差し指をくっつけたオッケーサインを作った。
ナンブ・リュウゾウ、今宵客人のオモチャ決定である。