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私の質問にキイの表情は少し曇った。
それだけで、クシャナは自分の意志に関係なく女王にならざるをえなかったのだと察した。
若くして女王になることは名誉なことだけれど、本人がそれを喜んでいるかは別よね……。
キイは少しして話し始めた。
『前の女王はあまり良い女王じゃなかったんだよね……。私利私欲のためになんでもするような人だったわ。結局、民の反乱により殺されてしまったのだけど……、そこからが大変だったのよ。次期女王をどうするか問題。……聡くて強い女、クシャナが立候補にあがった。反対の者は誰もいなかったんじゃないかしら』
反対の者がいたとしても、クシャナなら前の女王よりましだと思うだろう。
『これは……、重い話?』
私の質問にキイは目を丸くした。
予想外のことを聞かれたことに驚いたのか、彼女は言葉を失っている。
『湿っぽいの苦手なのよ』
『アリシアが聞いてきたんでしょ!』
さっきより高い声に場の雰囲気が変わる。どんよりとした空気感はどうも居心地が悪い。
『キイが暗い雰囲気で話すからでしょ』
『私のせい~!? 実際、湿っぽい話でしょ!』
『けど、ハッピーエンドなんだからもっと楽しそうに話しなさいよ』
『前女王が殺された話を?』
キイと言い合いしながら、彼女は眉間に皺を寄せる。
『そうよ!!』
私はやけくそになって大きな声を出す。キイは呆れたようにため息をつく。
『無茶苦茶だわ、この人。……けど、確かにハッピーエンドね。クシャナは自由になれたんだもの』
これでクシャナ問題は一件落着……? よね?
もうこれ以上クシャナに関して問題が起きても抱えきれない。シャルルやリリバア、それにリガル……。色んな問題が残っている。
そんなことを考え始めると、嫌になってきた。
『まだまだやることは山積みよ。目を覚めるのが嫌になっちゃう』
『あら、アリシアってそんな弱い人だったの? 買いかぶりすぎてたのかも』
『今すぐにでも目覚めたいわ』
私はキイの挑発にすぐに乗り、彼女に敵意のある笑顔を向ける。
もう充分休息はとった。体力も気力も戻った。……魔力は失われたままだけど。
キイにはもう魔力は借りれないだろうし……。まぁ、魔力がなくても私は強いからね!
それに、ラヴァール国で私は一人じゃない。ライやレオン、それにおじい様たちやヴィアンもいる。……あ、ヴィクターも。
私がラヴァール国で自ら繋がり、信頼を得た人脈だもの。無駄にはしない。
『アリシア』
私がこれからのことについて考えていると、澄んだ声で名を呼ばれた。キイが真剣に私を見つめている。
『貴女を見ていると、人間捨てたものじゃないって思えるわ』
妖精からの最高の誉め言葉だと思った。




