3-14/41 これから
『魔王を倒しにその人は来る』そう聞いて一筋の光が見えた。
そして、それと同時に会えば思い出せるという思いが、心から湧いてくる。
フリティアちゃんと、シャティちゃんを見ても、同じ思いのようだ。
だって、思い出せないのなら、こんな思いはしなくてもいいのだから…。
「ねぇ、ガブリエル。国王にはどう伝えるべきかしらね?」
「ああ、それなら心配いりませんよ。僕の『知り合い』が伝えに行っていますから。まあ、マスターは全盛期の力が出せるようにしておくことですね。正直、今の冒険者では相手になりませんよ。せいぜい、雑魚処理でしょう。ですから、国王にも覚悟を決めてもらわないといけませんね。…では、僕はこの辺で失礼します。また指示がある時まで、動きませんがね」
そう言葉を残して、部屋を出ていく。
今の冒険者では、雑魚処理程度…、魔王には無駄死にになるだけだといった。
怖い、恐ろしく怖い。
初めて、自分が勝てない、いや、死ぬ恐れが高い相手と戦う。
自分が死ぬことに、恐怖を感じない人がいるだろうか。
…でも、その恐怖よりも、その人に会いたい。
思い出したい。
そして、愛し愛されたい。
覚えていなくても、分かる。
どれだけその人が、私たちのためにしてくれたのか、どれだけ私たちが想っていたのかも、頭じゃなくて、心が覚えているから。
「マスター、私たち強くしてくれませんか?常に立ち続けていられるように」
「私も、お願いします。そこに立っていないと、会う資格はありませんから」
「お願いします…」
私たちが頼れるのは、マスターだけ。
どんな手段であっても、強くならなければならない。
どんな状況になっても、立ち続けなければならない。
それができないのなら、その人を裏切ることになるから。
「そうね、全力で戦える人がいるわけじゃないし、何よりもあなたたちを応援したいしね」
「ありがとうございます!」
サッと頭を下げる。
「それじゃあ、ギルドの練習場でしましょうか。リースは結界使えたわよね?」
「はい、私の得意分野でもありますから」
「流石ね。これで安心して、全力を出せるわ」
ギルドマスターの部屋を出て、裏口から練習場に出る。
そこには、まだ若い冒険者の姿が見える。
が、なによりもそこは広かった。
それも、屋敷の地下室よりも。
「こんなに大きんですか…」
「ええ、誰が使ってもいいようにね。安全に、不便なく、訓練できなきゃいけないでしょ?ギルドとして」
「はぁ、流石ですね」
ギルドマスターは、どれだけその称号に重みを感じているのだろうか。
ギルドをまとめるものとして、冒険者を無駄には死なせない。
どのギルドマスターでも、思っていることかもしれない。
でも、この人は心から冒険者としてではなく、一人として大切に思っている。
誰一人として死なせたくない、無駄にしたくない、そんな思いがあるんだと思う。
だから、こんな言葉が出るんだろう…。
「リース、お願いできるかしら?」
「はい。【白竜の守り】」
訓練に問題ない範囲に、現最強ともいえる球体状の結界を張る。
内側からは白く輝いて見え、外側から真っ白で中が見えないようになっている。
「いい結界だわ。それじゃあ、始めましょうか。マスターの実力、見せてあげるわ」
~国王の部屋~
「国王、報告があるです」
その声がしたのは扉の奥からではなく、後ろの窓から。
国王は驚いた様子もなく、窓を開ける。
「どうした、ラウム」
そこには、黒いフードで顔を隠した小柄な少女がいた。
「ガブリエル様です」
「うむ、なるほど。ついに来るのか…」
椅子に座り、あごの伸ばした髭を触る。
その表情は影を帯びる。
「半年後、魔王が動き出すだろう。いや、攻めてくるといったほうが正しい。ただ、三〇〇年前にあったといわれる魔王ではない。そんなレベルではない。さあ、国王よ、聖騎士を出せ。聖騎士たちに、明日はないと伝えることだ。国王だけは、死なれては困るからな、俺が守ってやる。
最悪、この国が終わるだろう。まあ、最強の存在がこちらにもいるが、国を守るとは期待しないほうがいい。その方はあくまで魔王を殺すだけだ。今回の英雄も勇者も、聖騎士も、俺も、その方には敵わない。絶対に敵対しないことだ。
こちらからは英雄とマスターを出す。ラウムも、出す。
話をまとめよう。戦力は、俺、マスター、英雄、ラウム、勇者、聖騎士、そして、あの方だ。そして、魔族側の戦力は魔族の精鋭、魔王二体だと予測される。もう一体の魔王は来ないだろう。そいつは、自ら動くのではなく、戦えるやつを厳選し、待っているんだ。己を殺せる存在をな。この魔王ほど、自ら死を選ぶものはいないだろう。ただ、魔王として死ぬに死ねない。故に、自らを殺せるものを探しているんだよ。まあ、そういうことだから、最悪は国が亡ぶぐらいだ。
…とのことです」
ウラムの言葉を目をつむり、聞いていた国王。
ゆっくりと目を開ける。
その目には、覚悟の光があった。
「分かった。他の国との戦争については、もう聖騎士を切り札として使うことはないだろう。今まで通り、騎士だけで対応する。聖騎士たちには悪いが、この戦いで死んでもらおう。聖騎士は国に命を預け、国民を守るために生きてきた。ならば、国民のために死ねるなら、本望だろう…」
ずっとリース視点が続きそうです。
でも、とばせないんですよねぇ(´-ω-`)