逃亡
「ウィルー、ギリギリ無事のようですねぇー‼︎」
プロペラが騒々しく回る中、ヘリの出入り口から顔を出し手を振る少年の声に、ウィルは少しだけ安堵した。依然痛む脇腹に手を添え、ウィルは声を張り怒鳴った。
「遅せぇよ! ミーシャ!」
「無茶言わないでくださいよう! これでもかなり急いだんですって!」
この凄まじくうるさい状況でもウィルの苛立ちは十分伝わったとみえて、ミーシャと呼ばれた少年はぶるりと身震いした。
ウィルは更に怒りの言葉を浴びせようとした。だがそれどころでない事をすぐに思い出し、努めて冷静に声を張り上げた。
「急いできてもらって悪いんだが、すぐ俺達を、病院へ連れてってくれ!」
ウィルの切羽詰まった声と表情に、ミーシャは不思議そうに首を傾げた。
「まあ確かに、かなり怪我だらけになっちゃるようですけど……誰か危篤なんですか?」
ミーシャの呑気とも取れる冗長的な口調は、今のウィルにとって神経を逆撫でする以上の意味を持たなかった。ウィルは苛立ちにぴくつくこめかみを抑え、更に声を張り上げた。
「いいから早くしてくれ……リリィが危ない!」
そのウィルの姿にようやくただならぬ気配を感じとったのか、ヘリの少年は渋々ながら頷いた。
「……よく分かりませんが、兎に角、速やかに病院に行けばいいわけですね? 着陸させますから退避を……」
「馬鹿‼︎ 中庭には着けるなっ!」
すぐさまヘリの高度を下げようとする少年をウィルは全力の声で阻止した。アンネの中庭は地雷源だ。さっきケインが粗方掘り起こしたとはいえ、未発掘品がないとも言い切れなかった。ヘリは着地させない方が妥当だった。しかしそうとは知らない少年は当然呆れ声で抗議した。
「えー⁉︎ 何か無茶苦茶なこと言ってません? まさか、何時ぞやのように屋根伝いに飛び移る気ですか⁉︎」
「説明は後だっ‼︎ いいから、ロープ垂らして丁寧にホバリングしてろっ! 後は自力で何とかするっ!」
「もー、さっぱり分かんないなあ……了解」
いつも以上に強引で威圧的なウィルの命令に、ミーシャは不服そうに合意した。
*
少年が言われた通りにロープを準備している間、ウィルは立っているだけでも痛む身体を引きずり二人のそばまで歩み寄り、彼らの頭を爪先で蹴飛ばした。絶妙な力加減だったのか、二人は一撃で意識を取り戻した。
「……痛たた……もっと優しく起こしなさいよね‼︎」
いち早く起こされた状況に気付いたらしく、アンネは額を押さえ文句たらたらだった。しかしそれを完全に無視してウィルはフィンへ手をさし出した。
『悪い、少し急いでるんだ。ヘリからロープを下ろして貰うからそれをのぼるぞ。立てるか?』
『……俺は大丈夫。アンネの方を頼む』
フィンは素直に頷いた。ウィルの顔色が少しばかり悪いことに気付いたものの、敢えてその場で問いただしはしなかった。




