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ペクトラ  作者: KEN
ケイン・エルメス 〜邂逅〜
30/131

読めないヤツ

 土煙の中立ち上がった来訪者は二人が現時点で一番会いたくない輩だった。相手はアンネの密入国を取り締まるよう命じられた者――恐らく警察か軍に類する組織の人間――らしかった。もしこの場でフィンの存在を知られようものならば、密入国の手引きをした共犯と見なされても文句は言えない。『飛んで火に入る夏の虫』だか、『李下に冠を正さず』だか。ほんと、昔の偉い人は偉大な言葉を残してくださったものだ。涙と一緒に反吐が出そうだった。


 土煙が徐々に薄れるとともに、ケインと名乗った男の姿がウィルの所からも確認できるようになった。

 身長はややフィンより低いくらい。まだ幼さの残る顔立ちだった。恐らく年齢もフィンより一、二歳若い程度だろうとウィルはふんでいた。頭髪は短めに切り揃えられ、支給品と思われる衣服は遠目に見ても良い素材を使っていることがわかった。全体的に爆発で焼け焦げ汚れてはいたが、ガードが間に合ったのか胸回りは割と綺麗に保たれていた。右手には長い槍を持っていたが、それ以外に目立った武器の所持はなさそうだった。

 男の全身がよく見える様になった所で、ウィルは何より先にすべき確認を行った。


『フィン、彼奴に見覚えは?』


 隠れていられるギリギリの所まで首を伸ばし、目を細めて男を見るとフィンは言った。


『ないな』

『……そうか』


 もとより記憶喪失のフィンが当てにならない事は分かっていた。だが眼前の未知の男はかなり危険な匂いがした。今はどんな些細な情報でも欲しいところだった。


 男はゆるゆるとアンネに近づいていった。


   *


 アンネは眼前の男をにこやかに見据えながら今後の対処を考えていた。

 国の重要機密など持ってはいない。だから自宅の書類を調べられる事自体は全く問題ないとアンネは思っていた。だが問題は調べる過程だ。アンネの持っている資料は地上のあらゆる言語で書かれており、内容を全て理解するには多国語に精通した専門家を集め翻訳する必要がある筈だ。解析に時間がかかり無駄に拘束時間が長びく事態は、出来れば避けたかった。

 しかも今回はすぐ傍にフィンがいた。男の仲間が近くに潜んでいてフィンを捕まえたりしようものなら、素性の定かでないフィンにスパイの嫌疑がかけられることは十分考えられる。そうなればこちらもただで済むはずがなかった。


(なんとか穏便に対処できれは上出来、それが無理ならば……)


――逃げるしか、ない。


 方針を決めたところでアンネがケインに話しかけようと一歩踏み出したその時だった。


『動かないで!』


  鋭い声が響き、槍先がキラリと光った。刃向えば斬る、という脅しだろうか。今まで家に来たお役人達と同じく、ケインも威圧的で高慢なのだろうとアンネは嫌悪した。


『国の命令で動かれている方が、武器も持たぬ一般市民を武力で威圧するのは関心しませんね』


 アンネも怯まず一歩進もうとしたが。


 一閃。

 目の前を一瞬にして土煙が包んだ。


(煙幕!?)


  完全に予測できなかった行動に一瞬戸惑ったものの、すぐにアンネは身構えた。隠れていたウィルとフィンも急襲の態勢をとった。


――が。


 煙の向こうでケインは槍を横に振り切った体勢で静止していた。アンネの足元の人工芝を槍で薙いだだけのようだった。そこには綺麗に掘り返された地雷があった。


『さっきからずっと言いたかったんですよ……』


 ケインはぷるぷると肩を震わせて叫んだ。


『あんたは一般市民のくせに、無駄に地雷や爆弾を使うんですか!?』

『……へ?』

『そこに座って! 言いたいことが山ほどあるんです!』


 拍子抜けしているアンネの足元を槍先でびしりと差し、ケインは説教モードに入った。


(……天才的なバカだ……。地雷掘り返す技術はすごいが、そこで説教て……。色々読めない奴だわ~。ま、放っとこ)


 ウィルは笑いをかみ殺すのに必死だった。

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