8
【クレヴ】
「さて、前座はこれくらいにして、そろそろ本題に移ろう」
「前座? まさかオレ様達が前座ぁ? 一体何の事だ、おい?」
リアナの言葉にアルセルムが噛み付き、カティアが頬に手を当てて『そうよそうよぉ』と便乗してくるが、リアナは彼らを普通に無視して、話を続ける。
「君をこの城に連れてきた理由の一つとして、アルセルムの奴が煩かった、というのが一番なんだけどね。
重要度で言えば今から言う方が高い。何故なら魔王が君と話がしたいだなんて言ったからね」
本当に魔王と対面する事になるとは……断るのも失礼に値するのだろうか?
国王と予想外の形で顔を合わせたかと思いきや、魔王までとは母の奪還だけを考えていた前々日には想像もつかなかっただろう。
「といっても、魔王の方は強制じゃない。断ってくれても構わないそうでね、興味本位で会話を試みたいんだってさ」
「取って食われるような真似はされないよな?」
「あって間もないであろう君にそんな事するなら、阿呆なアルセルムがとっくにこの世を去ってるだろうね」
リアナの呆れた物言いに、アルセルムは飽きた様子も無く怒り続ける。煽り耐性ねぇな、こいつ。
そうやって過剰に反応してみせるから余計にリアナの舌が激しくなるのに。まぁ、教えるのが億劫なので黙っておく事にした。
人から教わるよりも自分で気が付いた時こそ、人は成長するもんだしな。人じゃなくてモンスターの場合でも、的外れではあるまい。
「カティアの登場でうやむやになりかけたが、オレ様はまだ貴様がゴーレムを倒した事を納得した訳じゃないぞ!」
「つーかさ、何でリアナが嘘を吐いてる可能性を疑わないんだ? そんだけ自信のあるゴーレムなら倒せる筈が無いとか思わないのか?」
いい加減面倒になったので、一人称に『様』を付ける等、自信過剰気味な態度を取るアルセルムを煽ててみるが――奴は予想外にも浮かれた様子を見せなかった。
「フンっ、オレ様は偉大なる創造者だが、作り出した作品に慢心はしないのだ。妥協すれば、そこで終わりだ。中途半端に完結してしまう。
そんな事、オレ様は絶対許さない! 常に1年前の、ひと月前、前日、1時間前のオレ様より進歩しなければならないのだ。
だから貴様がオレ様のゴーレムを倒した可能性が1%でもある限り、それはそのゴーレムの欠点でありオレ様の失敗。
直す点がある以上、オレ様はまだまだ未熟である。故に、まだ成長出来るのだ。そんな成長する機会を見す見す逃してなるものか」
どこまでも愚直で、向上心溢れる発言だ。自分の限界を把握出来ない馬鹿、とも取る事が出来るがそういう気概は嫌いじゃない。
だが、それはあくまで一人で挑み続ける場合だけ。他人を巻き込む奴はどうも苦手である。大抵、自分勝手で上手くいかないと周りに当たる奴が多いからな。
「あー、はいはい。今、大事な話してるからね。後でクレヴがゴーレムと戦ってあげるから」
「ホントだな? 約束だぞ? 絶対だぞ?」
リアナが適当な調子でアルセルムと勝手な約束を取り付けてしまう。阻止しようにも既に遅過ぎるし、今断ろうとすれば、アルセルムに鬱陶しいくらい絡まれるに違いない。
念押しする姿が完全に幼い子供のそれだからな。下手すると駄々をこねる可能性も否めないだろう。
「さて面倒事は片付いた事だし、早速魔王の所へ行くかい?」
「アルセルムの相手で面倒になったからって適当過ぎんだろうが。……まぁ、此処まで来ちまったから、なぁ」
毒を食らわば皿まで、こうなったら魔王と話してみるのも悪くないかもしれない。こうして自称"魔王の側近"共と顔合わせしたが、実害に遭った訳では無いし。
リアナの話からすれば、魔王は好戦的なタイプじゃ無さそうだ。それに、こいつ等みたいに拍子抜けな奴って可能性もある。
もう、どうにでもなーれ。
完全にアウェイな場所に連れていかれ、逃げ出そうにも外はモンスターが闊歩しているのだ。パシリ無しで、安全に帰れる保証など無い。
もはや諦めの境地である。楽観的に物事を考えるなど、頭で深く考える事をしない生来の気質をしているか、リスクを恐れない胆力の持ち主がする事だ。
俺は普通に小心者故、最悪とまでは行かないが、ある程度マズい状況になった場合の事を考えている。
人生、自分の都合の良い通りにいく事など、あまり無い。
最近の例で言えば、暫くの間は城で軟禁生活を送ると思っていたら、1日も経たずに魔王の城へご招待されたのだ。
完全に予想の斜め上。思わず思考を放棄したくなるレベルである。
……サラマンダーとも会話出来たのだ。魔王とだって、きっと何とかなる筈であろう。そう信じたい。
ゴーレムについては頓着していたアルセルムだったが、魔王と会う事を了承した途端、離れていってしまった。
身体のスペアがあると聞いたから、いざという時、盾にしようと思っていたのに。
カティアもカティアで、いつの間にかまた姿が消えているし。リアナが少しだけマシに見えるくらい、本当に薄情な奴らである。
といっても、まだ会ったばかりなのだから文句を言っても仕方あるまい。
先程よりも重くなった足をのそのそと動かし、リアナの後をついていく。にしても、此処も一応城なのだが煌びやかな感じが全然見られない。
それというのも、内装に調度品や芸術性のある置物などが置かれておらず、飾り気が無いせいだろう。
本当に城という建物があるだけで、王族の住む白亜の城よりも生活感が感じられないように思える。
発光灯が取り付けられていないせいで若干暗い廊下を進み、階段を幾つか上った後――とてつもなく大きな扉が見えた。
縦幅は勿論の事、横にも大きいその扉は何時ぞやのソムルド・ゲルブッチャーという巨漢、もとい脂肪の塊が4~5人出入りしても普通に問題無いぐらいだ。
魔王というのは、それだけ大きな身体をしているのか。思わずそんな眼差しをリアナへ向けると、彼女は『怖気付いたのかい?』と軽口を叩いてくる。
「この無駄にデカく作った張本人の性格を考えれば、すぐに分かる事だろう?」
が、ちゃんと俺の疑問にも気が付いていたのか、そう答えてくれる。ただ、心の準備が出来ていないところまでは察してくれなかったらしい。
ノックもせず無造作に扉を開け放ち、つかつかと部屋の中へと入っていってしまう。
「お望み通り、クレヴを連れてきてあげたよ」
堂々とした靴音を鳴らすリアナに対して、俺は挙動不審になりながら、摺り足で少しずつ進んでいく。
扉があれだけ大きかったのもあるのか、魔王のいる部屋は相当な広さがあった。中に家具など全く置かれていないせいで、余計に広く感じてしまうのもあるかもしれない。
そんな茫洋とした空間の中、ぽつりと中心に何かが見える。あれが、魔王なのだろうか。
身体の大きさで言えば、俺とあまり変わらない。その魔王に近付いていくにつれて、段々輪郭がはっきりしてくる。
特に突飛な姿では無い。2つの足で直立しているあの姿は――人間のようだった。
無造作に跳ねた茶の短髪に、特別大きくもない二重瞼をした茶色の目と、俺のいる国では一般的な容姿をしており、特別整った目鼻立ちでも無く、街の民衆に交じったら、まず魔王だとは気付かれまい。
耳が尖った様子も無く、人間と比べてもこれといった違いは見当たらないし、服装も地味な色合いをしたマフラーにコートといった感じである。
顔といい、服装といい、まるで俺と同じ――
「……って、俺と瓜二つじゃねぇか」
水面に映したように自分とそっくりな男が、まさか部屋の主……魔王だったとは。
「えー……貴方はまさか生き別れの兄弟なんですかね?」
「いや全く血縁も何も関係無い他人だ。というか、同じ人ですら怪しいかもな」
俺の質問に、魔王はフランクな口調……というか俺が普段用いている同じ言葉遣いで返してくる。やはり、こういった点でも似ている気がしてならない。
声は、自分で自分のものを聞くと判別がつかないらしい為、いまいち良く分からない。
「やっぱり君も魔王がそっくりそのまま自分の姿に見えるのかい?」
疑問符が頭を支配している中、リアナが気になる事を口にする。君"も"、ということはリアナにも魔王が自分の姿が映っているという訳だ。
「どうなってるんだか理解不能だが、とにかく水面やら金属みたいに俺の姿を映し出してるって解釈でいいのか?」
「映し出すんじゃなく、お前さん達が俺をそう五感で感じ取っているだけなんだがな」
五感となると、視覚と聴覚だけで無く触った感じも俺と同じだとでも言うのだろうか?
リアナの発言からして、魔王が変身する魔法を使っている訳じゃない。まぁ、虚言で無ければ、の話だが。
となれば、魔王は幻覚でも起こさせている可能性がある。
「じゃあ本当の姿はどんな感じなんですか?」
「お前さんの言う、本当の姿は無いのかもしれない。俺自身、見た事が無いしな。何というか、存在があやふやなんだよ。
誰かに認識して貰わない限り、姿形がはっきりとしない。俺は一体どういった種族、どういった存在なのか分からない。
といっても、存在意義を見失ってるとかは無いんだけどな」
分かったような分からないような、掴みどころの無い存在。誰も見た事が無い魔王だったが、見ても良く理解出来ないとは思いもしなかった。
「それで俺と話がしたいとリアナに言ったらしいじゃないですか。一体、どういった料簡なんです?」
初めっから良く分からないが、考えても飲み下せない事はある。今は取りあえず、優先順位の高い疑問から解消していく事にしよう。
「あぁ。それはただ単純にお前さんと話がしたいと思っただけだよ。ほら、お前さん達も珍しい動物を見世物で見たいと思うのと同じだけだって」
俺と同じ顔とは思えない程、柔らかく微笑む魔王に俺は口元が引き攣っているであろう笑みを返す。
珍しい動物を見物する客と同じ心理とか、見られている側の俺としては複雑な心境である。
「しかし、貴方は魔王ですよね? 敵愾心のある人間を自分の根城に招き入れるとか正気なんですか?
それとも、か弱い人間に貴方を倒す事は不可能だとお思いで?」
「直接的に危害を加えられない限り、もしくは加えられても裏で誰かが糸を引いていて、モンスター自体に悪意が無ければ、敵愾心を抱かないお人好しだとリアナから聞いている。
それに、お前さん達が勝手に魔王と呼んでるだけでさ、俺はお前さん達の言う魔王らしい事なんざしてないんだよ。そもそも初めは敵意を持ってなかったんだって」
魔王が何を言っているんだか、良く分からなかった。魔王らしい事をしていない? 敵意を持っていなかった? 一体どういう事なんだ?
「……火の無い所に煙は立たぬ、って言葉があるんですが。今も流れている噂話が全部丸っきりの嘘だったとでも? 俺みたいな田舎者でも知っているような話なんですよ?」
「そう言われてもな……やってないものは、やってないとしか言えない。その噂だって事実無根の事だろ? 何で根拠も無い事を疑いもせず信じられるんだ?」
不可解そうに問いかけてくる魔王の言い分は確かに理解出来る。が、この世には根拠が無いけれど、信じているものなんざ、腐る程あるのだ。
人が理解した気になっているものだって、ただ細分化しただけに過ぎない。どんどん、どんどん小さくしていって、最初の元となるところは説明出来ないのである。
その根底となるものを、『こういうものだ』と前提条件も無しに信じ込まねばならない。
「それが教育の弊害というヤツだろうね。昔、教わった知識をベースにしている為、その知識から外れたものを『誤り』と判断するんだよ。
そのベースとなった知識が間違っている可能性もあるんだけど、それを疑ったら何を信じていいのか分からなくなるしね。
そもそも知識が無ければ考える事すら出来やしない。色々と知った後に、考えずにそれを信じるってのは難しいもんさ」
腕を組んだリアナが俺に視線をやりながら、いつもの笑みは無く至って真面目な表情でそう言った。雰囲気も軽薄な感じがしないのは、魔王がいるからなのか。
何にせよ、彼女の言う事には頷ける。親しい人間ならまだしも、今さっき会ったばかりの魔王を信じられる筈が無い。
仮に正しい事を言っていたとしても、俺には信じる理由も無いしな。いや、信じたくないのだ。自分が間違っていると、訂正されるのが恐ろしくて。
自分の知っている事が全て誤りだったとしたら、今まで学んできた事は全部無駄になってしまう。それは価値観の否定にも繋がるかもしれない。
「例えば、お前さん達の間では『魔王がモンスター界の頂点に立ち、それを率いている』なんて噂が広まっているらしいな。
だったら何故、モンスターは野放しにされている? 統率して管理下に置けるのなら、そうしている筈だろう?」
「……その意図を読み取られないよう、敢えてそうしているのでは?」
咄嗟に俺の口から出たのは、苦し紛れの意見。
「仮にそうだったとして、何故お前さん達がその意図に気付ける? また俺がいなくなったとしても、何の変化があるんだ?」
だからそんなのは、すぐに叩き潰されてしまう。歯噛みする俺を魔王は穏やかな表情で俺が目を逸らさぬよう、じっと見つめつつ、また口を開く。
「また例え話になるが、お前さんが一国を治める王だとしよう。それで、政が上手くいかず、国の民から不満が漏れ、お前さんに矛先が向いた場合、お前さんならどうする?」
いきなり話が変わり、思わず顔を顰めるが、相手は魔王である。渋々ながら頭を働かせ、少しの間、考える時間を貰う事にした。
「……多分、王の座を降りて次の奴に任せると思います。頑張ろうにも、失敗してますし。空回りして失敗を重ね続けるのなら、誰かに任せた方が得策じゃないかなぁ、と」
「要するに責任転嫁、ってヤツだね」
せっかく言い繕ったというのに、リアナが悪印象を与えるような言葉に言い換えやがった。
「とまぁ、問題の解消を選ばず、随分と昔、お前さんみたいに責任を他人に押し付ける選択を取る人間がいたんだよ。
不満を他へ逸らし、地位にしがみ付く奴が、な。人間っていうのは不思議でさ、仲が悪い連中でも共通の敵がいれば手を組む事もある。
それと同じく、自分から矛先を外にいる敵に向けさせる奴がいたんだ」
「つまり、貴方は濡れ衣を着せられた、と?」
「別に信じてくれなくても構わない。ただ、お前さんにずっと警戒されても会話し辛いから、ちょっとな」
なかなか魔王の真意を掴めない。俺を懐柔したいとは考えないだろうし、一体俺と会話するのに何の意味があるというのか。
まさか、額面通りに俺と話す事自体が目的だとでも? さっきの話といい、ますます訳が分からなくなってきた。
「とはいえ、俺が人間に恨まれる心当たりが無い訳じゃねぇ」
「しかし、貴方は魔王らしい事をした覚えは無いんですよね?」
「まぁな。人間側が不都合になろうとも、俺としては悪事を働いたつもりは無かったからな」
困ったように後頭部を掻き乱す魔王の仕草は、やはり俺のものと似ているように見える。そこまでそっくりにトレースしているのだろうか。
「妥当なところで、モンスターの保護とかして、敵対したんですか?」
「いや、そんなんでお前さん達に目の敵になんざ、されないって。――なぁ、お前さんは海を見た事があるか?」
また急に話が飛ぶが、先程と同じくどこかで話が繋がるのだろう。取りあえず、頷きを返しておく。
海を直接見たのは、この城に来る際の一度だけだが、回数までは聞かれていないので余計な口を利く必要は無い筈だ。
「そうか。じゃあ、海の向こうには一体何があると思う?」
「普通にこの島みたいな陸地や海が広がってるんじゃないんですか?」
「まぁ、そうだな。だが、世界は無限に広がっている訳じゃない。この世界には、必ず果てが存在してるんだ」
何だか随分と壮大な話になってきたような気がするが、まさかこの魔王が世界に影響を与えるみたいな事をしたのだろうか?
たった一個人で? そんな事、出来る筈があるまい。俺だってこの1年で、街限定とはいえ島の中を回ったのだ。
人の身で歩き回るには、決して狭い島では無い。だが、この島も世界に比べれば、きっと小さなものに違いない。
といっても、世界がどれだけの広さがあるのか全く知らないし、世界がどんな風になっているのかもわからない。
「この島からだと世界の果てって意外と近いもんでさ。船で東に何十日か漕いでいけば、世界の果てに辿り着けるくらいの距離しか無いんだ」
この島が世界の端っこに位置しているとは、初耳である。にしても、さっきから魔王の言っている『世界の果て』とは具体的にどんなものなのだろうか。
「……案外近いのに、その世界の果てとやらの存在が世に広まっていないのですが、本当にあるんですかね?」
「見えるものが全てじゃないんだよ。世界の果てには何も存在していない。何も、な。だから俺達には認識する事は出来なくても、おかしくは無いだろう?
風だって見えないけど、それが存在してない訳じゃない。
まぁ、世界の果てには何も無いんだが、世界の果て自体は確かにある、って矛盾みたいなもんなんだけどよ。
端的に『有と無の境界線』って感じにした方が分かりやすいかな」
「……大層な話ですが、それと貴方が恨まれる理由と一体どう絡んでくるんです?」
興味本位で突っ込んでみたら、予想以上に大きかった。……まさか、知り過ぎたせいで俺の存在を抹消する、みたいな事にはならないよな?
足の震えを何とか誤魔化しつつも、間を置いた魔王の返答を静かに待つ。彼(?)の表情には特に変化が見られないのだが、何か言い淀む事でもあるのだろうか。
そう疑問を持っていたが、魔王が再び口を開くまでは、そこまで時間が掛からなかった。
「見て貰った方が早いか。リアナ、俺に向かって何か適当に魔法をぶつけてみてくれないか?」
言葉を発したと思いきや、物騒な内容に目を見張るのだが、彼らは俺の驚いた様子に目もくれず、事を進行させる。
「『ボルテック・スピア』」
魔王に頼まれてからノータイムで、リアナは魔王に掌を向けると静かに詠唱し、一筋の雷を生み出した。
この電撃は俺が視認出来るように考慮したのだろう。空気中を一瞬で駆け抜け消え去る事無く、一本の線を描くのを、この目ではっきりと見えた。
一直線上に魔王へと伸びる光――それが彼から50センチ程離れたところで何かに阻まれているのを。
だが、何が電撃を阻害しているのかは見えやしない。しかし、その電撃を阻む何かは存在しているのだ。
まるで、先程魔王が話したような、世界の果てと同じように。
「とまぁ、こんな感じで俺は『遮断』の魔法が使えるんだが、それを島を覆いこむような形で今も使ってるんだよ。
その世界の果てに誰かが行ってしまわないように、な」
魔王は苦笑いしつつ軽く言い放ってくるが、俺は暫くの間、絶句してしまっていた。流石は魔王と呼ばれるだけあってか、魔法のスケールがデカい。
島全体を、しかも継続的に行っているとか、一体どんな魔力量をしているのだろうか。多分、人間には計り知れないだろう。
……やはり、魔王は人間如きが挑めるような存在では無かったのだ。
「えーと、つまりはこの島から人を出られないようにしたせいで、貴方は恨みを買ったって事でいいんですか?」
「あぁ、そんな感じだよ」
確かに、それが魔王の仕業だと知れば恨みたくもなるかもしれない。外との交流を彼(?)の一存によって断たれたのだから。
事情を知らぬ者からすれば、いい迷惑である。
世界は広いのだから、この島以外にも人は住んでいるだろうし、此方よりも進んだ文化や見知らぬ物が沢山あるだろう。
それを得る機会を失ったやもしれない、となれば少しは恨みたくもなる。
とはいえ、命の危険に晒された訳では無いから、王国側は大々的に魔王討伐に乗り出していない、といった感じか。
「……でしたら、この事をもっと他の人に広めようとは考えなかったんですか? 恨まれたい、だなんて考えていないんでしょう?」
「お前さんみたいな素直に呑み込める人間は一部しかいねぇだろ?」
魔王は俺の言葉を切り捨て、話を続ける。
「ましてや、俺は魔王なんて呼ばれてんだぞ? 話したところで誰が信じる? 耳を傾けるどころか、罠の可能性を考える奴もいるんじゃねぇのか?」
「そうですね……」
『魔王の存在が悪である』という固定観念が無くならない限り、いくら無害だと主張しても受け入れてはくれないか。
確かに俺だって魔王の話を半信半疑で聞いている。しかし、魔王が俺を騙すメリットなど皆無だ。
だから、魔王は嘘を吐く必要は無いし、そもそも俺なんかに話をする必要も無い。……もしかして、からかわれているのだろうか?
しかし、魔王は人を小馬鹿にするような面持ちはしていないように思える。それだけに、魔王が結局何を考えているのか分からない。
……考え過ぎ、なのだろうか。
「それで、聞きたい事はそれだけなのか?」
「んーと……じゃあ貴方の名前を聞いても良いですか?」
相手が魔王だということで、聞きたい事は山ほどあったのだが、色々とあったせいで全部吹き飛んでしまったらしい。
真っ白になった頭から浮かんできたのは、当たり障りの無い疑問だった。
「名前かぁ……そんなもん考えてなかったな。いつの間にか魔王って呼ばれてるから、俺の名前は『魔王』になるんだろうな」
「ですが、リアナとかは個人名がしっかりとあるように思えるんですけど?」
「あぁ、それはちょうどリアナがお前さんの通う学校で名前が必要になったという事を聞いたアルセルム達が羨ましがって考えてたっけか。
お前さん達のところだと、名前って親が付けるものなんだろう? だとしたら、俺はお前さん達が名付け親って事になるんかな?」
何かを思い出しているのか、魔王は虚空を見つめて口元を緩ませる。しかし、俺にはその姿がどこか悲しげに見えてしまった。
その後、言葉に詰まって話が続かなくなり、魔王の方から部屋の退出を促してくれ、俺はその言葉に甘えて魔王に背を向ける。
そして、今更ながらにこんな考えが頭を過る。魔王は俺に何も望んじゃいなかった、と。そもそも相手は人間では無いのだ。
俺の物差しで測ろうとした時点で、既に間違っていたのである。魔王は、人間なんぞ熱心に視界へと入れている訳じゃないのだろう。
――魔王へと攻撃しているであろう人間に特別敵意を抱いていないのも、きっとそういう事なのである。
見ている世界が、違うのかもしれない。俺が魔王の事を理解しようなんざ、烏滸がましい行為で、分からなくて当然だったのだ。
こうして魔王とのファーストコンタクトを無事に終え、安堵の息を漏らしたのだが、心のどこかにしこりが残され、もやもやとした気持ちが暫くの間、続く事となった。
今回、説明過多でつまらなかったかもしれません。
次回はまたいつものグダグダとした感じに戻ります。




