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スライムの召喚魔導師  作者: じぱんぐ
アスタール
9/136

6

「補助魔法というのは――」


 フィリーネさんは早速補助魔法についての説明を始める。

 その隣には、ルシルがサボタージュした授業を受けたのと変わらない、というような不満げな顔をしているが、諦めてもらうことにする。

 仕方ないだろう、こちらは真剣なのだから。

 気が少しルシルの方に逸れてしまったので、慌ててフィリーネさんの方に顔を向ける。


「補助魔法といっても、詠唱を用いたり魔法陣を用いたり、種類がわかれていたりするんです……」


 てっきり補助魔法は魔法陣だけかと思っていた俺には、初耳の知識である。まぁ、授業を受けていないから当然と言えば当然だけど。

 ……リアナには、少し間違ったことを教えてしまったなぁ。後で訂正しておこう。

 でないと、少し嘘を教えてしまったみたいで、罪悪感を感じてしまうから。

――おおっと、また気がそれてしまった。


「――さて、主な補助魔法の効果としては詠唱魔法の補助なんかが有名なんですが、補助といえど、攻撃に用いる魔法などの場合では、魔法が射出された場合の方向の微調整や補正、扱えきれない魔力の補助なんかも出来たりするんです……」


 頭で簡単に整理するなら、魔法というのは曖昧なものだから、補助魔法で更に定めてくれるといったところか。より正確に、より扱い易く。


 『フレイム』でいうなら、炎を正確に狙ったりできるといったところか。

 そういえば、ルシルなんかも大雑把に狙いを定めている、といった感じで『フレイム』を使っていたように思える。


 俺も俺なんかで、スライムを召喚する場合、だいたいが自分の正面に出現したりするのだけれども、なんだかんだいって、いつもがいつも同じところに召喚されず、少しズレていると感じる時もあったりしたかもしれない。

 扱えきれない魔力とかは、実際召喚魔法を使っている身としては、あまり実感が湧かないが、どうやら魔法の暴発とやらを指すらしい。

 詠唱魔法なんかで言えば、自分の扱えきれない魔法なんかを発動したりすると、何でも発動しないというだけでなく、何でもしばらくの間、魔法を使う際に調子が狂ってしまう、とか。

 今まで使えていた魔法もうまく扱えなくなってしまうらしい。だから、自分の実力に見合わない魔法を使おうとする人はいないらしい。

 それを確かめるにも、やはり基礎となっている魔法の練習なり何なり、地道に行っていくんだとか。

 ちなみに、俺の使っている補助魔法の"一つ目"(召喚の簡略化を指す)と"二つ目"(同時召喚を指す)なんかは、実現するのが困難で扱えきれない魔法なんじゃないか、と思ったが、今まで魔法が使えなくなったということもないので、そこらへんは曖昧だ。

 まぁ、そもそも魔法自体が曖昧なものだから、そこは気にしないことにする。

 補助魔法自体が曖昧なものではないのだろうか、という疑問も浮かび、それを聞いてみたが、教わっている身だからか、そこまでは知らないようであった。


「また、補助魔法は詠唱魔法なんかよりも"定める"、でいいのかな、そういった傾向が強いらしいです……。

 魔法陣の模様なんかも、一つ一つ意味合いがあるんだそうです……」

 

 フィリーネさんの話は、この後も少し続いたが、聞いた感想と言えばやっぱりと言えばやっぱりだが、聞かなければ曖昧な部分だったこともあり、無学な俺としては、結構役に立つことが多かった。

 補助魔法の傾向としては、やはり詠唱魔法よりも規則的できっちりとしている、というのが今聞いた内容で受けた印象である。

 最後に、少しだけ"一つ目"の魔法陣を見せてみたが、彼女は知らないようで、ルシルなんかは、


「何これ? 落書き?」


 という始末で、とりあえず収穫と言えば、あまり多くはなかったかもしれない。


「丁寧語になっちゃうフィリーネ可愛い~」


「ちょっと、やめてルシルちゃん……!」


 興味の無い説明を聞いていて、フラストレーションが溜まったのか、ルシルがフィリーネの頭をわしゃわしゃと撫でる。

 強引な撫で方なので、光沢のある茶色の髪がサラサラと乱れる。セミロングの長さで普段なら見えないであろう、彼女の真っ白なうなじがチラついていた。

 そして、元々特徴的なへの字の眉が、彼女の不満さを如実に表しており、なんだか嗜虐的な性格の人が見たら、歓喜しそうな光景である。

 フィリーネさんは、手で払おうにもルシルはそれを器用に(かわ)しており、友人らに(しつけ)された行為である噛みつきも、流石に自分の頭の上では出来ない様子であった。

 俺はその光景を眺め、可哀そうだなと思いつつ、少しだけ和んでしまった。







「そういえば、なんでフィリーネに補助魔法のことなんか聞いたの? もしかして、フィリーネのこと気になってたとか?」


 その日の帰り道。

 珍しくリアナが一人で帰ってしまい、代わりといってはなんだが、ルシルに捕まったせいで、強引に二人で帰ることになった。

 やっぱり愚痴でも聞かされるかな、と思っていた俺にとって、その台詞は少し不意打ちである。


「別にそうなんじゃないって」


「そう? 照れてない?」


 ニヤニヤと綺麗な歯並びを見せつけながら、しつこく聞いてくるルシル。

 やはり女というのは、恋なんかの話が好きなんだろう。結構ぐいぐいと食い付いてくる。

 一応田舎なので人目はないが、ルシルよりも五歩ほど俺が先を行った形で会話している、といった状態なのだが、激しく鬱陶(うっとう)しい。

 さりげなく早歩きにシフトしても、ルシルがその速度についてくるという徹底振り。

 流石に走り出すと、無防備な背後から魔法が飛んできそうなので、仕方なく諦めて、正直に白状した。


「補助魔法についてフィリーネさんに聞いたのは、先生に聞いても答えてくれないからだ」


 振り向かずにそう答える。

 あくまで、これは遠目から見た際に、俺たちが会話しているように見えないためにやっているらしいのだが、実際誰か近くにいたら不自然な光景だろう。

 少し距離があるせいで、声を少々大きくしなければならないし。

 人気(ひとけ)など、ほとんど感じないのに。気にする必要など、あるはずがないと俺は思っているのだが。

 それでもなお、ルシルが警戒するのは、何やら後をつけるストーカーとやらの存在がいるかららしい。

 といっても、何故俺がそんな知りもしないストーカーの目を、ルシルと一緒に気にしなければならないのか。

 俺と仲がいい、なんて噂されたくなかったら、話しかけて来なければいいだけだ。

 まったくもって面倒な奴である。


「先生? それは忙しいから教えられないに決まってるじゃない。

 そうじゃなくて、フィリーネ以外にも補助魔法を使える人はいるでしょ、男でも」


「その知り合いがいないんだよ」


 知っていてそういうことを言うルシルは、少し意地の悪い笑みを浮かべているに違いない。


「一応、言っておくけどフィリーネとクレヴなんかじゃ釣り合わないから。私とレイオッド先生なら考えられなくはないけど!」


 自信(あふ)れるルシルの発言に思わず苦笑いを浮かべる。

 もしも、彼女の容姿が優れていなければ、『冗談だろう』と笑い飛ばしているところだ。


「というわけで、先生の情報とやらをよろしく!」


 話している間に、いつの間にかサラナ村に到着していたのか、テンションの高いルシルが片手をひらひらとあげて、彼女の家へと軽やかに歩いていく。


「フラれたのに、結構頑張るもんだな……」


 なんだかルシルに対して、ほんの少しだけだけど、微笑ましく思った。









『前にこの国の地理をやったと思うが、今日はスケールを小さくしてアスタールについて話そうと思う』


『ついでに先生の視界も生徒全体からスケールを狭めて私だけに……!!』


『――先生はそういうことを気にしないスケールの大きい人間が好きだけどな』


『撤回、発言を撤回させていただきます!』


『今日も元気だなぁ、クラリッサは……。そういや、またナサニエルがいないが、欠席か?』


『えぇと、今日も、休みだそう、ですよ? 噂だと、合同実践演習が、近いから自主的に、えぇと、特訓しているとか』


『なんで隣の奴に聞きながらなんだよ?』


『だって、私は先生以外の男の人なんて興味ありませんから!』


『だったら、お前が発言しなくてもいいだろう? お前に伝えた人が直接言えばいいだけじゃないか』


『授業中に先生との会話は、私だけに許された特権! 誰にも譲らせはしませんよ!!』


『さて、気にしてもしょうがないから授業を始めるか』


『だからスルーは酷いとあれほど――』


『ここアスタールは、まぁ皆も知っている通り、首都のルイゼンハルトから離れたところに位置している』


 中年の教師は地図を取り出すと、生徒たちに広げて見せる。


 そこには、筆で描かれたような簡易的なものではあったが、アスタールの全体像としてはわかりやすいものである。


『アスタールは、真上から見た形だと横長の長方形みたいに見えるな』


 その長方形の街の周りには、西にルルヌフという名前の森林地帯、それ以外は平原が描かれているだけ。


『地図からもわかる通り、ここは文化レベルの低い田舎の方に位置している』


『そのせいか、貴族さんなんかはここら辺にはあまりいないんですよね?』


『まぁ首都に近い方が何かと便利だし、好んでここに来るというのは少ないしな。

 この街の特徴とも言える魔法学校や剣士育成所なんかも、広さぐらいしか取り柄がないからなぁ』


 とんとん、と彼は地図に描かれた街の北側を叩く。そこには大きな二つの建築物、つまりは魔法学校と剣士育成所が記されている。


『育成に力を入れているとはいえ、やはり知識や設備なんかもルイゼンハルトの方が上。

 しかし、ここアスタールが他の街よりも優れている点を挙げるならば、やはり学校なんかの生徒を受け入れる数が多いところか』


『先生もアスタールのような寛大な心で、私を受け入れてくださいよ――結婚を前提に』


『先生はお前のことを受け入れているぞ――もう許容外だが』


『つまり先生の心が、私への愛で溢れ返っていると……!?』


『そうだな、お前の頭からも人としての常識が溢れ返って……いや溢れるほど常識ないな、クラリッサは。漏れ出しているにしておこう』


『さぁ、先生! 今こそ、その溢れんばかりの気持ちを、その口から言葉として漏らしちゃってください!』


『うるさい』


『すごくストレートですけど、私が望む回答ではありませんよ、先生?』


『先生としても、お前の質問は望んじゃいないんだがな。さて、そろそろ授業を進めようとするか』


 今度は、彼の指は地図の下の方を指す。


『北側の大部分は、魔法学校と剣士育成所なんかがあったが、今度は南側だ。

 南側の方は、たぶん先生なんかよりお前らの方がよく知っていることだろう』


『まぁ、買い物に行くならここぐらいしかありませんからね、商店通りは』


『名前の通り、商店通りは広めの道に左右から挟まれるようにして店が並んでいたりするが、大体が露店というのが特徴的だな』


『逆に露店じゃないものは、宿とか酒場とか、後は鍛冶なんかの工房だったりとかですよね?』


『そうだな。それで、やっぱりと言えばやっぱりなんだが、食い物の店や、学びにくる奴が多いからか、必然的に学校なんかで使う道具なんかが多く売られていたりとかな』


『先生の愛はどこで売られていますか?』


『プライスレスだ』


『それはとても……素晴らしいものですね』


『うるさい奴が満足したところで次にいこう。今度は東の辺りだな』


 教師の指がつつーっと滑り、今度は平原が描かれているところに移る。


『ここは、やはり平地だからか開墾して田んぼや畑なんかが作られているわけだ』


『家畜なんかはいないんですか?』


『ここら辺は住んでいる奴ぐらいしか知らないだろうが、やはり作られているのは野菜だけだったりするな。

 後は商品価値のある主に「薬草」とまとめて総称される植物なんかも作られているとか何とか。

 後な、ここで作られる主な作物はルイゼンハルトに出荷されていて、需要もあるし儲けとしてはそこそこだから、魔法に自信のない奴は、将来ここで働くのもまた一つの手だと思うぞ』


 そして最後は、と教師が指を滑らしたのは、街の中央だ。


『ここは依頼ギルドと呼ばれる施設があって、「英雄制度」っていう言葉を聞けば話が早いな?』


『貢献度――』


『今日もその単語は出てくるが、先生にはそれはないと前にも説明したよな、クラリッサ?』


『諦めなければ夢は叶うものなんですよ、先生!』


『素晴らしい言葉だが、時と場合ということもあるから皆も気をつけような』


『なんで人を使って、道徳的なことを教えているんですか! もう、私は本気なんですよ?』


『ならば、先生も教えることに本気だから邪魔をしないでくれるかな?』


『じゃあ、今は譲歩してあげます。私って優しいですよね?』


『はいはい、そうだな。クラリッサが満足したところで授業再開しようか。それで、先ほどクラリッサが言っていた「貢献度」だが、前は貴族のところで出てきたんだが』


『恋には障害が多いことを学びました』


『それで、今日の説明に出てくる「英雄制度」ってのにも「貢献度」が存在してな、簡単に言うと、依頼ギルドが依頼者から仲介している依頼をこなすことで、その「貢献度」を得られるってわけだ』


『つまり、依頼ギルドは、依頼者の依頼を仲介してくれる場所ってことでいいんですか?』


『すまない、依頼ギルドの説明を省いていたが、そんな感じかな。んで、その「貢献度」によっては平民から貴族へと身分が高くなる場合もあるってのは知っているな?』


『はい、でもどうしてなんです?』


『それは、偉大な奴には名誉を、ってことで、王族の方々から地位を取り計らってもらえるようになっているんだ』


『凄いんですね』


『あぁ、だから実際「英雄制度」で身分が昇格したっていう例は結構少なくて、実際に依頼ギルドなんかを利用する連中は、自分の腕試しだったり、金稼ぎだったりってのが結構多い』


『依頼を受ける側はわかりましたけど、逆に依頼を申請する側の人ってどうなんです?』


『あぁ、それは先生も詳しくは知らないから、ざっくばらんに説明するが、依頼をする側はまず報酬金が必要になってくるんだ』


『それを、依頼ギルドを仲介して、それを達成した人に支払われると?』


『そうだな、それで報酬金ってのはモンスターの討伐なんかは、国が何割か負担してくれるらしい。

 国としては兵士でも派遣すりゃいい話なんだが、そこまでの行軍に時間がかかるためか、代わりに依頼を受ける人たちにやってもらうということで、負担してくれるんだと』

 

 中年の教師がそう言い終わった直後、ちょうど良く鐘の音が鳴る。


『今日はここまで。実際にどう依頼を受ければいいのか、ってのは直接依頼ギルドなんかで確かめてみてくれ』


『もう静かにする必要はありませんね、先生!! さて、これから私との補修授業を……』


『補修内容は、自習ってことで』


『……いじわる』








「いよいよだね」


「そうだな」


 6月某日。本日、リアナを含む多くの魔法学校の生徒たちが待ち望んだ日がやってきた。

 近くにいる亜麻色の髪をした美少女(に見える)リアナなんか、目が完全にガキがワクワクしている時と同じように、キラキラと輝かせているようだ。

 それと対称的に、俺は溜め息ばかりついていたけど。


 というのも、合同実践演習が本日から2週間かけて、行われるからだ。


――合同実践演習。

 名前を聞いただけだと、なんだか授業の一環程度にしか思われないものだが、先述のように期間が長く、何より内容が授業とは異なる面が存在する。 

 それはというと、〝実践〝という単語がついているところも関係いている。

 その内容といえば、全校生徒がトーナメント式の1対1を行う、大規模なもの。

 さらに、この合同実践演習では、教師たちから評価を貰うことができる。この評価、ただの評価と思うことなかれ。

 高く評価された者はなんと、魔法のエリートが集うルイゼンハルトの魔法学校に推薦されることがあるのだ。

 そのルイゼンハルトの魔法学校というのは、首都にあることから、選考基準が厳しく、相当な才能がなければ入れないとされているらしい。

 もう、ここで全校生徒でトーナメントを行って優秀な評価をもらうよりも――というのは言い過ぎだろうか。


 だからということもあり、生徒たちはまだ準備中であるにも(かか)わらず、生徒たちは皆、浮き足立っているように見える。

 負けたら終わりのトーナメントで、弱い人はすぐに終わってしまうのだが、優秀な生徒同士の戦いを眺めるのも娯楽として楽しめるために、彼らもテンションが高いのである。

 この場では完全に、溜息を吐いている俺が浮いているに違いない。まぁ、俺なんかを見ている変人などいやしないが。

 だが、落ち込むのも仕方がないだろう。

 結局、〝三つ目〝がこれまでに一度もできなかったというのも原因の一つだし。


 唯一嬉しいことを言えば、男性共通の喜びである、女生徒が薄着になってきていることだ。

 肌の露出が増えるのだが、その上には学校指定のローブを着るためにそれが隠れてしまう、という人もいるらしいのだが、男子全員の見解としては、肌がローブから一瞬見えるチラリズムが溜まらないらしいとか。

 嬉しいことではあるものの、そんなもので俺の憂鬱な気持ちは完全に晴れることはなかったけど。


「はぁ……」


「その溜め息はなんだ、クレヴ? 私の興がそがれるじゃないか」


「済まん。ただどうにも気が乗らなくて」


「なんでだ? 戦うのはワクワクするだろう?」


 こう好戦的な姿を見ていると、なんだかあの、への字眉の少女の姿が思い浮かぶ。

 あの人は可愛いを体現していたっけなぁ……。


「いきなり気持ち悪い表情になったが、どうした……?」


 ルシルにも言われたが、そんなに俺の表情って気持ち悪いのだろうか?


「かと思えば落ち込むとか、理解に苦しむな、クレヴは。さっさと私の質問に答えろ」


「ん……。あぁ、それはな、俺があんまり戦うことが好きじゃないんだよ。正確には、魔法で戦うのが好きじゃない、ってことだけど」


「スライムしか召喚できないからか?」


「むしろ、それなんだよ!」


「どこが『むしろ』なのかが、わからないんだが?」


「だからさ、ルールとかには『対戦者を殺してはいけない』なんてあったけど、『モンスターを殺してはならない』とはなかったんだよ」


「それで?」


「スライムたちを殺されたくないんだよ」


 そう、一応教育機関ということもあり、育てている生徒が死ぬというのは、デメリットとなるということで、教師たちが強引に試合を中断させるといったところまで、命の心配はないとされるこの合同実践演習。

 しかし、モンスターにはそういうのは適応されていない。

 「別にモンスターなんて他にもたくさんいるだろ?」、というのが上の判断である。

 それに対して、モンスター愛好家であろうレイオッド先生は結構反発したらしいんだけど、結局は多数の教師の意見に押されてしまったとか。

 ……その後、あのレイオッド先生が珍しく笑顔を見せず、愚痴を語ってくれたぐらいである。

 また、モンスターというのが人間にとっては命を脅かす存在だとも認識されているために、むしろ排除するべきだ、と唱える教師もいるくらいだから、仕方ないと言えば仕方がないのだけど。


「確かに、君にとっては重要な理由かもしれないな」


 ふふふ、とリアナが面白い物を見ているように笑う。

 まぁ、俺やレイオッド先生なんか以外の召喚魔導師なんかは、強かったり貴重なモンスター以外は大抵、道具扱いや捨て駒同然なんだとか。

 中には、使役しているであろうモンスターにストレスを発散するために、無防備な状態にさせて、暴力をふるう奴なんかもいるらしい。


 だが、彼女には理解してもらえるかもしれない。だって彼女は(自称?)魔王の側近だからだ。

 魔王と言えば、モンスターの頂点に立つとさえいわれているのだ。

 他の人には得られなかった共感を、得られるかもしれない。そう期待を込め、感情に任せて口走る。


「そうに決まっているじゃないか! あのぷるぷると柔らかな身体は衝撃を吸収しそうに見えるものの、実は耐久性は低いし。

 魔法なんて喰らえば一撃で消滅だってありえるくらいに、魔法抵抗も低いんだぞ!」


「まぁ、雑魚だし」


「それに物質系だからかわからないけど、知能も低いからか、スライム特有の身体を自在に動かすことさえできず、何も教えなければ、ただ単純な動きを繰り出すのみで」


「お、おい?」


「他のモンスターと比べると、まるで淘汰されることが決まったような弱い生物を、スライム以外に知っているのか、リアナ?」


「……」


 涙ながらに語る俺に、リアナはただ呆然としている。

 なんだろう、彼女との間に感じる温度差は? 少し気になったところで、スライムの話だ。

 俺には、醒めぬ興奮を抑えることなんか出来ない。


「だから俺は心を痛めながらも、どこぞの人間やモンスターたちにやられないようにと、スライムたちを鍛えてきたさ。

 そのおかげで動きは良くなったけど耐久性はそこまで変わらなかった」


 次第に饒舌なっていき、気持ちも高ぶってくる。


「だから安全を見極めて実践を重ねながらも、生かさせていく。それをしようとするのを、リアナは理解できるよなっ!?」


 興奮して、彼女に詰め寄ろうとしたところで、気付く。

 あれ、リアナはどこに行ったのだろう、と。

 まぁ、それはリアナが当然のことだとわかって、聞く必要がないと立ち去ってしまったのだろうか。

 だとしたら、俺は少し恥ずかしいことをしてしまったのかもしれない。

 理解者がいるってだけでも嬉しいことだなぁ。




――実際には、クレヴの思っているようなことはなく、リアナはクレヴのことを結構どん引きをしていた。

 証拠に合同実践演習の初日、リアナが彼と会話するのはこれで最後であった。

 普段ならば、毎日ようにクレヴに絡んでくるのに、である。

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