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スライムの召喚魔導師  作者: じぱんぐ
アスタール
10/136

7

 準備も終わり、いよいよ合同実践演習が始まる。

 いつもの学校とは違う、少しピリピリとした空気の中、これから抽選が行われようとしていた。

 普段ならば、滅多に姿が見られない校長が声を張り上げ、生徒たちに集合をかけていく。

 校長は歳の割に背中はまっすぐと伸びており、(さら)された肌も浅黒く日焼けしている割に、年寄り特有のシミは少ない。

 短く整えられた白髪を右手で撫でながら、もう片方の腕で(かご)を抱えていた。

 その籠の中には、二つ折りした紙が入っており、それを引いて抽選を行うようである。

 ひとりひとり引いているんじゃ、時間がかかり過ぎるんじゃないかな、と思っていたところで、


「それでは、健闘を祈る」


 という、しわがれた一言で、校長は籠の中身をぶち()ける。

 呆然としていた生徒たちだったが、一瞬のタイムラグの後、頭上をひらひらと舞う紙を一斉に取り合った。

 普通に紙が落ちてくるのを待てばいいのだが、彼らのテンションは高ぶっているからか、彼らの取り合いが少々荒々しい。

 そんな中で比較的冷めていた俺は、生徒たちの手をすり抜け、地面に落ちた紙を拾うことにした。

 俺が拾った紙には踏まれた跡がいくつもあり、少し哀愁を感じさせる。

 中身を開いてみると、そこには紙一面を使うかのように、『C』という文字がでかでかと書かれていた。

 少し気になって周りを(うかが)ってみると、どうやら他の人たちも『A』やら『D』やらという文字が書かれているようであった。

 あ、なんだか一人で数枚持っている人なんかもいる。どうやら紙は人数分しか用意されていないようで、持っていない人が現れ始める。

 何やら複数の紙を持っている生徒は周りを見ながら、持っていない生徒と交渉しているようであった。

 どうやら強い人たちとはすぐには当たりたくないので、調整でもしているのだろう。


 そして、ちょっとした暴動騒ぎみたいなのが落ち着いてきたところで、教師たちが紙の回収作業に移った。

 教師に話を(うかが)ってみると、どうやら文字の種類は『A』~『I』までの9つということらしく、それをブロックごとに分けるといった感じで行うらしい。

 細かく対戦相手は決めていないようで、随時教師たちがまた組み合わせを抽選していくのだろう。

 9、という数はおそらくこの演習所の区画がA-1からC-3までの9つに分かれているから、それに合わせているのだろうか。


 ガヤガヤと生徒たちがうるさく会話を飛ばし合う中で、俺は一人ぽつんと突っ立っていた。

 ルシルやリアナなんかは生徒に囲まれているから、話しかけ(づら)いだろうし、他に話の出来そうな相手が俺の見える範囲にはいないようだし、当然の結果である。

 

 と、そんな中で、意外にも俺に声をかけてくる人がいた。

 どうやら『協力者』の一人のようである。名前は知らないが、取りあえず背が高く、少しぼんやりとした顔をしている男だ。

 少しお祭り騒ぎなこともあって、俺に話しかけたとしても目立たない、ということがあってか、俺に接触を図ってきたようである。

 紙に書かれた文字を確認し合ったところで、軽い雑談をする。人とまともに話す機会が少ないので、少し嬉しく感じる。


 どうやら彼は容姿と同じようなぼんやりとした性格をしているらしいせいか、よくいじめられていたらしい。

 が、俺の不名誉な知名度のおかげで、イジメのターゲットとして外れたらしく、彼は申し訳なさそうにしながらも俺に、助かった、と言ってきた。

 別に彼に感謝されるようなことをした覚えがなかったので、話題を流し、お互いの健闘を祈ったところで別れることにする。

 さて、そろそろ集計も終わったようだし、観戦でもしますかね。







 お日様が真上を過ぎた頃、俺の出番が回ってきた。

 呼び出しはトーナメントの記録をしている教師が叫ぶといった、何とも原始的なやり方である。

 細かい抽選も、先生たちが適当に振り分けたからなのか、もう終わっていたらしい。

 大きくて簡素な掲示板が用意され、そこに振り分けが張り出されているようであった。

 張り出されるのは、今日の予定分だけ。全部の予定など掲示板のスペース的に貼り切れるわけがないからである。

 順番としては、今回の俺なんかは随分と早い方で、遅い人なんかは数日過ぎた後ということもあるのだとか。


 とりあえず俺は『C』に振り分けられた、A-3区画に向かう。

 その区画に入ってみると、なんだか見物している人が少ない。

 他の区画で有名な奴が戦っていたりするのだろう。

 そう思いつつ、区画を仕切る壁に沿って、(まば)らにいる人たちを眺めながら中央に進む。

 観戦する人は壁に沿るようにして。そしてメインの戦う二人は中央に、といった感じだ。

 さて、俺の相手はどんな人なんだろうと顔を窺ってみると、どうやら数少ない知り合いの一人にぶつかってしまった。

 名前はヤコフといって、俺より年上の青年。くせのある短い髪に、普通の人よりも細目なのが特徴だろうか。

 背は俺と同じくらいで、体格も普通。

 俺も普通な方だと思っていたが、彼も同じく普通と呼ばれる(たぐい)の人間だろう。

 彼とは、前の召喚魔法での実習で少し手を貸したところから、知り合い程度の関係を築いていた。

 知り合い程度とはいえ、ナサニエルのいじめから距離を置く人間が多い中では、俺としては嬉しい限りである。


「よう、元気してたか?」


 彼が軽く声をかけてくる。少し緊張しているのか、表情が固い。


「まぁ、ぼちぼちと」


 そんなヤコフに対して、少しだけ気の抜けた返事を返す。

 すると、周りとの空気の差を感じたからか、彼は笑う。そして、挑発するように、こう言った。


「容赦はしないからな」


「お手柔らかにお願いします」


「――話はその辺でいいですね?」


 どうやら、気がつかない間に教師が傍まで来ていたらしい。

 まぁ、彼ら教師が合同実践演習での勝ち負けを判定してくれる審判を務めてくれるというわけだ。

 どうやら今までいなかったのは、俺たちの前に戦っていたの人たちの結果を伝えに行っていたからのようであった。

 ……いちいち言いに行くのは面倒ではないのだろうか?


「――それでは、始めてください」


 俺の気持ちが締まらないまま、無情にもヤコフとの戦いが始まった。







 ずるずる、と背中から地面に引き()られる長髪の少年。

 引きずっているのは、とても愛らしい顔をした金髪の少女。童顔であるからなのか、身体の方も少し凹凸の少ない体型を気にしている。

 それゆえに、その体型が晒されやすい、薄着とならざるを得ない季節を恨んでいる。

 そして、その恨みをぶつけるかのように、


「クレヴ、なんでアンタはここで寝てんの?」


 半眼でその引き摺っている彼を睨みつつ、


「それよりも、ルシルさん。俺はそれよりも筋肉が全然なさそうなルシルさんが俺を引きずっていけるというのが、結構疑問なんだけど?」


「いいから質問に答えなさい――あと次に体型のことを言ったら殺すわ」


 その彼に、八つ当たりしていた。







 ルシルがクレヴのいるA-3区画に来たのは今よりも少し前。

 人混みで少し息苦しくなった彼女は、一旦人の少ないところへと行くことにしたのだ。

 一緒にいた友人たちに「お花を摘みに」と声をかけ、いつも後をついてくる取り巻きの男たちに、マナー違反という釘をさしておく。

 演習所から離れている図書館や実験棟で休もうかと考えたが、移動するのが面倒だとその考えは一蹴することにした。

 そして近くをうろついていたところで、他の区画よりも人が少ないところを発見し、その中に入るとそこには。

 彼女の知る少年が、中心で倒れている姿を発見したのだ。一人ということはどうやら戦い終わった後ということらしい。

 教師に運ばれていない、ということは大してひどい怪我をしているというわけではないのだが。

 彼女はじっと様子を見ていたが、彼はぴくりとも動かない。少し気になったのか、彼女はクレヴの傍に近寄っていく。

 なんだかんだいって、彼女は根は優しいのである。

 そして、彼女はクレヴの顔を覗きこむと、彼は平然な顔をして空を見ているではないか。


「次の人の邪魔になるから、どいたら?」


「すまん、疲れたから無理だ」

 という彼の一言で現在へと話が繋がる。


 無視をすればいいものを、彼女は人混みから気分を癒すためにここに来たのだ。

 その苛立ちと、普段からの優等生のふりが染みついているからか、クレヴを引き摺っていくことになったというわけだ。

 他の人に頼んでクレヴを運んでもらうことが出来たのに、彼女自ら引きずったのは、苛立ちを彼の背中へ摩擦という形でぶつけているためである。


「それで、運んだ代わりにアンタの試合について面白おかしく聞かせてくれない?」


「面白さを要求されるのには、応えられないと思うけど――」


 彼女の不条理なことに慣れているクレヴは、こういう質問に対しても素直に答えてしまう。

 彼はつらつらと身に起きたことを話していく――







 審判を担当する教師の声の後、俺とヤコフはお互いに距離を置いた。

 理由としては至極簡単。

 離れた場所からでも、魔法で攻撃できるからである。

 それに、集中している間に徒手空拳で攻撃される可能性もあるからだ。

 一応魔法学校なんで、魔法で戦うのが主なんだけど、『実践』という名前がついていることから、徒手空拳もありとされている。

 で、離れたところから攻撃する手段のない俺が下がったのは、至近距離から魔法を放たれる可能性も否定できないからだ。

 卑怯でズルい奴なんかだと、試合が始まる前から魔法を発動させる準備をしていて、開始直後に放つということがあった。

 不意打ちとして、評価としてはあまり良くはならないが、またまた『実践』という名前がつけられているからか、ルール上はありらしい。


「『召喚、グローヴァイン』!」


 体勢もろくに立て直さないで、ヤコフは召喚魔法を発動したようだ。

 膝を立てた状態で、突きだした右手からは、淡い光が集中する。

 そして光は、シャボン玉のように静かに弾ける。

 弾けてから少しのタイムラグの後、俺の身体よりも一回り以上は大きい、何本もの植物の(つる)が絡まった物体が出現した。

 確かあれは、ルルヌフの森で遭遇したグローヴァインだろう。

 全身をからみついているあの蔓は、植物の身体を有するモンスターが持つ、成長の魔法によってリーチを伸ばすことのできる。

 本来筋肉という器官がないであろう植物に、魔法という要素があるおかげか、その蔓は自在に動き回り、あの時は気付かぬ間に、蔓に足を絡みつかれ、結構厄介な相手である。

 そもそも、もしヤコフと一緒でなければ、あの身体が絡みつかれた状況を一人でかい(くぐ)ることは、ほとんど不可能だったかもしれない。


 蔓に絡みつかれたら、そこで俺は終わりだ。

 そんなのが何本も存在し、自在に動き回る。この状況、困難以外の何物でもないが、手がないわけでもない。

 俺の唯一使える魔法、スライムの召喚である。

 あの時のように、可哀想だけど絡みつこうと伸びてくる蔓をスライムを盾にして防ぐのだ。

 スライムには身体の形を自由に変えることが出来るので、絡みつく蔓は効かない。

 それにグローヴァインは、知性が低い。壁役として俺の前に出現させたスライムに絡みつかずに、俺を絡みつくといった芸当ができるとは思えない。

 やれる――そう思って俺はスライムを召喚しようとしたところで、一旦集中を中断した。


「……おかしい」


 そう、おかしい。

 あの時ヤコフも俺と一緒にいたのだから、俺がスライムを盾にするという対処方法を思いついているはずだ。

 いや、それとも数で押してスライムたちで防ぎ切れなくする、というのも考えられる。

 捕まえたところで魔法というのが妥当だろうか?


 そう悩んで、俺の動きが止まっているところに、いつの間にか一本の(つる)が俺を襲ってきた。

 咄嗟に左足を引いて、身体を反らしてそれを(かわ)す。

 蔓は上から降りかかり、そして速度を落とさぬまま、振りぬかれた。

 しなやかに地面へと激突し、ズパンッ、という音が鳴り響く。

 その時、俺は自分が深読みし過ぎていたことに気付かされる。


 まさか、鞭のようにして使うとはな、と。


 そう、グローヴァインは単純に蔓を振り下ろしただけだった。

 通常、絡みつくならば俺に接近したところで、巻きつくという動作に入るために若干その勢いが弱まるはずなのである。


 やられた。こんなにシンプルな方法が俺を追い詰めるなんて――ことはいつものことだ。

 当然、詠唱魔法だけでも追い詰められるのだが、どうやらヤコフは必要以上に俺を警戒しているようで。

 軽いショックを受けている間にも、次々と蔓が襲ってくる。

 上から来る何本もの蔓の隙間は、人が入る程の大きさはないようなので。

 それを横に走り抜けて何とか(かわ)すと、今度は高さがバラバラの横薙ぎが数撃。

 それを全身に受けて、思わず(うずくま)りそうになったところで、相手はいつの間に仕掛けていたのか、下から蔓が伸びてきていた。

 痛みを我慢し、慌ててその場から飛び退くと、今度はまた上から、といった状況が繰り返される。

 やがて体力がどんどん削られていき、疲れが動きを鈍くしていく。


「ヤコフはずる賢いなぁ……」


 口から自然とそんな言葉が漏れ出す。

 だって、相手はあれから一歩も動いていない。無駄な体力どころか、魔力すらあまり使っていないのだ。

 詠唱魔法を使えば、その集中している間に隙を突くことが出来る、なんて考える俺に対して、モンスターを攻撃手段として使うとは。

 そうすれば、指示をするだけなので、魔法に対して集中することはないから、まずタイムラグがない。

 だから召喚魔法しか使えない俺からは、攻撃を喰らう心配もない。

 後の試合のことを考えれば、蓄積されるダメージは少なければ少ない方がいいわけで。


「……本当にずるい」


 いよいよ身体にも限界が訪れ、蔓の一斉攻撃を喰らってしまう。

 そのまま動けないことをいいことに、グローヴァイン本来の蔓の動きで、俺の身体に絡みつかせていく。

 俺の身体が動けなくなったところを確認し、ヤコフはゆっくりと俺へと近づいてくる。


「降参はしないのか?」


 審判をしている教師の方を彼はちらりと見る。

 この試合、教師の判定がないと終わらない。教師が判定をまだ下さないところを見ると、生徒側にある程度考慮してくれるのだろう。

 この合同実践演習では、多くの生徒が一生懸命になって試合に臨む。

 だから中途半端な判定では、生徒が納得しないことが多い。それは生徒がひどい怪我を負うよりも、だ。


――まぁ、今後生きるのに響くようなものでなければ、というのが前提だけど。


「なんて優しい提案だ」


 俺は少しだけ微笑む。彼は優しいからだ。やりようによっては拷問まがいなことをして、降参を宣言させるという輩だっている。

 ……ナサニエルなんかだったら、降参といっても教師が止めない限りは気が済むまで攻撃してきそうだけど。


 そんな優しい提案に、俺は乗りたくなったけれども。それよりも、ルシルの性格が移ったのか、そうでないのか、俺は彼に一泡(ひとあわ)吹かせてやりたくなってしまったのだ。


――彼は召喚魔法を嫌っていた。

 ルルヌフの森の実習時にそんなことを聞かされたっけ。召喚魔法なんかよりも詠唱魔法の方を積極的に学びたい、という風なことを。

 だが、そんな彼が俺と対戦するのに、召喚魔法を使ってくれたのだ。……たとえ体力の温存だとしても。


 後のことを考えて、召喚魔法を使い、体力を残した戦い方をするってのは確かに賢いやり方だ。

 けれども、普通だったらこんな欲求が浮かばないだろうか?


 『俺の実力が、魔法がどの程度なのか確かめてみたい』、と。


 詠唱魔法なんかは、特にそうだ。何もない空間に魔法を放っていたりはするけれど、実際に使ってみたらどうだろう。


 使った相手が可哀そうだと思うだろうか?


 そんなことを思う人は確かにいるだろうけれど、やっぱり闘争本能とやらがあるせいか、多くの人は『試してみたい』という欲求の方が強いんじゃないだろうか。


 誰かに評価される機会でもある。自己顕示欲だって湧いてくることだろう。

 演習所の皆は、何かの熱に浮かされて。

 盛り上がった雰囲気の中で。


 自分の実力を相手にぶつけてみたいと思うんじゃないだろうか?


 そんな欲求に俺もそそのかされてしまったのかもしれない。


 動けない身体でただ俺は集中する。

 魔法を発動する際に使う詠唱はせず、ただ"俺の"いつものように。

 頭の中でイメージを膨らませる。もうイメージが定着しすぎていて、無意識でも発動できるくらいにはなっていた。

 右手がほのかに光が集まる。その右手は蔓に隠れているからか、相手には見えないことだろう。


「だったらすぐにその優しい提案に乗ってくれないか、クレヴ?」


 ヤコフは、笑いかけてくる。が、それは心から笑っているようには見えなかった。

 本当は詠唱魔法で戦えなくて、あまり楽しくないんじゃないだろうか。

 まぁ、指示だけで自分は退屈に近かったかもしれないだろう――嗜虐趣味とかじゃなければ、という前提だけど。


「じゃあ、俺からも提案していいですか?――こんな風に!」


 瞬間、手に集まる光を弾けさせ、スライムを召喚させる。――ごめんな、俺のワガママに付き合ってくれよ。


 ちょうど絡まれた蔓の外から出現したスライムに、ヤコフの元へと向かわせる。

 ちょっとこれは、ずるいかもしれない。

 ヤコフの顔が驚きで目が見開いている。

 まぁ、普通なら詠唱なしでこんな芸当はできないからだ。

 一度ルルヌフの森でも彼に見せたはずなんだけど、やっぱり信じられないことなのかもしれない。

 驚きで身体が硬直している彼へと、スライムの体当たりが決まる。本日初めての攻撃である。

 そんな攻撃に、彼は二、三歩よろめいて――それだけであった。


 まぁ、スライムは最弱なんて呼ばれているので、攻撃力も低いのだ。仕方あるまい。


「……痛いな、コノヤロー! 『フレイム』っ!!」


 彼の目の前で造りだされた炎が迫る。蔓があるせいで、どんなによじっても俺の身体は動かない。

 何も抵抗することも出来ずに、ただ真正面から喰らった。

 腹辺りに喰らった熱に、思わず悲鳴を上げそうになる。一発で軽く火傷になる攻撃だが、そこは魔法抵抗のあるローブのおかげが、あのヒリヒリとした感覚は襲ってこない。

 炎の熱で身体に絡まる蔓が焦げて、身体への拘束がなくなる。

 ダメージが大きいからか、俺の身体は地面へと吸い寄せられていく。

 そんな背中から倒れている瞬間に、俺はなぜかヤコフの顔を窺っていた。

 その顔は、申し訳なさそうにしながらも、なんだかすっきりしたような、なんとも不思議な表情をしていた。


「お前の提案は優しくないんだな」


 そんな彼の言葉の後、教師から試合終了の声がかけられたのだった。








「んで、無様に何もできずに負けたの?」


 笑いをこらえるルシルに、少しむっとするクレヴだったが、


「(こいつに何を言っても無駄であろう)」

と思い、黙っていることにした。


「アンタの弱さが同情通り越して、笑いを誘うなんて……」


 彼女の表情筋がぴくぴくと震える姿に彼は思う。


「(あぁ、嗜虐趣味のある奴の考えが理解できないや)」


「アンタの弱さって、スライム並みかもね」


 馬鹿にされたのだけれども、比較対象が自分の好きなもので複雑になりながらも、フラストレーションが溜まるクレヴ。

 そして、ルシルはその時、彼に対して珍しく悪態を吐かなかったとか。



前々からだけど、なんだか主人公がM気質な感じになってきたような……気のせいだと思いたい。


後、蔓が絡みつく描写でわかりますが、作者は物理とかに凄く弱いです。

頭の中のイメージだけで書いているので、もしおかしいところがあればご意見をください。……切実に。

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