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なんもしないのがお仕事です〜ニートが滅んだはずの地球が謎の再生をしたので観測員になりました〜  作者: 小兎


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8 本国評議会の追加決定


「ララとリリに加えて、あと八人か。次は和風な黒髪美少女もいいし、エルフ耳のファンタジー系も捨てがたいな……」


俺が宇宙船の工作プラットフォームのホログラムを前に、鼻歌まじりで「新しい嫁」のパラメータをいじっていた、その時だった。


『ネタ、評議会から追加の決定事項が送信されました。……これは、あなたの「新造ハーレム計画」に冷や水を浴びせる内容ですね』


ルールーの声がどこか楽しげに響く。直後、モニターに映し出されたのは、一人の生身の女性のプロフィールだった。


「……同行者? 女性観察官の派遣だと!?」


『はい。名目は「地球が放つ未知の生物的促進効果が、女性個体にも同様の影響を及ぼすかの実証実験」……平たく言えば、彼女もまた実験台です』


俺は思わず椅子から転げ落ちそうになった。


「嫌ですよ! 冗談じゃない! 生身の女性なんて、ガツガツしてて怖いじゃないですか! 俺は二次元……じゃなくて、俺の好みを120%反映した従順なアンドロイドたちと、静かに(?)暮らしたいんだ!」


そう、俺は筋金入りのヘタレだ。本物の女なんて、何を考えてるか分からないし、機嫌を損ねたら面倒だし、第一、俺の自堕落な生活に説教してくるに決まっている。


『……あなたの情けない叫びは、すでに評議会へログとして送信されました。ですが、彼らの決断は揺らぎません。現在、新天地での自然妊娠による出生率は、わずか0.05%。残りの99.95%は人工培養によるデザイナーベビーです』


ルールーが淡々と、人類が抱える深刻な問題を突きつける。


『人類の生存本能がこれほど減退した今、政府は「より自然な人口増加」を最優先課題としています。地球の側で、あなたの「やる気」が爆上がりした。ならば、女性にも同じことが起きるのか。そして、その二人が同じ船で過ごせば、失われた「野生の繁殖」が復活するのではないか……』


「……要するに、俺に種馬になれって言いたいのかよ!? あのお堅い評議会のジジイども、発想がエロゲー並みじゃないか!」


『品性はともかく、ロジックとしては合理的です。彼女はすでにシャトルで「レンズ」に向かっています。……おめでとうございます、ネタ。あなたの「何もしない」聖域に、最大の「ノイズ」が混入することになりましたね』


俺は頭を抱えた。

新しく作る八人の嫁の衣装を考えていたワクワク感はどこへやら、目の前には、これからやってくる「生身の女」という未知の脅威への恐怖しかなかった。


「……ルールー。頼むから、彼女が来たら『この船は呪われてる』とか言って追い返してくれよ」


『残念ながら、彼女の脳内AIとも私は同期済みです。……さあ、心の準備を。まもなくドッキングです』


「……よし、これで完璧だ。物理遮断完了!」


俺はかつてないほどの集中力を発揮し、コンソールのホログラムを叩いた。

船内を貫くメイン通路に、数枚の強化電磁隔壁セキュリティシャッターを強制展開。さらに、俺とララ、リリの居住区を「第一絶対防衛圏」として完全隔離した。


『……ネタ、何をしているのですか? 彼女はまもなくエアロックを通過しますよ』


「決まってるだろ! 籠城だ! 許可なく俺のプライベートスペースには一歩も入れさせない。船内を真っ二つに分けた。あっちの半分は自由に使っていいが、こっちには来るな。……よし、これで顔を合わせる必要もなし!」


『……臆病風に吹かれたにしては、手際が良すぎますね。評議会からは「交流」と「観察」を命じられているはずですが』


「交流しろとは言われてない! 『同じ船にいろ』って言われただけだろ? 言葉の裏をかくのが、俺たち『発想する人類』の知恵ってやつだ。生身の女なんて、俺の自堕落な聖域を荒らすノイズでしかないんだよ!」


俺はそう言い捨てると、左右で不思議そうに首を傾げているララとリリの肩を抱き寄せた。


「いいか、二人とも。あっち側にいるのは『恐ろしい外敵』だ。絶対に近づいちゃダメだぞ。いいな?」


「はい、ネタ様。防衛システム、スタンバイしています」


「えー? どんな子かなってちょっと興味あるけど……ネタが嫌なら、私もわかったわ!」


ララが真面目に頷き、リリが拳を握りしめる。


そこへ、エアロックが開放されるプシュッという音が、厚い隔壁の向こう側から微かに響いてきた。


『……対象、乗船しました。名前は「サキ・ミナセ」。生物学博士号を持つ超エリートです。……あ、今、彼女があなたの設置した「立入禁止」のホログラムを見て、ものすごく冷ややかな目でこちらを睨んでいますよ』


「見なくていい! センサー切っとけ! 俺は今から二度寝に入るんだ。……あー、怖い怖い」


俺は震える足でベッドに潜り込んだ。

新天地の期待(とエロい思惑)を背負ってやってきた女性観察官を、物理的にシャットアウト。


史上最も「心の狭い」聖域の番人による、奇妙な共同生活が幕を開ける。


「あ、あー、テステス。聞こえてる? 隔壁の向こうの引きこもり観察官さん」


突如として船内に響き渡ったのは、鈴を転がすような、だが恐ろしく芯の強い女の声だった。俺がビクッと肩を揺らすと、ララとリリも顔を見合わせる。


「私の名前はサキ・ミナセ。本国から派遣された共同観察官よ。まず最初にハッキリさせておくけど、私の生物学博士号は『古地球種・ネコ科』が専門。ぶっちゃけ人間の雄なんて専門外だし、これっぽっちも興味ないわ。ましてやおっさんなんて、完全にアウトオブ眼中。私の好みは、儚げな美少年限定なの。だから安心して、あなたの貞操を襲うような趣味はないから」


流れるような毒舌。さらに彼女の宣言は熱を帯びて加速する。


「それから重要事項。私の同行者として、猫を二十匹連れてきたわ。今からそっちのAIに個体識別データを送るから、即座に全エリアの認証登録を済ませて。あと、船内の公園バイオームで私の可愛い子たちを見かけても、絶対にいじめないこと。もし毛一本でも傷つけるような真似をしたら、徹底的な生物学的・社会的報復を叩き込むから。……よろしくね?」


ブツッ、と通信が切れた。

静まり返った居住区で、俺はガタガタと震えながらルールーを呼んだ。


「……なぁ、ルールー。新天地のエリートって、あんなに攻撃的なのか?」


『……いえ。おそらく、彼女が「特殊個体」と推測されます。やっぱり、まともな人間はここには来ませんよ』


「……モノホンの変態が来た。猫二十匹ってなんだよ! 聖域が猫の楽園になっちまうだろ!」


俺は布団を頭まで被り、さらに縮こまった。生身の女も怖いけど、話の通じない「こだわり派」が一番怖いんだ。


『ネタ、言ってるそばから彼女、猫たちをバイオームに放流しましたよ。……あ、一匹があなたの居住区の隔壁の前で「開けろ」と言わんばかりに鳴いています。……どうします?』


「……開けるな! 絶対に開けるなよ! 猫は可愛いけど、飼い主が怖すぎる!」


こうして、平和だったはずの俺の「覗き窓」は、毒舌の猫専門家と二十匹の「お猫様」によって、カオスな新局面を迎えることになった。



「……うわっ、最悪だ!」


バイオームのいつもの特等席。昼寝のために腰を下ろした瞬間、ぐにゃりとした不快な感触が俺の高級制服のズボンを襲った。

恐る恐る確認すると、そこには再生した地球の土壌にも負けない、立派で生々しい「猫の落とし物」が鎮座していた。


「ルールー! 掃除ロボは何やってんだ! 飼育管理はどうなってんだよ、あの女!」


俺はついに怒り心頭に発し、自分でおろした隔壁を無理やりこじ開けて、サキが占有している居住エリアへと怒鳴り込んだ。


「おい、サキ・ミナセ! お前のところの猫が俺の尻にテロを仕掛けて……ッ!?」


文句をぶちまけようとした俺の言葉が、喉に張り付いた。

そこは、俺のむさ苦しい(といってもララとリリはいるが)部屋とは別世界だった。


「あら。ノックもなしに野蛮ね、おじさん」


サキは、ライブラリから引き出した最高級のティーセットを前に、優雅に椅子に腰掛けていた。そしてその周囲には、俺がララやリリを作ったのと同じ工作プラットフォームで生成されたであろう、儚げな美少年のサポートアンドロイドたちが三人も侍っていた。

一人は彼女の肩を揉み、一人はお茶を注ぎ、もう一人は足元で猫を撫でている。


「……なんだよ、その『逆ハーレム』は。お前、生物学の実験台として来たんじゃなかったのか?」


「言ったでしょ。私の好みは美少年だって。これこそが私の精神衛生を保つための『文化的環境』よ。……それより、うちの子の落とし物を踏んだんですって? 運がついたわね、おめでとう」


彼女はティーカップを傾け、俺の汚れを微塵も気にする様子がない。それどころか、足元の美少年アンドロイドが「サキ様、おかわりの準備ができております」と甘い声でささやいている。


「ふざけんな! こっちは自給自足の精密なエコシステムなんだぞ! 運がつくとかそういう問題じゃ……」


『ネタ、落ち着いてください。彼女の脳波をスキャンしましたが、美少年たちに囲まれている今、彼女の「やる気」はあなたのそれよりも300%高い数値を叩き出しています』


ルールーが冷静に(どこか楽しげに)報告してくる。

「モノホンの変態だ……。猫二十匹に、美少年軍団……。俺の平和な聖域が、どんどん別の宗教施設みたいになっていく……」


俺は汚れたズボンを押さえながら、あまりの光景に震えが止まらなかった。


「……勝てる気がしねぇ」

 

やる気に満ち溢れた変態エリート、サキ・ミナセの圧倒的なオーラ(と美少年軍団の冷ややかな視線)に圧され、俺は尻の汚れを抱えたまま、しおしおと自分のエリアへ撤退した。議論をする以前に、住んでいる世界の次元が違いすぎた。

 

自室に戻るなり、俺は速攻でシャワーを浴び、汚れた制服を分子分解リサイクルに放り込んだ。


「ルールー! 屈辱だ。こんな平和な船内でテロに遭うなんて。今すぐ対策を講じろ!」


『あら、さっきまでの勢いはどうしたのです? 「おっさんはアウトオブ眼中」という言葉が、よほど脳内チップに突き刺さったようですね』


「うるさい! こうなったら徹底抗戦だ。工作プラットフォーム全開! 掃除ロボットの台数を今の五倍に増やせ。一粒の落とし物も見逃さない、スカベンジャー部隊を編成するんだ」

 

俺は執念深さを発揮し、コンソールのホログラム上に船内の精密マップを展開した。


「さらに、船内全域に高精度の生体反応スキャンを常時展開しろ。二十匹の猫、それぞれの個体信号をマーキングして、一秒たりとも見失うな。奴らが尻を持ち上げた瞬間に掃除ロボを急行させる『キャット・ディフェンス・システム』を構築する!」


『了解しました。観測船「レンズ」の演算リソースの15%を「猫の排泄監視」に割り振ります。……人類の英知を注ぎ込む対象として、これほど不毛な設定も珍しいですね』

 

ララが心配そうに俺の背中をさすり、リリが「ネタ、元気出して! 私がもっとすごいの着てあげようか?」と励ましてくれるが、今の俺にはそれどころではない。


「いいか、これは聖域を守るための戦いだ。AIに感知できない地球の秘密を探る前に、俺の足元の安全を確保するのが先決だろ!」

 

こうして、地球観測船『レンズ』には、最新鋭のデブリ除去レーザー、十体の嫁(予定)、二十匹の猫、三人の美少年アンドロイド、そして「猫の動きを完全掌握する監視網」という、カオス極まりない装備が整っていった。

 

窓の外では、再生した地球が相変わらず神々しく輝いている

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