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閑話.エミリティーヌの話

エミリティーヌ視点の話です。

一応本編の第二話、つまりクリストファーとの出会いをエミリティーヌ視点で書いてみました。

婚約者が決まった。 

グリトリッチ公爵家の唯一の子供である私は高位貴族の子息を婿にとってこの家を継がなければいけない。

だから、いつかは婚約者ができる。

それは分かっていたことだけど……


「エミリティーヌ、婚約者が第二王子殿下に決まったぞ!」


ある日、父様がそう言って飛び出してきた。

王家と縁続きになれて嬉しいのだろう。

ただ、私はあまり嬉しくなかった。


「第二王子殿下が、ですか?」


不敬とも取れる言葉だがしょうがない。

第二王子殿下ことクリストファー・ヴェルナー様は『天才王子』と謳われている。


天才なのに。いや、天才だからだろうか。第二王子殿下は人の心が無い冷徹な王子なのだという噂を私はたくさん聞いた。

私は政略でも婚約者とは仲良くしたいので、冷徹な王子殿下はごめんなのだ。

ちなみに、この考え方はおしどり夫婦として知られる両親を幼い頃から見続けた結果である。


「エミリティーヌ、クリストファー殿下に失礼だぞ?」


「それはごめんなさい。でも、クリストファー殿下といえば『人の心が無い』って言われてるじゃないの。怖くないかしら?」


「それは違うぞ。殿下はお優しい方だ。

ただ、幼いながらに王族としての義務を果たしてらっしゃるからか、冷静で子供らしからぬ落ち着きがあるだけだよ」


へぇ~、そうなの?

噂って当てにならないのね。

そう、私は驚いた。


「それに殿下は聡明な方で、我が家を盛り上げてくれる救世主なんだよ」


救世主って……別にクリストファー殿下じゃなくても我が家の婿になれる人くらいいるでしょう?


「いや、高位貴族の次男以下で殿下以外に我が家を差配できる男なぞいないよ」


そんなに世の中にはダメダメな子息が多いの?

世の男性達に少し失望してしまった。

失望の色を浮かべていた私にお父様は慌てた。


「いや、そんなことは無いんだよ⁉

ただ、我が家は代々宰相を務めているから、宰相に相応しい人間じゃないとね。

それに、グリトリッチ公爵領は我が国で一番領主の仕事が大変な場所として知られているんだ。

生半可な男に我が家を任せるわけにはいかないんだ」


グリトリッチ公爵家は当主が代々宰相を務めている。

ちなみに今の宰相はお父様だ。

まあ、我が家の領地は王都の次くらいに発展しているし、交通の要所だものね。我が家の領主の仕事の大変さは私も良く分かっているし。


「ふうん。クリストファー殿下はお父様のお眼鏡にかなったのね?良いわ。

私、クリストファー殿下の婚約者になります!」


お父様は私の決意にホッとしたような表情を浮かべる。お父様の目に狂いは無いと思ったからお受けしたのだが。


「ああ。ありがとう、エミリティーヌ」


クリストファー殿下が私の婚約者となることが決まった。

どういう方なのかしら?



さて、今日は婚約したお祝いのお茶会。

クリストファー殿下とは初めて会うので、今はとても緊張している。


「エミリティーヌ様、今日はよろしくお願いいたします」


声を掛けてくれたのは、クリストファー殿下の侍従を務める、カールさんだった。

私とは同い年だそうで、仲良くなれそうである。


「こちらこそ。粗相をしなければよいのですが……」


私のその心配に彼は笑って答えた。


「その心配はありませんよ、エミリティーヌ様。

我が主はそういったマナーに全くと言っていいほど興味がない方ですから」


彼の言葉に少しホッとした。

もし失礼があっても、グチグチ言われないということで気が楽になったからだ。



「はじめまして、エミリティーヌ・グリトリッチです。よろしくお願いいたします」


さて、お茶会が開かれた。

お茶会は初めてではないが、家族と一緒では無いのは初めてなので心細い。

カーテシーを披露したが、クリストファー殿下が何も言っていないのでマナーについては大丈夫だろう。


「はじめまして。クリストファー・ヴェルナーです」


クリストファー殿下が王族ならではの、あのアルカイックスマイルとも呼ばれる、感情を見せない笑みを浮かべる。

それにしても、美少年なんだな〜

私は一人っ子ということもあり、同い年の男の子とあまり触れ合う機会は少ないが、それでも殿下の美貌は美しいと思う。


「これをどうぞ。蜂蜜入りのレモンジュースなんだけどね。試飲してほしいんだ」


「ありがとうございます。…あっ、美味しい」


緊張している私を気遣ってくれたのだろうか。

蜂蜜入りのレモンジュースは初めて飲んだが、とても美味しく、リラックスした。


「リラックスしたみたいで良かったよ。僕らは将来夫婦になるんだし」


やはり気遣ってくれたのだ。

第二王子は『人の心が無い』と言われているけど、全然そんなこと無いんだな〜

噂は当てにならないことを私は初めて知った。


あ!殿下に言わなきゃいけないことがあるんだった!

忘れてたわ……


「あっはい。そのことなんですが……その、愛人とかをつくるのはやめていただきたいんです」


言ったそばから、これって失礼に当たるんじゃないかと気づいた。

でも、愛人の家に入り浸りの旦那様はやめてほしいんです!


「ああ、もちろん。そんなに僕が不誠実に見えた?」


クリストファー殿下が気分を害していないことにまずはホッとする。

別にそういうことでは無いんですが……

でも、即答してくれたことに安心を覚える。


「いや、そういうわけでは……すみません」 


「いや、気にしないよ」


ニコニコ笑顔の殿下にそう言われると、嬉しい限りである。

その後、なぜかクリストファー殿下がボーッとし始めた。

どうしたのだろう?


「クリストファー殿下?」


どうかしましたか、と視線だけで伝えると、クリストファー殿下は目が覚めたらしい。


「エミリティーヌ嬢、僕のことはクリストファーで良いよ。婚約者だし、『殿下』は無しね」


いきなりクリストファー殿下にそう言われたせいか、驚いた。

鏡を見なくても、自分がキョトンとした表情を浮かべているのが分かる。

でも、殿下が私と距離を縮めようと、仲良くしようとしてくれているのが分かり、嬉しくなる。


「わ、分かりました。クリストファー様」


「うん、じゃあ僕はエミリーって呼んでも良い?」


クリストファー殿下、いやクリストファー様。

いきなり愛称呼びですか……

まあ、別にいいですけど……


「あ、はい」


そう私が答えたあと、クリストファー様はまたもやボーッとし始めた。

何か具合でも悪いんですか?


「クリストファー様?」


誰かが咳払いをする。

カールさんだろうか。


「ああ、すまない。少し考えごとをしていて。じゃあエミリー、好きな物とか教えて?」


クリストファー様がにこりと微笑む。

婚約者として互いの趣味を知ることは必要だものね!


「あ、はい。私は読書が好きで、特に…」



どれくらい経っていただろう。

こんなにも同年代の男の子と話が合うのは初めてで楽しくなってしまった。


「じゃあ、エミリー。次はいつ会えるかな?」

「あ、次は来週になりますね」

「気をつけて」

「ありがとうございます」


クリストファー様に見送られ、馬車に乗り込む。


「お嬢様、殿下はだいぶお噂とは違った方のようですね」


長年我が家に勤めてくれるメイドのリサがそう言った。


「そうね。やはり噂を鵜呑みにするのは良くないわね」


「はい、殿下とお嬢様が仲良くなれそうで良かったです。

でも、殿下に『愛人をつくらないで』というのは如何なものかと。

初対面の女の子に、しかも7歳の子にそう言われると驚かれますよ?」


「うっ、それはごめんなさい」


確かにそうである。

そして、一切そういう表情を見せなかったクリストファー様はやはりお優しく聡明な方なのだ。


「お嬢様。クリストファー殿下は『天才王子』と謳われてはおりますが、あの方もお嬢様と同じ7歳の少年であり、大人達が庇護するべき子供なのですよ」


「そうね」


大人びて見えるが、クリストファー様は私と同い年。

子供らしい無邪気さを無くした、というよりも王子として、無邪気さを無くさせられたのだろう。

それが悪いことだとは言わない。

それは、公爵令嬢として王家の次に権力を持つ公爵家の娘である私も例に漏れない。

私もまた、帝王学を学ばされ、大人となんら変わらぬ態度を求められているからだ。


それでも、だ。

人は生まれたときから大人では無い。

子供として愛され、慈しまれ、そうやって人は大人になっていく。

私自身も両親に愛され甘やかされた、そんな子供時代があるのだ。

だが、クリストファー様は明らかに幼い頃から大人として接しられていた。

そんなふうに見受けられる。

だからこそ、私といる時くらいは肩ひじはらずに過ごしてほしい。


そう思いながら、私は屋敷に帰っていった。

クリストファー様とは仲良くなれそうだなと思いながら。


エミリティーヌの『愛人をつくらないで』発言の裏側でした。これで閑話も完結です。最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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