23.単眼巨人の避難場所
年配のサイクロプスはゲオルギス、若い方はスペリドンと名乗った。
エイクとアズィーダは、その2人に従ってサイクロプス達が避難している場所へと向かう。
その場所に到着した時には既に日が暮れていた。だが、その場にいた全てのサイクロプス達がエイクの話を聞くことを望んだ。開けた場所に大きな焚き火がたかれ、その周りに合計18人のサイクロプスが集まる。
その者達の前で、エイクは改めてパブロという男が自殺した顛末を話した。
エイクの話を聞き、サイクロプス達の多くは深い悲しみに沈んだ。中にはその単眼から涙を流している者もいる。
エイクの話を疑う者も何人かいたが、その者達もどちらかというと、自分達との約束のせいでパブロが死んだという事を信じたくない、といった様子だ。
(随分、繋がりが深かったんだな。まあ、疑って、怒りを向けてしまっていたようだから、その反動とか罪悪感とかがあるせいかもしれないが)
嘆き悲しむサイクロプス達を見ながらエイクはそのように考えた。
(パプロという男の方も、命を捨ててまで約束を守ったのだから、サイクロプス達のことを本当に大事な存在だと思っていたんだろう。
まあ、何度も繰り返し魔剣を貰って、しかもそれを金に換えていたんだから、金目当てという要素もあったのは間違いない。だが、それはそれとして、同時に命を捨ててまで約束を守ろうとするほどの情もあったわけだ)
今のエイクにはそんな感覚も理解できる。彼もまた、“伝道師”の為ならば死ぬこともできるという感情を持っているからだ。
だが、いつまでもサイクロプス達の嘆きに付き合っていては話が進まない。
エイクは少し待ってから、サイクロプス達の長に話しかけることにした。
長はクセルクスという名の老サイクロプスだ。
ちなみに、サイクロプス達と話すうちに、エイクは敬語を使うのを止めている。もって回った言い方は止めろと言われたからだ。
実際、ざっくばらんな物言いの方がサイクロプス達の気性にあっていた。
「俺の希望についても聞いて欲しい。最初に会った2人にも言ったが、俺は俺専用の魔剣を作って欲しいと思ってここにやって来た。だから、あなた方とは友好な関係を築きたい。そうしなければ、本当に最高の魔剣を作ってもらう事は出来ないと思うからだ。
だから、あなた達の役に立つことをしたい。とりあえず、戦う事に関してはそれなりに自信がある」
クセルクスは比較的冷静さを保っており、落ち着いた声で答える。
「わしらの住処を襲った魔術師を倒すとか言ったそうだな。可能なのか? 恐ろしく強かったぞ。だからこそ、わしらは逃げた」
「確実に勝てるとは言えない。結局は相手の強さしだいだ。まずは、その魔法使いの事を出来るだけ詳しく教えて欲しい。確か、4日前に襲ってきて、今もあなた方の住処だった坑道に居座っているのだったな」
「そうだ。奴は、巨大な、少なくとも大竜並みの大きさのスケルトン・ドラゴンを引き連れて、真っ向からわしらの坑道に向かってきた。
見張りからその事を聞いたわしは避難する事にした。アンデッドを連れている以上、どう考えても真面な相手ではない。そして、大竜並みのスケルトン・ドラゴンを操るような者には、犠牲なしには勝てんだろうと思ったからだ。
わしと戦士たちあわせて5人で時間を稼いで、まず女子供を魔術師が向かってくるのとは別の方向にある出入口から逃がす。その間に、他の者達には食料や道具の類、それから宝物も出来るだけまとめさせ、それを持ってやはり他の出入口から逃げる。
その後で、わしと戦士たちも撤退する。そんな段取りだった。
わしらは出来る限りの装備を整えて、坑道の入り口前で魔術師と対峙した。
魔術師は、わしらに全面降伏を要求して来た。ため込んだ魔剣を全て差し出して、全員支配下に入れと。
わしは拒絶した。戦士たちも弱くはない。守りに徹すればさっき言った手順で逃げる程度の時間は稼げる。と、そう思ったからだ。
実際、戦闘になってしばらくの間、スケルトン・ドラゴンが攻撃してくるだけの時は凌げていた。だが、魔術師が魔術を使い始めると、一気に崩れた。
奴の魔力はとんでもない強さで、“移動阻害”の魔術1回で戦士2人が動けなくされた。魔法への抵抗力を強くする霊薬を使って、更に護符も持っていたのに、まるで抵抗できなかった。
わしと、他のもう2人は“移動阻害”を無効化できる鎧を着ていたので難を逃れた。だが、あの魔力で攻撃魔術を連発されればただではすまない。わしは直ぐに撤退する事にした。
……動けなくなった2人を見捨ててな。
そして、荷物をまとめていた者達にも直ぐに逃げろと伝えるために、それぞれの場所に走った。
魔術師は、迷わず真っ直ぐに宝物倉の方に向かった。魔法の武器や防具とか、特に価値のある物を貯めておいた部屋だ。
だから、宝物庫以外の場所に行った者は、わしも含めて逃げることが出来た。しかし、宝物庫に宝物を取りに行っていた2人と、彼らへの伝令として走った1人は逃げることが出来なかった。
わしが、欲をかいて宝物も運び出そうとしたばっかりに、そんな事になってしまった……」
クセルクスは、そう言って俯いた。
そして、しばらく間を置いてから話しを続ける。
「わしらはここまで逃げて来て、とりあえず身を落ち着けた。丸1日周りを警戒しながら様子を見て、一昨日、坑道がどうなったかを確認してみた。
そうしたら、坑道への入口の中でも一番広い入口の近くに、大きな布が貼り出されていた。それには、捕らえている5人を助けて欲しければ降伏しろ、と書かれていた。
その後、わしは、決断できないでいる。
わしらだけでは、どうやってもあの魔術師に勝てない。かと言って、助けの当てもない。
わしらは、他の種族とも一応は付き合いがあるんだが、そいつらは直ぐに来れるような近くにはいない。少なくとも、あんな魔術師に対抗できるほどの者は近くにはいない。
だから、5人を見捨てて、遠くの付き合いのある種族のところまで逃げるべきか、それとも魔術師に従うべきか。早く決断しなければならないのに、わしにはそれが出来ないでいる。
だから、もしもお前が、あの魔術師をどうにかしてくれるなら、ありがたい。しかし、本当に勝てるのか?」
「敵は、魔法使い1人と、スケルトン・ドラゴン1体だけだったのか?」
「そうだ。他の魔物も、人間もいなかった」
「魔法使いはどんな者だったか、年恰好や装備品などを、出来るだけ詳しく教えて欲しい」
「身体をすっぽり覆う茶色のローブを着ていた。だから、装備は詳しくは分からん。だが、杖は手にしていたし、腰には剣を佩いていた。
フードは被っていなかったが、その代わりにつばが広い帽子を被っていて、顔も見えなかった。だが、体格はだいたいお前と同じくらい。声から判断しても男だろう。多分、まだ若い男だと思う。分かったのはこのくらいだ」
「剣も装備していたのか……。なるほど。
今の話にあった、魔法への抵抗力を強くする霊薬というものを、俺は知らないんだが、それはまだあるのだろうか? もしあるなら、使わせてもらう事は可能だろうか?」
「まだ二つある。もちろん、使ってもらって構わない。それで、あの魔術師に勝てるならな」
「“移動阻害”を防ぐ鎧というのは、あなた方が作ったものか? ひょっとして、人間用の物もあるのだろうか?」
「ああ、わしらの作品だ。人間とかエルフとかくらいの大きさのも作った事があるが、それは宝物庫に置いてあって、ここにはない。あれば、それも使ってもらってよかったんだがな」
「そうか。
……勝ち目があるかどうかだが、話を聞いた限りだと、そのくらいの強さのスケルトン・ドラゴンなら、俺はほぼ確実に勝てる。
だが、魔術師の強さは、その話だけでは底が知れない。それに、他にも敵は居るかもしれない。だから、勝てるとは言い切れない。しかし、勝負にならないということもないだろう」
エイクはそう答えた。
今の話を聞いただけでも、その魔術師がとてつもなく強力なのは間違いない。だが、エイクの魔法に対する抵抗力も相当のものだ。
実際、一国に1人いるかどうかと言えるほど魔法の達人であるシャルシャーラの魔法を、そのマナが尽きるまで耐え切った事もある。
そして、今回エイクは魔法への抵抗を補助する護符を5枚、魔法ダメージの一部を肩代わりする宝珠を3個携帯していた。魔法への抵抗力は常以上なのだ。
更に、抵抗力を強くする霊薬を支給してもらえるなら、少なくとも、勝ち目がないということはないだろう。
エイクはそう判断した。
だが、クセルクスは直ぐにはその言葉を信じなかった。
「お前がそれほど強いと証明できるか? その鎧、成竜の鱗が貼ってあるが、お前が倒したものか?」
「いや、違う。だが、成竜くらいなら苦もなく倒せる。実際俺はドラゴ・キマイラを容易く倒した事がある」
「……」
「信用できないなら、試しにあなた方に攻撃をしてもらっても構わない。俺がそれを凌げるかどうかで、実力を測ってくれ」
「ならば、是非そうさせてもらいたい」
そう応えたのは、エイクと最初に接触した年配のサイクロプスであるゲオルギスだった。このサイクロプス達の中で、ゲオルギスが最強の戦士であり戦士の長であるらしい。
そして、どうやらかなり立腹しているようだ。
それも当然と言えば当然だろう。エイクが言った「そのくらいの強さのスケルトン・ドラゴンなら、俺はほぼ確実に勝てる」という言葉は、要するに、お前たち程度で凌げる強さの魔物になら、俺は確実に勝てる。という事を意味しているからだ。
クセルクスもゲオルギスの心情を理解しているようで、頷いてその考えを了承した。
そして、エイクにとってもサイクロプス達の攻撃を受ける事は有意義だ。サイクロプス達の強さに関する、自分の見極めが正しいかを確かめることが出来るからである。
実際エイクは、サイクロプス達の強さをある程度見極め、それに基づいて、このサイクロプス達で凌げる程度のスケルトン・ドラゴンになら勝てるだろうと判断していた。
しかし、その見極めが絶対に正しいとは言い切れない。実際に手合わせしてその強さをより正確に図る事には大いに意味がある。
こうして、エイクはサイクロプスたちとの模擬戦を戦う事になった。




