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剣魔神の記  作者: ギルマン
第6章
399/404

21.クファトラ山脈南麓の森

 ハイファ神殿から帰宅したエイクは、身支度を整えると早速北へ向かう事にした。

 目的地は魔剣を作れる者がいるかも知れないと推測されている場所。具体的には、北方都市連合領との国境近くの街セフタ、そこから更に東に移動したクファトラ山脈南麓だ。


 アルターらには、魔剣製作者について気になるので、とりあえず付近の様子だけでも調べてみると告げている。移動には、また竜に変じたアズィーダを使うつもりだ。


 今回も、まずはアズィーダを引き連れて西のヤルミオンの森に入る。

 ちなみに、2人はかなりの早く歩いて、常人よりもずっと早く森に到達した。

 エイクは旅路を楽しむという感覚を持ち合わせておらず、それどころか移動に時間をかける事を嫌って出来るだけ早く動く。そして、エイクもアズィーダも体力に優れているので、移動速度は相当に早い。


 森の中の人目のないところでアズィーダを竜に変身させると、ヤルミオンの森の上を北へ向かって飛ぶ。

 クファトラ山脈は、ヤルミオンの森から見ると、アストゥーリア王国と北方都市連合を南北に結ぶ街道を越えた東側に位置する。なので、出来るだけ目立たない場所を選んで街道の上を横切る。


 そうして、数時間後には目的の場所の上空に到達した。

 通常なら、セフタの街まで馬を使っても2・3日はかかるし、そこから更に、森の中を進む必要があるので、その場所まで到達するのに少なくとも4・5日はかかる。そこを、半日と掛からず移動したのだ。


 そして、上空から見渡すと実にあっけなく不審な場所を見つけた。クファトラ山脈の山麓とその周辺の森に違和感を覚える範囲があったのだ。


 その場所に接近すると、違和感の正体が“迷いの森”の呪い、即ち人を寄せ付けないようにする呪いである事も感じ取れた。

 エイクが有する“呪いの破壊者”なる能力の効果だ。その能力を保持する者は、呪いを見破り破壊することが出来る。


 そして更に、迷いの森の範囲内に非常に特徴的なオドを感知した。

 そのオドは人型だったが、とにかく大きい。身長5mほどもあるのだ。

 エイクはオドの感知範囲を最大限に広げる。その代わりに感知の精度は下がるが、その様な大きなオドならば見過ごす事はない。その結果、全部で18の大きなオドを見つけることが出来た。


(巨人、ということか。予想とは違うが、これはこれで大分期待が出来る)

 魔剣を作れる者がいるかも知れないと聞いたエイクは、その場所に古代魔法帝国時代から続く、秘密都市のようなものが残っているのではないかと想像していた。

 その想像とは大分違うが、迷いの森の範囲中にいる巨人が、魔剣製作者と関係がある可能性は十分にあり得る。

 エイクは、巨人の中には相当の文明を保持し、物作りにも長けている種族がいる事を知っていた。


 エイクは自身が跨っているアズィーダの首筋近くを軽く叩いて合図を送る。合図に気付いて飛行速度を緩め、長い首をエイクの方に向けたアズィーダに大きな声で告げた。

「一度着陸する。あの辺りに下りてくれ」


 そして、迷いの森の範囲の少し外を指さす。

 アズィーダはその指示に従った。




 森の中に降り立ったエイクは、改めてアズィーダに声をかける。

「オーガの姿に戻ってくれ。今回は一緒に行動しよう」


「良いのか? 前に南に行った時は、騒ぎにならないように別行動をとると言っていたが」

 アズィーダは竜の姿のままそう返した。


「ヴェスヴィア辺境伯領は、人間の領地だからオーガを連れて行けば面倒事になる可能性が高かった。それに、事前に地理とかも調べられたから、後で合流する段取りもある程度は出来た。

 だが、ここは全く事前情報がない場所だ。別れてしまえば合流しにくい。それに、何が住んでいるかも分からないから、オーガを連れているからといって面倒になるとも限らない。最悪直ぐに逃げる事になるかも知れないから、一緒にいた方が間違いない」


「承知した」

 そう応えると、アズィーダは速やかに変身を解き、そして衣服を身につけながら言葉を続ける。

「私としても、一緒にいさせてもらった方が都合が良い。今回も戦いになるかも知れないからな」


 エイクは顔をしかめた。

「戦いにするつもりはない。何者かと遭遇しても、こちらから仕掛けるようなことは絶対にやめろよ。もしも、魔剣を作れる者がいるなら、友好関係を築きたいからな。戦うなどもっての外だ」


「ああ、分かっている。さあ、さっさと行こう」

 アズィーダは気楽な様子でそう促した。


 エイクは尚も疑わしげな視線をアズィーダに向けていたが、それ以上言葉を続けることはせずに視線を切り、先ほど見つけた迷いの森の呪いの方へ向かって歩き始める。アズィーダがその後に続く。




 しばらくして、エイクは迷いの森の範囲の直ぐ近くまで到達した。

 そこで一旦立ち止まり、十分に注意を払いながらその範囲に踏み込む。特に抵抗や異常は生じなかった。これも“呪いの破壊者”の効果の一種だ。

 しかし、後に続くアズィーダは違った。


「ん、主殿?」

 そう告げて辺りを見回す。

 迷いの森の範囲内に踏み込んだエイクを、見失ってしまったのだ。

 エイクの“呪いの破壊者”の能力は、迷いの森の効果を全て破壊できるわけではなく、エイクに対してのみ無効化しただけだった。


 振り返ってアズィーダの様子を確認したエイクは、一旦迷いの森の範囲外に出た。そして、アズィーダに声をかける。

「ここだ」


 アズィーダも直ぐにエイクに気付いて声を返した。

「なるほど、これが迷いの森とかいうものの効果か。あっけなく誑かされてしまうとは我ながら情けない。主殿には効かぬというのに……」


 エイクは“呪いの破壊者”という能力を持っている事を、アズィーダにも伝えていない。だから、アズィーダはエイクが精神的な抵抗力で呪いを破ったと思っている。


「確かに、こういう効果も振り払えるようになるべきだろうな……。

 とりあえず、今回は一緒に行こう。手でも繋げば流石にはぐれないだろう」


 エイクはそう告げて、左手でアズィーダ右手を掴む。

 アズィーダは何とも微妙な表情をしたが、特に拒みはせずにそのままエイクに続いた。


 呪いの森の効果内に入ると、アズィーダは目が眩むような感覚を覚えた。だが確かに、繋いだ手を頼りにエイクに続けば、はぐれる事はなかった。

 そうやってしばらく進むと、目が眩む感覚が唐突に消える。


「もう大丈夫のようだ」

「そうか」

 エイクはそう告げて手を放す。それでも、特に変調は生じなかった。


「とりあえず、適当に探索をしてみよう。俺が先行する。お前も周りに気を配りながらついて来てくれ」

 エイクはアズィーダにそんなことを指示する。しかし、実際にはもう目的地を決めていた。先ほどからずっと感知している巨大なオドを目指すのである。


(2つだけ他から離れて動いているオドがある。多分見回りをしているんだろう。まずは、これに接触しよう。その方がまだしも穏便に話が出来るはずだ)

 そう考えて、そのオドを目当てに動き始める。




 さほど時間もかからずに、その存在を見つけることが出来た。

 身長5mに及ぶ巨体。正しく巨人だ。肌の色は緑で、単眼であることも見て取れる。その者達はサイクロプスだった。だが、遠目にも野蛮な印象はない。


 その体格は巨大ではあるものの、ほぼ人間と同じように均整がとれており、姿勢もしっかりと直立している。布製の衣服を身に着け、その上から金属製の胸甲を装備していた。左手に盾を持ち、腰で締められたベルトには剣が佩かれている。

 このサイクロプス達が高度な金属加工技術を持つ事は疑いない。 


 2人のサイクロプスは小休止なのか、立ち止まって周りを見回していた。明らかに警戒している。

 しかし、かなり離れた場所にある木の陰に身を隠して、サイクロプスの方を窺っているエイクとアズィーダを見つける事は出来ていない。


(サイクロプスか。いかにも、だな)

 エイクは、サイクロプスが神代の時代から鍛冶仕事を天職としている事を知っていた。


 このサイクロプス達が、目当てにしていた魔剣の作り手である可能性は高い。そう判断したエイクは、予定通り声をかけてみる事にした。

 だがその前に、アズィーダにもう一度方針を伝える。


「まだ大分距離があるが、不用意に近づいて気づかれる前に、こちらかが声をかける。交渉は俺がするから、お前は黙っていてくれ。

 もしも、向こうから攻撃して来ても、直ぐには反撃するな。ギリギリまで交渉をしたい。戦うくらいなら一旦逃げるつもりだ。分かったな」

「ああ、承知した」


 アズィーダの返答を聞くと、エイクは腰に下げたクレイモアと背中に装備しているブロードソードの両方を、鞘ごと外して地面置いた。

 武器を手放す事には抵抗がある。しかし、今はサイクロプスの警戒感を少しでも和らげるべきだと判断したのだった。


 そして、木陰から身を現し、サイクロプス達に向かって大きな声を上げた。

「おーい」


 2人のサイクロプスは即座に声のした方を向き、直ぐにエイクを見つける。

「何者だぁ!」

 サイクロプスの1人が叫んだ。


 エイクもまた、大声で答える。

「私は、エイク・ファインドという名の、人間の戦士です。そしてこっちは、私の配下のオーガ。私は、あなた方と、話しをしたいと思っています」

「人間! 貴様らも我らの宝を狙って来たな!!」


 エイクは出来るだけ穏便に声をかけたつもりだったが、サイクロプスの返答は随分と一方的なものだった。

 そして、そう告げたサイクロプスは腰の巨剣を抜き放ち、エイクに向かって行こうとする。


 だが、もう一人のサイクロプスがそれを止めた。

「止めろ。向こうは話したいと言っているんだ」


 そう告げたサイクロプスは、顎髭を蓄えておりもう1人よりも年長のように見える。実際に、その者の方が上位者らしく、もう1人のサイクロプスはその言葉に従って動きを止めた。


「話とは何だッ」

 年配のサイクロプスは、改めてそう告げる。

 どうやら、話し合う事は出来そうだった。

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