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37。


「お、おばあさんが亡くなって、寂しくなってしまったね」


隣にそっと座った鹿島さんが、囁くように言う。おばあちゃんの死から半日が経って、私はもう抜け殻のようになっていた。


魂が、どこかへ行ってしまったように。


「鹿島さん……おばあちゃんに、いつも……お花をありがとうございました」


「花が好きだと言っていたから」


「はい、」


笑ったつもりはなかった。けれど、もうずっとそうしてきたから、癖にでもなっていたのかもしれない。


鹿島さんが言った。


「こんな時くらい、泣けばいいよ。無理して笑わなくてもいいんだ。君がとても頑張っていたってことは、みんな知っている。おばあさんも、小梅ちゃんのような孫を持って、幸せだったと思うよ」


鹿島さんの言葉が、一つ一つと耳に入ってくる。けれど、今の私は何を言われても、一つたりとも肯定はできない。


「……違うんです、そういうんじゃないんです。私、全然良い子なんかじゃなかった」


「そんなことない、小梅ちゃんは良い子だよ。優しくて、思いやりがあって、おばあちゃんだって、君のこと、」


おばあちゃんのことを言われて、私の身体は奥から湧き上がってくるその衝動に耐えられなかった。


「そんなことないっっ」


狂ったように否定する声。


「鹿島さんに何がわかるのっ。私、全然良い子じゃないっ。おばあちゃんだって……おばあちゃんだって、いつまで面倒を見なきゃいけないのか、って。働いても働いても、お金が無くなっていって……お、おばあちゃんの、にゅ、入院費、に全部、消えていって、ひっく、早く、早く死んじゃえばいいのにって、お、思ったこともあって、」


「小梅ちゃん、」


「か、鹿島さんだって、お、お金持ちだから、もしか、もしかしてお金を、だ、出してくれるかも、って……助けて、くれるかも、って思って、」


きっと、これでもう終わり。鹿島さんも私の本性知って、びびって逃げていくだろう。


「わたしっ、わたし、全然良い子なんかじゃないっ。こんな、ひどいこと思ってたんだからあっ……ごめんなさい、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、う、うえっ」


「こ、小梅ちゃん、」


「お、おばあちゃん、ごめんなさい。かし、かしまさん、ごめんなさいぃ、おばあちゃん、ごめんなさいいぃぃ」


鹿島さんは優しい人だから、きっと醜くて哀れな私に同情しているんだろうな。


「……小梅ちゃん、いいんだよ。そんなことは、どうでもいいんだ」


だから、こんな優しいことを言ってくれるのだろうな。頬と頬が触れるほどに、鹿島さんの顔が近づいてきて、そして溶け合った。


このまま、一つになれればいいのに。


「小梅ちゃん、君が好きなんだ、好きでたまらないんだ。君のことが金で買えるんなら、どんな金額だって、惜しまない。けれど、君は金なんかで買っちゃだめな人なんだ。だから、俺は……俺は、お、俺、は、」


言葉が。


耳から入ってきて、するすると脳へと届いていく。ううん、これは心だ。心にまで届いているんだ。


だって私は、それだけで、その言葉だけで、こんなにも幸せを感じている。


私が息を止めていると、鹿島さんが続けて言葉をくれる。


「……どうしていいか、わからなかった。君は、絶対に金なんかで手に入らない。だけど、君と一緒にいたくて。君が欲しくて欲しくて、それなのに……どうしていいか、わからないんだ。全然、わからないんだよ」


けれど、慟哭は、私を壊していく。


「金で何とかなるんだったら、」


「ん、う、」


「幾らでも……幾らでも出したんだ。金で君を買うことを考えるだなんて……俺の方が、悪いヤツだよ。悪い男なんだ、俺は、君を……」


あとは覚えていない。全てをさらけ出して、全てを出し切って、全力で泣いたから。


けれど、最後に。


「小梅ちゃん、君は……」


耳に囁くように言ってくれた。


「辛かったんだよ。辛かっただけなんだよ」


鹿島さん、ありがとう、私を救ってくれた。


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