36。
「おばあちゃん、おばあちゃん、嫌だよ、こんなの嫌だ……」
相変わらず眠った顔は、どうしてこんなにいつも通りなのだろう。変わらない皺の寄った頬に、私は手のひらをひたりと添えた。
まだこんなにも、温かい。
「おばあちゃん、私をひとりにするなんて、嫌だよ、ひとりは嫌だよ、怖いの、すごく怖いよ」
ぶつぶつと独り言を呟く自分が、何を言っているのかすら、わからない。
いつものように手を握る。
その手は決して握り返してくれなかった手だったけれど、結局は力を取り戻すことなく、その生命は尽きた。
尽きてしまったのだ。
「もっと働けば良かった。もっと働いて、余裕ができたら、余裕があったら、」
おばあちゃんのこと、重い、なんて思わなかったのに。
涙がぼろぼろっと溢れた。
私だけ、なんでこんな目に遭うの、とも思った。どうして、こんな辛い思いをしなくちゃいけないのか、わからなくなる時もあった。
自分の貧しさの原因を突き詰めて考え始めてしまうと、行き着くのはたった一つの理由。
全てをおばあちゃんのせいにしていた。おばあちゃんのせいで、私は貧乏なんだって。
それでも罪悪感は常に側にあり、それを私はいつも笑顔でごまかしていた。
「ご、ごめんなさい、おばあちゃん、ごめん……こんな、こんなの家族だなんて言えないよね。ごめん、ごめんね」
謝罪の言葉しか出てこなかった。自分がおばあちゃんにとって、どんな家族だったのかを突きつける結果となる。
身体の奥から、謝罪と嗚咽が湧き上がってきて、いつものようには抑えられなかった。
「ごめん、ごめんなさい。私がこ、こんなんだから、悪い子だから、おばあちゃん、ごめんね、ごめん……」
繰り返される謝罪の言葉は、おばあちゃんの耳に届いているだろうか。
許されないのかもしれない、こんな自分は罰せられて当然なのかもしれない。
神さまは、だからおばあちゃんを連れていき、そして私をひとりにしたのかもしれない。
「……わ、私、これからどうすればいい? どうしたらいい?」
涙が急激にその量を増やしてどっと溢れてきて、ベッドのシーツに染みていく。
ふと顔を上げると。
病室の窓ぎわに、ひっそりと。花瓶に挿したピンクのガーベラ。
その横には、小さな写真立てに入れられた、花の写真。
それは、白いカラーと薄いピンクのラナンキュラスだった。
「あ、これ、」
涙を拭う。
彼女さんの誕生日プレゼントの花束を買い忘れた、鹿島さんのために、私がモリタにある花材で作った花束に似ている。
「鹿島さんに……初めて会った時の、」
どこで見つけてきてくれたのだろうか、その写真を持ってきてくれた鹿島さんの、柔らかい優しさが、私をじわっと包み込んでくれた。
嬉しくて嬉しくて嬉しくて、そして哀れだった。
(こんな優しい鹿島さんに……私みたいに性格の悪い、醜い子は似合わない)
時々、看護師さんが様子を見にきてくれているのか、背後でドアが開いたり閉まったりする音がするけれど、私はおばあちゃんの手を握ったまま、泣いて泣いて、そして泣いた。




