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27。

人生、こんなことがあって良いのだろうか?


大逆転人生とは、本当にあるんだなあ。


私が考えていると、私の周りを多摩さんがうろうろとしながら、手を動かしている。経理や事務作業は、多摩さんの仕事だ。


「あーあ、小梅ちゃんに先越されたなあ」


「ええ、何がですか?」


「彼氏なんて作っちゃってえ。しかも、あの鹿島さんときた」


「そ、そんなんじゃないですよ」


「誰か、うちの娘貰ってくれるハイスペックはおらんかのう」


おどけて言う多摩さんが可笑しくて、私はぷっと吹いてしまった。


「ねえ、小梅ちゃん。須賀さんはもう要らないんでしょ? うちの娘に貰っちゃってもいいかしら?」


多摩さんの視線がキラリと光る。


「い、要らないって、言い方っ‼︎ 須賀さんとは私、関係ありませんから」


「ふふん、私知ってるんだよ〜。秋田くんから聞き出したんだからね」


「な、な、何がですか?」


多摩さんはいつも私を何らかの話題で揺さぶってくるのだけど、今回もそう決めたらしい。どうやらロックオンされているようだ。


「須賀さんに告られたんだって?」


私は内心動揺しながらも、つんと横を向いて、レシートを丸めていった。


「小梅ちゃん、意外とモテるわねえ」


多摩さんのニヤニヤ顔が近くをうろうろとする。


「意外にって失礼な。そんなんじゃありませんよ。須賀さんは、彼女さんとあまりうまくいってないって……別れるかもしれないって私にこぼしただけですよ」


「うわあ、それはもう告ってんのと同じでしょ」


「違います」


私は、ピシャッと言い切ると、丸めたレシートをレジの棚に放り込んだ。


✳︎✳︎✳︎


目線ほどの位置にある生クリームをよいしょっと掬うと、前に座っている鹿島さんとばちっと目が合った。


苺パフェに目を戻すと、生クリームに埋まっている真っ赤な苺を横へとずらす。とても高くて手が出ない苺が5個も乗っているなんて、どういうことなんだ。嬉しくて口元がムズムズとしてきた。


「楽しみは後にとっておくんです」


鹿島さんは、なぜか嬉しそうに頷いている。


私が何かひとつ話すと、その度に相好を崩し、うんうんと笑顔で聞いてくれる。


(なんだろう、今日はなんだか機嫌が良いみたい)


もちろん私も大好きな苺とパフェと鹿島さんを前にして、夢のような時間を過ごしているのだけれど。


「苺は、日にちが経ってしまって売りものにならないものを少し分けてもらえるんですけど……」


うんうん、と鹿島さんが頷く。


「三つくらい食べて、あとはジャムにするんです」


そうなんだ、鹿島さんがコーヒーカップを持ち上げる。


一緒にパフェを食べると言っていて、スプーンだって二つもらったのに、全然口にしようとしない。


鹿島さんはチョコが好きだから、チョコパフェの方が良かったのかもしれない。


私がどうぞとパフェを勧めると、鹿島さんはスプーンを持って、バニラアイスの部分を掬った。


「ん、美味い」


「苺も食べてくださいね」


「うん、ありがとう」


そう言いながら、生クリームとバニラアイスを交互に食べている。


(こうしていると、少しは恋人同士に見えるのだろうか……)


慌てて思考をストップ。


順番を鹿島さんに譲ってから、バニラアイスをスプーンで掬おうとして、はたと手を止めた。


(苺を……残してくれてるんだ)


優しさが染み込んでくる。


私に苺を残してくれる鹿島さん。テーブルの上にスマホを決して置かない鹿島さん。そして、おなか痛くない? パフェ残していいからね、食べられるんなら食べちゃってもいいけど、ああ、食べちゃうんだね、と笑う鹿島さんが好きだ。


幸福感は貰うばかりで、私は鹿島さんにあげられているだろうか。


さっき、話していたパーティーについて、オッケーする。


鹿島さんが喜ぶなら、鹿島さんが嬉しいなら。


きっと私は、なんだってする。


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