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13。


「おばあちゃんー、来たよー」


病室に入ると、いつもと同じ光景。眠っているおばあちゃんは、いつも幸せそうだ。


私はカバンを長イスに置くと、ベッドの横に置いてあるイスに腰かけた。


ここはいつでも私の定位置。


私と一緒で、おばあちゃんにとっても、私が唯一の血の繋がり。そう確認する場所でもあって。


「おばあちゃん、この前話していた鹿島さんって人、覚えてる?」


私は、ベッドに頬づえをついて、おばあちゃんの匂いを確認した。そっと、手を取る。すると、ひやりとした手の体温。ぐっと握ると、ピクッと跳ねた気がした。


「今度はねえ、メープルに来てくれてね。もう驚いたのなんのって」



私は、ふふふと笑いながら、おばあちゃんに話し掛けた。


眠りに就いているおばあちゃんには、何でも話せる。モリタで起こったことや、メープルでの出来事。そこで働く大好きな皆んなのこと。たまに、死んでしまったお父さんお母さんの思い出などなど。


泣きながらでも笑いながらでも、おばあちゃんには何だって話せるんだ。仕事の愚痴だって、オッケー。


ただ一つのことを除いて。


「鹿島さんのお友達も一緒だったんだけどね、大同さんっていうんだけど。これがまた面白い人でね、」


お金の話はしない。


入院費がどれくらいいるとか、貯金が底をついたとか、そういうことも話さない。おばあちゃんに聞かれて困ることは、絶対に話さない。


「……だけどね、私は鹿島さんの方が好きかなあ……って」


私は思い浮かべた。


家の引き出しに眠っている通帳の数字も、限りなくゼロに近い。


けれど、もうすぐお給料日だから、大丈夫なはずだ。それまでは冷凍してとってある白ご飯があるし、明日秋田さんが新作を作るって言ってたから、味見でおかずを貰えるだろうし、おばあちゃん、私は大丈夫だからね。


「こういう話はやっぱ照れるー……でも、私ね。やっぱり鹿島さんが、」


ベッドの上に置いた両腕に頭を乗せて目を瞑ると、眠気がやってきて意識が遠のく。


「……好きだなあって……」


おばあちゃん、聞いてる?


私は大丈夫だよ。


こうやって、隠れ好きな人もできたし。


隠れって‼︎


いいの、いいの。


私なんて、全然つり合わないのわかってるんだ。恋人とかにはなれないから、「知り合い」ってことで。


それでもすごいことなんだよ‼︎


だって、鹿島さんはおっきな会社の社長さんなんだからね‼︎


時々、買い物に来てくれて少しでも話ができたら、それでいいなって。


それに、いつも話してるでしょ。モリタやメープルのみんなが優しくしてくれる。


私、自分で言うのも何だけど、人には恵まれているから。


だから、心配しないでね……。


いつのまにか、私は眠っていた。

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