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3。


「高望みなんですけどねえ……」


自信のなさが表れる瞬間。


えへへ、と頭を掻きながら言うと、いつも多摩さんがフォローしてくれる。


「なに言ってんのよ。小梅ちゃんにはちゃんとハイスペックな彼氏ができるに決まってるでしょ」


「ハイスペック?」


「私の娘がねえ、いっつもそれ言うの。ハイスペックってのは良く出来た男っていう意味。小梅ちゃんならともかくよ。うちの娘にそんなの来ると思う?」


顔を歪ませて言う多摩さんが面白くて、私は笑った。


「私にだって、そんな人、現れませんよー」


「さっきの花束の人、いかにもハイスペックって感じだったねえ」


「ふふ、そうですね。恋人に花束をプレゼントするなんて、絵に描いたような王子様です」


「本当にね……ねえねえ、メープルの双子のどっちか、まだ一人結婚していないよね?」


「真斗さんですか? 独身と見せかけたバツイチで、しかも元ヤンです」


「隼人くんの方はよく買い物に来てくれるから知ってるんだけど……真斗くんはあんま顔見せないからねえ。バツイチでも良いんだけど……元ヤンかあ。怖い?」


「怒らせると」


「うーん、うちの娘、気が弱いからだめだな」


「多摩さんにはお年頃の娘さんがいますってこと、一応伝えておきますね」


「うん、まあ、一応よろしく……あ、あとこれ良かったら食べてー」


多摩さんから手渡された袋。


中を見ると、タッパーが動いてがさがさ、と音がした。


「パンの耳、たくさんもらったから、パン耳ラスク作ったんだ」


私は顔を上げて、言った。


「ラスクっ‼︎ 大好きですっ」


「でしょー。たんと食べな」


「多摩さん、いつもありがとうございます」


多摩さんはいつもこうしてスイーツを手作りしては、おすそ分けしてくれる。食料の中でなかなか手が出せないものナンバースリーに入っているスイーツ。三位がそのおやつで、二位は果物、一位はお肉だ。


私にとって、多摩さんのスイーツは格別で、おすそ分けをいただいた日はもうそれだけで、帰り道の足取りも軽い。


周りをキョロキョロと見回すと店長や秋田さんの姿はない。そっと、タッパーの蓋を取って、一つ口に入れた。


サクサクと、口にシュガーの甘みが広がっていく。


「んんーー、最高に美味しいです」


多摩さんが笑いながら、「小梅ちゃん、堂々と食べなって‼︎」


バシンと背中を叩くので、ラスクの粉が鼻の奥から入りそうになって、むせる。


「多摩さんー、手加減してくださいよ」と言いながら、タッパーを横に置いた。


そして、さっき作った花束の残骸やラッピングの切れ端を手早く片付けると、私はモリタのエプロンを脱いでレジ下の棚に突っ込んだ。

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