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2。


いつもの時間、お店を閉めていると、自動ドアの向こう側に誰かが立っている。


(あれ、業者さんじゃないし……誰だろ?)


近づいていくと、背の高いスーツ姿の男性。


中を覗き込んでいて、何か用事がありそうだった。


すぐにも駆けつけて、自動ドアを手動で開ける。すると、男性は驚いたような顔をして、私を見た。


「何か、ご入用でしたか?」


声を掛けると、途端に狼狽えた。その様子を見て、あ、可愛いなと思った。


高校を卒業してから直ぐに働き出した私の周りには、あまり大人の男の人はいない。


スーパーのレジで働いていると、たくさんの買い物客と知り合いにはなるけれど、ここモリタがある商店街は、それ自体がもう、さびれてしまっているし、そうなると客層は決まってきていて、その中に「これぞ大人の男性」という人は存在しなかった。


こうしてスーツを着た会社員にも、ここスーパー モリタでは一人たりとも遭遇しないのだ。


私は、これは本当に珍しい出来事だ、と思いながら、問い掛けの返事を待った。


「あ、えっと、花束は売っていませんか?」


その優しい声のトーンに、私の心臓が跳ねた。


けれど、言っている内容はよくわからないものだ。ここは、スーパーであって、花屋ではないのだけど。


モリタの道を挟んで斜めにあるサツキフラワーさんを紹介する。けれど、サツキフラワーさんの皐月さんは、閉店時間の前にいつも笑顔でシャッターを容赦なく閉めてしまう人だということに気がついた。


あらら、と思う。この近くに他の花屋はない。


「お花はあるんですけど……何かのお祝いですか?」


「ああ、彼女の誕生日で……」


そっか、彼女がいるんだ。


私は、心のどこかで少しだけ落胆しつつも、スーツのよれを直しながら手持ち無沙汰にしている男性を見て、何とかしてあげたい気持ちになった。


私の後ろから店長が出てくると、男性は困ったような顔をして、「こんな大騒ぎになってしまって。本当にすみません、もう諦めます。ありがとう」と謝った。


その優しい言い回しに、私はとっさに「でも、彼女さんもお誕生日にお花を貰えたら、喜ぶと思いますよ」と返してしまった。


きっと、この男性もそんな恋人の笑顔を期待したに違いない。


こんな遅くまで仕事をしてから、彼女の誕生日に駆けつけるくらいなのだから、本当に愛し合っているのだろうな、と思った。


(……羨ましいな)


比べるのもなんだけど、私が帰る家には誰もいない。


空っぽの家で暮らしている私にとって、その「愛」はとても眩しく、そして温かく思えた。


もちろん、ここモリタに来れば、頑固だけど優しい店長、口は悪いけれど私を構ってくれる料理上手な秋田さん、家事のことや料理の心配をしてくれる多摩さんがいるし、隣のメープルには双子のお兄さんたちがいるにはいるから、寂しくはないけれど。


(でも……やっぱり、私を好きだって言ってくれる人がいるといいなって、)


思うと、さらに羨ましい気持ちが増えてきて、困ってしまった。

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