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二十九、

「よお、ご両人っ」


大同の声がして、鹿島は少しほっとした。


「こんばんはっ」


小梅がぴょこっと頭を下げる。


大同は小梅を見て、おおおおっと歓声を上げた。


「小梅ちゃん、めっちゃ可愛いな」


大同がニヤッと笑って、鹿島の脇腹を肘で突いた。


「こりゃ、見せびらかしたくなるってもんだ」


「大同さん、私、どっかおかしくないですか?」


「えー、全然大丈夫だよー。ってか、良いなあ、鹿島はあ。こんな可愛い子連れちゃってー」


おちゃらけた態度で大同が言うので、小梅の表情も幾分か柔らかくなる。先程から、取引先の重役や取締役、年配の人にしか声を掛けられておらず、小梅をじっくりと紹介する隙も与えてもらえなかった。


花奈の時は、相手から振ってくれたので紹介しやすかったのもあるが、小梅は若過ぎて皆、どう振っていいか迷った末、スルーされるパターンが多かった。


鹿島は、小梅を、「小梅さんです」としか紹介できなかった。


花奈の時ももちろん、敢えて恋人だと紹介はしなかったが、大体の人は察してくれた。


「これはお美しい方と……羨ましい限りですな」


会話は必ずと言っていいほど、そこへと落ち着く。


けれど。


「こちらは、小梅さんです」


そう紹介しても、ああ、そうですか、で終わってしまうのだ。


小梅は精一杯のお辞儀をして、鹿島と相手が話終わるのを、ニコニコと笑いながら待っている。


大同が声を掛けてくれて、心底、ほっとした。それは、小梅も同じだろうと思う。


小梅を見ると、息を抜いて、大同と話している。


「でさ、あの右のやつ、食べた?」


「あのオレンジのやつですか? 食べましたよ、すっごく美味しかったです」


「じゃあ、その隣の緑のやつは?」


「あれは、まだ食べていません。美味しかったですか?」


「美味しいよ、すごく。よっし、食べに行こう」


大同が小梅の肩を抱いて、促す。


「おいっ、」


その姿にムカッときて、鹿島は声をあげた。けれど大同は構わず、お前はそこにいろ、と言い残して、小梅を連れていく。


「くそ、あいつ、勝手なこと」


長テーブルの前で、皿を持つ小梅。大同と楽しそうに話しながら、料理を取り分けている。そこへ、大同の部下の男が割り込んでいって、何か小梅に向かって話し始めた。


(大同もチャラいヤツだが、大同の部下も相当チャラいな)


イライラとしたが、近くを通りかかった給仕が持つワインを取って、ぐびっと飲んだ。


(何を話しているんだろう)


小梅が、笑っている。すると、男も笑った。もちろん、大同も大笑いしている。


(俺はいったい……)


くすぶる気持ちをなんとか押さえて、じりじりしていると、「鹿島さん、お久しぶりです」と声が掛かった。


振り向くと、前は取引先の担当で、現在はそこを退職し、最近起業したと噂の女性が立っていた。


「ああ、たちばなさん、こんばんは」


「ご無沙汰しています。その節はお世話になりました」


「こちらこそ、」


「名刺交換、お願いしてもよろしいですか?」


鹿島は了承した。


胸ポケットから、名刺入れを出す。


「鹿島さんのは、以前いただいたのがありますが……」


「以前と、ポストが違っているかもしれませんよ」


その言葉に、ふふ、と笑う。


「相変わらず、楽しい方ですね。はい、これ、私の名刺です」


受け取ってから、鹿島は手を止めた。


手書きで携帯番号が書いてある。


「何かご用がおありでしたら、どうぞいつでも連絡してください」


にこっと笑って、じっと見つめてくる。いわゆる、熱視線というやつだった。


それを鹿島は微笑みで返すと、名刺を胸ポケットへとしまう。


「先日の講演会、拝聴しました。素晴らしい、講演でしたわ」


「それは、ありがとう。あまり、ためにはならないかもしれないけど、」


「そんなことはありません。ぜひ、実践させていただきます。鹿島さんのお話はユーモアもあって、本当に、」


「失礼します」


そこで話の腰を折って、もう一人、女性が入ってきた。


「橘さん、私もお話に混ぜてください」


「あら、今は私がお話ししているのに」


女性はそれを無視する形で、構わずに鹿島に話し掛けた。


「鹿島さん、私、藤間不動産の藤間ふじま 詩織しおりです。先日は、父が大変お世話になりました」


「ああ、はい、その節は……」


曖昧に返事をしながら、二人の女性の合間から、ちらっと小梅を見る。小梅の周りには、大同を入れて男が四人に膨れ上がっている。


しかも、大笑いで楽しそうだ。


(なんだよ、くそ)


内心、気に食わなかった。大同に文句を言ってやらないと気が済まない、そんな気持ちになっていた。


「すみません、連れがいますので、」


手を上げて、二人の間をすり抜けようとした時。


肩口を押さえつけられた。


驚いて見ると、橘の手が肩に置かれている。それも、失礼だとは思った。


けれど。


「鹿島さん、あの方……鹿島さんのお連れの方。どんなご関係なんですか?」


このパーティーで一度も訊かれなかったことだ。


ストレートに問われて、一瞬、言葉に詰まった。その隙に橘が畳み掛けるように言う。


「親戚のお嬢さんか何か?」


その言葉に鹿島はキレた。


「僕の恋人です」


まあっ、と口元を手で押さえる。


「あんなお若い……どこのお嬢様なんです?」


「あなたに関係ないでしょ」


言い放って二人の間をこじ開けて、抜けた。


小梅が笑ってる。鹿島は、小梅の腕を取ると、ぐいっと引っ張りながら踵を返した。


「鹿島、ちょっと待て、」


大同の焦った声が遠いところで聞こえた。


けれど、鹿島はエレベーターに乗るまで、小梅の腕を引っ張り続けた。

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