二十二、
「美味しいですか?」
「うん、すごく美味しいよ」
「秋田さん直伝のポテトサラダなんですよ」
「道理で美味しいはずだ」
公園のベンチで座り、小梅が持ってきたサンドイッチを食べる。ポテトサラダサンドとハムサンドが、空腹のお腹にとても美味しかった。
(こんな風に外で食べたことなんか、久しぶりだ)
見上げると青空に、ぽかりと白い雲が漂っている。
鹿島は、サンドイッチを片手に持ったまま、すうっと息を吸って肺に空気を入れた。
花奈とのデートは、毎回高級店だった。花奈は雑誌で紹介されたり、新しい店舗ができたと聞けば、まずは自分が行ってみないと気が済まない性格だった。
「不味くはないですが、そんなに美味しいってほどでもありませんね」
そのセリフに、毎回合わせて顎を打っていた。
口に入れたものは、ほとんどが同じような味。
手で持っているサンドイッチを見る。
(どうしてこんなにも味が違うんだろう)
腹が減っている、というのもあったのかもしれない。滑り台で遊んだ後は、シーソーに乗った。シーソーに乗っていると、子どもが二人やってきて、交代してと言う。鹿島が恥ずかしく思いながらシーソーから降りようとした時、小梅が笑って言った。
「ジャンケンで勝ったら、譲ってあげる」
「いいよ、やるっ」
兄と妹のきょうだいなのだろう。兄の方がずいっと前へ出て、最初はぐーっとこぶしを出した。
「ジャンケンポンっ」
小梅がパーで、兄がチョキだった。
「あー、マジでー、負けたあ。悔しいいいぃ」
その小梅の悔しそうにする演技を見て、鹿島は笑った。
「お兄ちゃん、妹ちゃんが転げ落ちないように、気をつけてあげてね」
妹の方を抱っこして乗せてあげる。
そんな小梅の姿を見て、なぜか胸がじんっときた。
あのモリタでの姿。おばあさんの荷物を家まで運んでいく小梅の後ろ姿。
(それから……たくさん遊んで、たくさん笑って)
「鹿島さん?」
はっとして、顔を上げた。
「あんまり美味しくないですか?」
「違うよ、美味いんだ。美味すぎて、感激してた」
胸がいっぱいになってしまって。
「ふふー、お世辞が上手ですね」
「お世辞じゃないよ。本当なんだよ」
真剣な声が出て、小梅の動きが止まった。
「あ、ありがとうございます」
鹿島が、小梅の顔を見ると、小梅の頬はほんのり赤く染まっていた。
(あ、耳まで真っ赤……可愛いな)
そう思った自分の顔も真っ赤になったような気がして、鹿島は慌てて、最後のサンドイッチを口に詰め込んだ。
楽しくて仕方がなかった。ドキドキもした。
こんなデートは初めてだ、そう思った。
だから、そんなデートの最後にこんな結末が待っているとは思わなかった。




