筋肉と痔疾患、乙字湯の科学的アプローチ
痔の悩みを抱える筋トレマニア・岸本さんが来店! クリニックで処方された『乙字湯』への疑念を抱く彼に対し、陣内が「大黄による便の軟化」「肛門周囲の静脈鬱血改善」「柴胡+黄芩による胸脇苦満・柴胡剤としての側面」を完璧に解き明かす! 先ほどの篠田さんに続き、怒涛のムキムキ来店ラッシュと陣内の化け物級の漢方臨床データ量に「ムキムキ来すぎっしょ……」とドン引きしつつ口を開ぐあげはの爆笑エピソードをお楽しみください!
俺は――岸本27歳…。
何を隠そう……切実な「痔」の悩みを抱える男である。
意を決して肛門科を受診し、処方薬をもらってきたのだが……手渡されたのは『乙字湯』という謎の漢方薬だった。
(本当に効くのか、コレは……!? 俺は怪しげな自然派思想なんかより、断然プロテインを愛する筋肉マニアだぞ! ムキムキこそ最強! だが解せん……!! 俺はこんなに全身の筋肉を鍛え上げているのに、なぜケツの穴(肛門)ばかり切れるんだ!! 頼むから肛門括約筋もジムで鍛えさせてくれよ……!!)
ブツブツと心の中で葛藤しながら歩いていると、先ほど腹を押さえて苦しそうにしていたムキムキの男(篠田さん)が、吸い込まれるようにドラッグストアへ入っていくのが見えた。
(ん……? やつも体を痛めたムキムキじゃないか……! トレーニーの友よ……俺も入ろう!)
店内に入るやいなや、先客のムキムキ男が白衣を着たギャル実習生に声をかけている。
(ハッ……はぅあ! デケェ……!! 胸囲の存在感が凄まじい実習生だな……! 分かっているようだな、ムキムキの友よ! 俺だって骨密度ブースにいるボルドーの美人薬剤師より、断然こちらのお嬢さんが……いやいや、紳士だぞ俺は……!!)
見守っていると、ギャル実習生が奥から「冷蔵庫」のような引き締まった体躯のイケメンエリア長(陣内拓海)を連れてきた。なにやら漢方の専門的な解説をしているようだ。
(よし……あの冷蔵庫エリア長と、俺の『乙字湯』について納得がいくまで話してみよう。ロジカルな説明がなければ絶対に飲まんぞ!!)
やがて先客の篠田さんが劇的な納得顔で去り、横で実習生のあげはちゃんが「漢方マジやばいっしょ……」とビビり倒していた。
俺はツカツカと面談ブースへ歩み寄った。
「あの……話を聞いていましたが……私は少し、漢方というものに懐疑的でしてね」
陣内は嫌な顔一つせず、穏やかな笑みを向けた。
「どのようなお薬をお持ちでしょうか?」
「『おつじゆ』……とかいう漢方なのですが……」
「『乙字湯』ですね。……痔の症状にお悩まされているのですね。お辛いですよね」
「なっ……!? なぜ薬名だけで病名をズバリ当てやがった……!?」
俺が狼狽する間もなく、陣内は俺の全身のビルドアップされた体格を一瞬で見抜き、静かに分析を始めた。
「お客様も見るからに筋肉ムキムキでいらっしゃる。体力スペックは『実証』、体質は陽の気です。……普段、お便りは硬めではありませんか?」
「なっ……!? な、なぜ俺の便が硬いことまでお見通しなんだ……!?」
驚愕する俺に、陣内はホワイトボードに素早く生薬名と薬理作用を書き出しながら、流れるようなプロの解説を叩き込んできた!
「乙字湯の薬理作用は、大きく分けて3点あります。
第一に、肛門周囲の血流(静脈瘤のような鬱血)を強力に改善する効果。
第二に、局所の炎症・出血・腫れ・痛みを抑える効果。
そして第三に、便を適度に柔らかくして排便時の摩擦・負担を劇的に軽減する効果です」
「便を柔らかく……!?」
「はい。乙字湯には、下剤作用を持つ生薬である『大黄』が含まれています。だからこそ、便が硬くて排便時に切れやすい実証の方にドンピシャで効くのです。逆に、普段から下痢を起こしやすい方や妊婦さんには慎重投与(または大黄を減量・除去した別の処方)が検討されます。岸本様のお体と症状を見て、主治医の先生は間違いなくこの『便の硬さ』と『実証』を考慮して乙字湯を選ばれていますよ」
(なっ……なんだと……!? 適当な気休めではなく、そこまで計算し尽くされたロジカルな処方だったのか……!?)
さらに陣内は、先ほどの篠田さんの解説とリンクさせるように言葉を繋げた。
「先ほどの方にもお話ししましたが、乙字湯は単なる痔の薬にとどまりません。構成生薬に『柴胡』と『黄芩』が含まれていますからね。広義の【柴胡剤】としての側面を併せ持っているのです」
「柴胡剤……!?」
「ええ。日常のストレスによる気の滞りや、軽度の『胸脇苦満(みぞおち〜肋骨下の張り感)』を伴う方の痔疾患にも、非常に適合しやすいという素晴らしい特徴があります。筋肉トレーニングによる腹圧の負荷や日常の緊張も含めて、全身のバランスを整えてくれますよ」
(なっ……なんと緻密に考え抜かれた理論的な薬なんだ……!! 漢方なんて気休めの植物の粉だと思っていた俺が浅はかだった……!!)
陣内は優しく微笑み、俺の目をまっすぐに見つめた。
「病院でしっかり選択されて頂いてきたお薬ですから、安心して指示通り服用なさってくださいね」
「あ……はいっ!! 今すぐ帰って服用させていただきますっ!!」
完璧すぎるロジカルな回答と圧倒的な知識量に完全に圧巻された俺・岸本は、深々と頭を下げて店舗を後にしたのだった。
面談ブースの横で、篠田さんに続いて岸本さんまで見事に撃ち抜かれた一部始終を見ていたあげは。
ポカンと口を大きく開けたまま、あまりの光景に呆然と呟いた。
「いや……今日……ムキムキ来すぎっしょ……!!」
漢方の臨床応用を恐ろしい精度で連発する『ドスケベ&プロ薬剤師エリア長』の底知れぬパワーに、調剤室の全員が再び戦慄する白鳥駅前店であった。
「少しでも『面白かった!』『続きが気になる!』と思ってくださったら、下部の【★で評価する】や【ブックマーク】を押していただけると執筆の大きな励みになります!」




