千年ぶり
一旦、読み切りの魔女の物語です。
ドラゴン編以降も構想中ですが、また溜まったら更新します。
千年を超える魔女の旅をお楽しみください
『ようこそ魔法都市トーカイシティへ。
最新の術式や魔道具、それからMagician’s Battleといったマジックエンターテイメントまで。
どうぞ隅から隅までお楽しみください』
街に入ると、魔導人形が喋りかけてくる。
大都市トーカイシティは今日もひどく賑やかだ。
大通りには昼間から魔法灯が淡い光を浮かべ、頭上では箒や飛行マントに乗った者たちが、空中に設けられた交通路を忙しなく行き交っている。黒いスーツ姿の男が箒の柄に鞄を吊るして時計を気にしているかと思えば、そのすぐ脇を、マジックボードに乗った若者たちが笑い声を上げながら追い越していった。
角の生えた者も、獣の耳を持つ者も、腕を鱗に覆われた者もいる。背中に大きな翼を畳んだまま歩く者さえ珍しくない。それぞれが仕事へ向かい、店先で買い物をし、子どもの手を引いている。種族の違いなど、誰も気に留めてはいなかった。
街頭のマジックビジョンでは、二人の魔法使いが派手な炎と雷をぶつけ合っている。
『さあ、Magician’s Battle決勝戦! 今年の王者は――!』
歓声が交差点を包んだ。
魔法で空を飛び、魔法で働き、魔法で遊ぶ。
そんな光景が、ここでは日常だった。
「すごいわね」
街の真ん中で、大きなとんがり帽子を両手で押さえながら、一人の魔女、オトが辺りを見回していた。
「なにがです?」
隣を歩くもう一人の魔女、ナナが尋ねる。
「魔法で遊んでるよー」
「競技です」
「似たようなものよ。ずいぶん余裕のある世界になったのね」
「それについては同感です」
二人とも黒いローブに大きなとんがり帽子という、絵本から抜け出してきたような姿をしている。オトは箒と黒猫を連れ、ナナの肩には黒いカラスが止まっていた。
これほど魔法が生活に溶け込んだ時代だからこそ、逆に彼女たちほど古典的な魔女の格好をした者は珍しい。すれ違う者たちが時折振り返っていたが、オトはまるで気にしていなかった。
「でも都会は嫌い」
「まだ十分も歩いていません」
「もう疲れたぁ」
「ここに行くと言い出したのはオトでしょう」
「あ、そうだった」
人の流れに押されながら、オトはふと顔を上げた。
建物の隙間から、緑が見えた。
公園の木などではない。
雲の近くまで伸びた幹が、街の中心から空を貫いている。根元の周囲には古い街並みが密集し、その外側を新しい建物が幾重にも取り囲んでいた。
枝は高層建築の屋上よりはるか上まで広がっている。
その巨大な樹冠のあいだからは、龍が何頭も飛び出していた。
さらに大樹を囲むように、高さの違う十本の塔が街の空へ伸びている。一番低いものから順に少しずつ背を伸ばし、最後の一本は大樹と肩を並べるほど高い。
ナナが足を止めた。
「あれは……アファル?」
目を細めながら、遥か上の樹冠を見上げる。
「大きくなりましたねえ」
オトは答えなかった。
「オト?」
「…………」
オトは、天まで伸びたその大樹を黙って見上げ、そっと目を閉じた。




