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間章




「神代さん⁉」




 どさり、と紡の体が床に崩れる。



 まるでスローモーションのような光景を認識するのに、綾乃の中で一瞬のラグがあった。そのあと、悲鳴に近い綾乃の声が喉から零れて、体育館に響く。




 周囲で桃色の空気をまとっていた生徒たちが何事かと視線を送る。綾乃たちを取り囲んでいた記者たちの興味がゴシップネタに食いついたのを肌で感じた。



 またもやフラッシュが激しく炊かれ、あまりの眩しさに綾乃は目を細めた。


 好奇といくらかの愉悦の入り混じった視線。綾乃は生憎こういうことには慣れていなかった。若干の面映ゆさが胃の底の方を撫ぜていく。



 だが、だからといって紡のことを放っておくわけにはいかなかった。もしかしたら頭を打ってしまったかもしれない。綾乃は慌てて紡の横に膝をつき、うつぶせの体を起こす。




「神代さん、大丈夫ですか?」




 正座した膝の上に頭を乗せてぺちぺち、と控えめに頬を叩いて呼びかけるも反応はない。代わりに彼の、艶やかな濡れ羽色の髪の毛がおでこでさらりと揺れた。



 先ほど見ていた時に驚いた、陶器のように白く滑やかな肌はさらに透き通って、青白いとさえも感じる。


 額には玉のような汗が浮かび、時折苦しそうな息が漏れる。眉間にはしわが寄っていた。先程までの無表情で冷徹な態度が一転して、明らかに不健康な状態だった。




「あの、誰か!」




 体育館にいる生徒たちは綾乃の第一声で関心を向けてくれたものの、メディアのカーテンで内部の状況を理解できずにいるらしい。


 綾乃が得意ではない大声を張り上げて周囲に助けを呼ぶも、メディアの人々に囲まれてうまく外に声が通らない。



 当の記者たちは、二人を取り囲み、無機質なレンズをこちらに向けたまま微動だにしない。好奇心とネタに対する飢えが綯い交ぜになったような、ある意味冷徹な瞳を向けている。




 早く紡を楽に休める場所に連れていきたいのに、このままでは無意味な時間が流れていくだけだ。埒の空かなさに綾乃の頬に一筋の汗が流れた。




「誰か————」



 声がすぼまる。早くこの人たちにどこかに行ってもらいたかった。カメラで撮るなんて非常識な真似は早急にやめてもらいたかった。



 きっと彼らは倒れたパートナーを献身的に看病する片割れ————そんな記事でも書きたいのだろう。



 いくらデモンストレーションだったとはいえ、その余韻がすぐに冷めることはなく、一番注目しやすいカモとして先程からとらえられていたのは重々承知していた。




 だから、カメラのフラッシュが多少瞬くのは、性質上仕方ないかけれど、これはあまりにもひどすぎる。倒れた人がいるというのに、自分勝手にネタ取りを優先させるなんて、人としてどうかしているんじゃないか。





「————っ」




 だけど、綾乃にはここでさらに声を荒げる気概はなく、未だぐったりとした様子の黒髪の美少年の頭に手を乗せながら、悔しさで唇をかみしめた時だった。





「はいはい、ちょっとお引き取りいただけますか~?」





 ぽん、と。




 綾乃と紡を取り囲むカーテンの中で、特に白熱してカメラのシャッターを切っていた記者に手が置かれて、それからわずかに威圧感を孕んだ声がすっと空気に溶け込んだ。




 記者たちの視線が一気に、その声の主に向けられる。綾乃も一瞬誰かと思い視線を送り、それから少し緊張が和らぐのを感じた。銀縁の眼鏡に明るい茶髪、純白のタキシードで全身をきめた社長兼学園————桜に声をかける。





「あの、学園長。神代さんが」



「うん、分かった。何人か呼んできたから。安心して、北条さん」


「はい……」




 ぐい、と強引に記者を押しのけ、綾乃にやさしく微笑みかけた桜の背後から、養護教諭らしき人が何人かやってきてくれたのが見える。



 ほ、と肩を下ろした綾乃の膝から担架に乗せられた紡が、早急に体育館の出口の方へ運ばれていく。そこに追随しようとした記者に向かって、桜は唐突ににこやかな笑みを向けた。





「どこ行こうとしてるのかな? 僕の場所で好き勝手するのいただけないなぁ」


「「「「「‼‼」」」」」





 記者たちの体に緊張が走る。桜の声色はやさしそうに聞こえるのだが、そこに含みがあることに気が付いてしまったからだ。恐る恐る肩越しに、振り返って桜のほうを見てみる。視界にいる桜は満面の笑みを浮かべているものの、その瞳に一切の笑いの光がなかった。




「僕はさ、やっぱり会社の繁栄っていうのも大事だと思うから、メディア撮影も結構アットホームに迎え入れてるつもりなんだけどね」




 コツコツ、と体育館の出口に一番早く駆けたものの、凄みで見事に動きを固められた記者に向かって、ゆっくり桜が歩み寄る。




「流石に今のは非常識じゃない? 病人―――――しかも僕の生徒をネタにするっていうのはいただけないなぁ。あくまでこれは、『CHERRYQUITESEA』学園について注目するための報道でしょ? ほんとーにあり得ない」




 先程までの陽気な雰囲気が一変、瞳を暗くした桜が、ピン、とカメラのレンズを軽くはじく。それからすっと記者の近くに顔を寄せて囁いた。




「こちとらお前の会社なんて一ひねりだぞ? ……TOUKEN会社の向日君」


「!」





 記者の腰が抜け、カメラがごとっと音を立てて床に落ちる。それだけで効果は十分だった。桜の圧倒的な社長の風格……その鱗片を感じ取ったものから徐々に紡綾乃ペアに固執しようとは考えなくなった。





「おい、やべーぞ」




「撤退しよう」



「そうね」






 すごすごとほかの生徒達にカメラを回そうとインタビューの準備をしようとした記者に、桜が抜け目なく声をかける。





「あ、もちろんそちらの人たちもデータは消してね? どこの界隈だろうがそれが漏れた瞬間全部潰すから」





 何名かの記者は図星が付かれて動きを止めた。どさくさに紛れてこのネタを投入すれば盛り上がること間違いなしと思ったのだが、どうやらそれも叶わないらしい。流石に天下の『CHERRYQUITESEA』を敵に回すことは死を意味すると分かっていたので、おとなしくそれに従うことにした。





「……凄い」






 綾乃はぽつりと呟く。自分ではどうしようもなかった出来事が、桜の手によって 一瞬で決着がついたことに感嘆するしかなかった。




 やはり、人の上に立つものはこのようなカリスマ性を兼ね備えないといけないのか、そう思わせるようなたち振舞い方だった。





 そういえば、と思い出す。


 依然読んだ雑誌の特集で、桜についてこう書かれた記事があった。


 あるものは、社長をこう評する。常に笑顔で印象の良いビジネスマン。





 ある人はこう言う。つかみどころのない狐。





 そして、ある界隈でうわさされているのがこれだ————獰猛な狼。




 自分が気に入ったものは一切妥協せず貪欲に手に入れる狩りの王者。そして一度くらいついた獲物を一切放そうとせず、それの危険が脅かされる際に最大の怒りを爆発させる恐ろしき怪物—————

 まさに先程の眼光の鋭さなんて、あの描写にそっくりだった————と変に感心していると、くるりと桜の視線が綾乃のほうに向いた。





「北条さん」



「ひゃい!」





 思わず驚いて方が跳ねた。一瞬桜は変なものを見るような目をしていたが、すぐに柔和な笑みを浮かべなおして続けた。





「神代君に付いて行ってくれるかな? 状況とか説明してもらいたいし」


「は、はい!」




「保健室は分かる?」




「はい、先ほど館内地図を確認しましたので」




「じゃ、レッツゴ~」



「はい」





 桜の一転して陽気な声に戸惑いながらも慌ててうなずいた綾乃は、紡が消えていった出口の方へ走って行った。






「ふう、一件落着」




「そんなわけないでしょう、社長。周りを見てくださいよ」 




 駆ける綾乃を見て額の汗をぬぐうふりをした桜に、どこからともなく現れた武井が冷えた視線を送った。




「うわ、驚いた。居るなら声をかけてくれよ凪君」



「ここで凪君はやめてください。鳥肌が立ちます」


「君ってさらっと毒舌吐くタイプだよね」



「おほめに預かり光栄です。で、どうするんですか? この空気。社長の威圧感で全員押し黙っちゃいましたよ、生徒の皆さんも」



「あり?」



 武井凪の言葉に改めて周囲を見渡した桜は、自分が派手に立ち回り過ぎたことに若干の後悔を覚えた。



 メディアの一部は先ほどすごんでしまったから仕方ないとはいえ、綾乃と紡の周囲にいた生徒達も気圧されたのか、先程まで出来立てのカップル同士で初々しい会話を繰り広げてくれていたのに、今は桜のほうをじっと見つめて押し黙っていた。



 そうにも自分が想定していた団らん感が薄れてしまっている。




「え~と」


「これ、あなたのせいですよ」



「わかってるって! ……どーしようかな」



「そうですね。大半のカップルは成立したとのことですし、もう解散してしまっては? その方が式の終了までの効率が上がりますし、今の社長の件もうやむやにできる気がします。庭園フロアのカフェテラスも準備できていますし、屋上フロアのレストランも今日は特別に早めに開店してくれるということですから、昼食を促してみては」




「————優秀な君がいてくれて助かるよ、凪君」



「お褒めに預かり光栄です」



 タブレットを操作しさらさらと今後の方針を述べる武井に桜の眉がピクリと上がる。自分で頭をひねりスピーディー解決で生徒にもう一度親しみやすい自分を魅せたいと思ったが、秘書が優秀に育ちすぎたせいでその必要がなくなってしまった。



 一言さらっと嫌味を吐いてから、それに従うことにする。





『はい、皆さん、お騒がせしました。ちょっといろいろあったけれど、もう大丈夫です!』




 どこからともなくマイクを取り出した桜が、にこやかな笑顔を振りまきながら、また壇上の方へ歩き出す。




『今日は、カップルができた人から解散にします! 明日から通常授業が始まるので、寮に帰ってゆっくり休んでください! と言いたいところですが~……先ほど竹道君や遠田君が言ってくれたみたいに、この学園には恋愛という評定付きの教科があります。

成績を上げる手っ取り早い方法は、チェリプロの示す愛称度の高い人と一緒にいることだよ! あ、もちろん、好きな人の相性度が高くないからって一緒にいちゃいけないわけじゃないよ。その場合でも成績ポイントはしっかり加算されるし、極端に不利なことにはならないよう調節するから、遠慮せず一緒にいていいよ。

……で、クラスの人なら寮のフロアが同じだから顔を合わす機会もあるだろうけど、他クラスの人とカップルになった人は、それぞれ部屋に入ってしまったら出合う機会もめっきり減っちゃうよね。ということで、今日は僕からミッションを授けます!』




「「「「「……おおお!」」」」」




 期待に胸を躍らせた生徒がどよめく。





『お昼を一緒に食べよう、です! チェリプロの【課題】ってところにさっそくその項目が追加されると思うから、好きな食事を一緒にとって、その写真をアップして完了させてね! この学園には様々な系統の食事処を設置したから、ぜひ訪れてみてほしい。

『桜亭』(和食)、

『ドームル』(洋食)、

『樱花家』(中華)、

『スピリナール』(ファミリーレストラン)、

『トスカ』(コンビニ)、

『DOT.DONUT』(ドーナツ屋)、

『ジェラ・アイス』(ジェラート&アイスクリーム屋)などなど……『CHERRYQUITESEA』傘下の飲食店他、高校生に親しみやすいお店もたくさん導入しているから、食事に困ったなんてことは三年間のうち一度も言わせないよ!』





 桜の説明に目を輝かせた生徒たちは、一斉に自分のカップルとどこに行きたいかを放し始める。




「すごい、中学良く行ってたお店ある~嬉しい」




「『樱花家』って、『CHERRYQUITESEA』屈指の高級レストランじゃない? やば~」



「そこの中華まん旨いよな~」



「『スピリナール』で一緒に食べよ! 蘭!」



「そーだね、栞。……湖沼君もいいかしら?」



「う、うん!」


「あ~っ、俺お腹すいてきた!」




「—————『DOT.DONUT』あんの? ……やった」




「まひなはさっそくアイスが食べたいなぁ」


「え……初手で?」






「———でも、お金はどうするんだろう」




「「「「「「「「「「あ」」」」」」」」」」





 とある生徒のつぶやきで、浮かれていた生徒たちの動きが止まる。ファミリーレストランやコンビニはともかく、桜が最初のほうに述べた店はどれも最高級のレストランだ。



 自分の親の支給してくれた小遣いや食費等では到底足りないと分かり、気分が一気に沈む。高校生になったからとはいえ、そこまで浮かれることはできないなと実感したからである。




 が、ここで救済の手ともいえる桜の一言がかかる。





『あ、ちなみに学園からは毎月四万円の食費提供があるよ。勿論毎日高級レストラン行くほどは上げられないけど、月に何回かは食べる機会があると思う。生徒割で少しお得にしているしね……————これはチェリプロの【財布】の中の食費って項目に自動チャージされるから、ICカードみたいに使えるよ。学園内はもちろんだし、学園の外でも一応使えるようになってる。あ、今日は学園内でね。

で、もし足りなかったら、自分のお金をチャージできるから、その時は事務室横のチャージ機に行ってみて。雑貨とか、生活用品を買うときは、食費とは別の項目を作っておくことをお勧めします。ごめん。大分説明が長引いちゃったね……じゃぁ解散!』





「「「「「「「「「やった~~~!」」」」」」」」」」






 桜がそう言い切って、マイクを天井に掲げたのと同時に、生徒たちのボルテージも上がり直した。解散の言葉にさっそく和気あいあいとした空気で体育館から退場していく。




 後に残ったのは、人ごみでまだカップルを見つけられていなかった生徒だけだ。それもすぐに人気が薄くなったことで成立が終了する。桜の解散の合図からわずか五分ほどで体育館には生徒の姿がなくなった。




「恐ろしいな、凪君は」



 本当に彼の言った通りの結末になったと、目の前の光景に桜は冷や汗をかく。




「それはこちらの科白ですよ」



「うわ、居たの? 恥ずかしいじゃん」


「確認しない社長が悪いです」



 音もなくいつもの定位置、自分の右後ろに控えていた武井から声がかかり、桜は若干のけぞる。流石に忍者みたいに存在まで消されるといくらか心臓に悪かった。いつかぎっくり腰になってしまいそうだ。




「うまくいったよ、ありがとね」



「いえ。あれくらい社長も考えてらしたことでしょう。差し出がましい真似を」



「別にいーのに」




 先程のあれは、いわばパフォーマンスだ。怖い一面を見せた桜が秘書に頭が上がらないような姿を見せることで、生徒たちの緊張を解く。

 それの意図を最速で理解し会話を紡ぐセンスは一夕一朝で身につくものではなかった。もう少しうまくいったことを誇りに思っても良いのに、おごり高ぶる様子もなくただ冷静な表情を浮かべてかしこまる武井に、桜は只々賞賛を送るしかなかった。武井の頭にポンと手を置いて呟く。





「ほんと―に君は優秀だね」


「……ありがとうございます」


「いえいえ」


「でも鳥肌が止まらなくなるので手を退けてもらってもよいでしょうか」


「え、君のそれはやっぱ素なの? パフォーマンスじゃなくて」



「さぁ、どうでしょうか。私にはわかりかねます」


「ちょ、凪君」




「凪君も辞めてください。仕事中ですので」


「凪く」


「仕事はまだたくさん残っています。山積みの案件を早急に片づけることに尽力してください……ほら、本社に戻りますよ」




「……」





 一瞬桜の言葉に照れたように見えたが、即座に無表情に切り替え次の仕事スケジュールを告げる武井に桜は閉口する。やはり、我ながら優秀な人材を育て上げすぎたようだった。





「もうすこし愛想が欲しいな。凪君。あと、一緒に食事しようよ」


「お断りします。外に車をつけていますので、さっそく向かいましょう。その道中でお昼は取ってください」


「も~……」




 しょうがないな、というように桜はため息を付いて、それから武井の言葉に従い大人しく壇上から降りる。彼に逆らうのはいくら自分の立場が上といえども、身の危険しか感じないことを知っているからだ。


 ……前に一度本気でごねたら、社長室に置いてあったゴルフの優勝トロフィーを手にした武井に睨まれて、本気で殴られるかと思ったことがある。




「————『御津比良(みつひら)』のサンドイッチとアップルティーを手配しておりますので、ご了承ください」


「‼ さっさと行くよ~」


「はい」




 飼い犬に手を噛まれた状態で、若干しょげていた桜の気分がぴょこりと上がる。


 石釜焼きを得意とする高級パン屋『御津比良』のサンドイッチ(とりわけタルタルとチキン竜田揚げサンド)とアップルティーが桜の大好物だった。


 流石は専用秘書、自分のコントロールがうまい。一気にやる気を取り戻した桜は———いや最初からそんなにすねてなどいなかったのだが———にこにことした顔で体育館を退場していった。




 残されたのは、これから入学式の片づけの必要がある教師のみだ。





「……社長さんと秘書さんは、仲が悪いんでしょ~か」


「いや、どこをどう見たらそうなるんですか」




 桜と後に続く武井の姿を目で追って、ぽつりと遠田がつぶやく。そこに、さっそくパイプ椅子を片腕に五個ずつ担いで片付け準備に取り掛かった竹道が、通りすがりにツッコミを入れた。



「え~そうなりません?」


「ならないでしょう……社長———桜学園長と秘書武井さんの仲はお墨付きです。中学時代から社長の才覚を発揮した、天才桜社長についた秘書の中で一番歴が長く、十年弱仕えているお抱え人として取り上げられたことがあるくらいで……。仲悪いわけがありますか」


「ミーハー?」



「……そんなことは」



「あ、図星ですね、竹道先生! 顔が赤い」



「……あなたもさっさと運んでください」


「わ!」




 遠田の返しに痛いところを衝かれたとばかりに舌打ちをした竹道は、誤魔化すように右腕にかけていた椅子を三つほど遠田のほうに放る。慌てて手を伸ばしてそれを受け取った遠田が唇を尖らせた。




「ちょっと、丁寧に扱ってくださいよ。僕弱いんですから」


「あなたのメンタルは、どんな梁より図太いでしょう……」


「本当に弱いんですよ~……っと。いや~梁に例えるところが何とも竹道先生らしいっすね!」




 たはは、と頭を掻くフリをした遠田に、竹道がぎろりと眼光を光らせる。





「無駄口叩いてないで」


「はいはい! 分かってますって。あ、そうだ竹道先生、終わったら一緒に中華食べに行きましょう。僕春巻き大好きなんですよ」


「私は海老とあなたが嫌いです」



「うーきつい~」




 陽気なオーラと陰気なオーラが二人の間で渦巻きながら片付けがどんどん進んでいく。



 笑いこける遠田にじゃんじゃん仕事を押し付けながら、自分もばりばりパイプ椅子を運ぶ竹道の采配の優秀さで、すぐに体育館からがまっさらな状態になっていく。




「————すげぇな、遠田先生」


「いや、すごいのは竹道先生では」


「どっちも、かなぁ……」


「仲いいですね、お二人とも」



「いいです!」「良くないです!」




 他の教師たちは、同時にツッコミを入れる二人に、苦笑交じりの視線を向ける。



 この学園の教師として配属され、顔合わせを済ませてからまだ一週間しか経っていないのに、よくあんなに喋れるな……と、(竹道は否定しているものの)二人の仲に感心したのだ。まぁ、入学式の舞台のようにあそこまでばりばりと張り合われると、止めるこちらの胃が持たないのだが……他の教師たちはひっそりため息を付きながら各々の作業に戻る。



「いや~これからどうなるんですかね?」


「————それはだれにもわからないですよ」


「おっと竹道先生が急にマイルドに」



「一気に五個持ってもいいんですよ?」



「勘弁してください!」




 遠田の悲鳴に近い叫び声が体育館に響く。

 




桜ヶ丘水上学園の入学式の終了を知らせるかのように、チャペルの鐘が遠くで鳴り響いた。


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