プロローグ
ピピピピ、ピピピピ、と電子音が鳴って、腕に取り付けられた時計に、とある数値が浮かび上がる。
———七十二%。それがあまりにも高い数字を示していることは、周りの反応からも見て取れた。
実際異常だろう。
まだ顔を合わせたこともなく、親睦を深めるまでにも達していない相手との相性度が七割を占めているなんて。
『おっと、入学初日からまさかの相性度七十%越え……これは先の展開が気になるところです! さぁ、どう出る⁉』
体育館の壇上の上で、何やら興奮した様子の司会者がマイクに大声を吹き込んでいる。が、神代紡にとってそんな些細なことはどうでもよかった。
まるで自分のことではないような冷徹な表情ですたすたと、目標に向かって一直線に歩く。
その凛とした姿勢につられるように、人の波が紡の歩く方向を避けて道を作った。
その中央を、堂々たる態度で通り抜けた紡は、きゅっと体育館履きの音を鳴らし、とある少女の前に立つ。
「いた。北条綾乃ってお前のこと?」
手元の時計から視線を上げ、自分よりも身長の低い茶髪の少女にそう話しかけると、同じく手首から電子音を放ちながら、彼女はこくりとうなずいた。
「はい、そうです。あの……?」
困惑した表情で紡の様子をうかがう綾乃に対し、紡は眉一つ動かさずに口を開いた。
「北条綾乃。プロセスなんてどうでもいい—————俺とさっさとカップルになろう」
「はい……?」
冷徹に紡ぎだされた言葉に綾乃の表情が固まり、同時に周囲の空気も凍り付く。
一瞬で緊張感をまとった空気に対し、紡は一人だけ飄々とした表情を浮かべてその埸に立っていた。何か追加で言うわけでもなく、綾乃の口がどう動くかどうかのみを観察するような態度に、一瞬綾乃の眉が吊り上がる。
「————はい、分かりました」
しかしどう考えたのか、少しの間の後、綾乃は承諾の意を唇に乗せてこくりとうなずいた。
「「「「「「「「はああああああ⁉」」」」」」」」
傍から見ればロマンティックさのかけらもない告白に、周囲は動揺と驚愕を隠せない。壇上の司会者で
さえもあんぐりと口を開けてその光景を眺めているのだから、この出来事がいかにイレギュラーであるかがうかがえる。
しかし、先ほども言ったように紡にとってはそんなことはどうでもよかった。
「じゃぁ、成立ってことで」
一切の温度を感じぬ声色で、手元の時計を操作しながら紡が続ける。分かりました、と再度綾乃がうなずくと、周囲がさらに騒然とした。
この一瞬のプロセスの中で、紡のどの部分に綾乃が惹かれたかなど分かるはずもないからだ。
「早く帰りたい」
おまけとばかりに空気を一切読まない科白を述べた紡は、虚空のような黒い瞳を綾乃に向け、一言言い放った。
「これから三年間、どうぞよろしく。楽しい学園生活にしよう」
「「「「「「「絶対思ってないだろ⁉⁉」」」」」」」
周囲がまた騒然とするも、彼の態度はなおもどこか吹く風、といった具合。ここまで関心を集めても、その顔に羞恥の色は一切ないらしい。
「……どうぞ、よろしくお願いいたします」
絞り出される綾乃の声色に滲む複雑な感情に対しては、もはや興味はないようだ。
桜散るらる麗らかな初春。桜ケ丘水上学園所属、一年B組五番、神代紡の高校生活は、こうして荒波をおこし、幕開けた。




