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誰かを好きになる前に 〜普通になりたかった私の話〜  作者: Wataru


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8/28

友達じゃなくなった日

 朝、目が覚めた瞬間、心臓が跳ねた。


 夢の内容を思い出す。


 自分の部屋。

 ベッド。

 目の前に結衣がいて。


 押し倒して、

 キスをしていた。


 そこで目が覚めた。


(……最悪)


 布団をかぶる。


 顔が熱い。


 夢なのに、

 感触まで残っている気がした。


 何度も頭を振る。


 ただの夢だ。


 でも。


(……好きなんだ)


 逃げようとしても、

 その結論からだけは逃げられなかった。


⸻


 教室に入る。


 できるだけ前を見ないように席に向かう。


 結衣の席は、すぐ前だ。


 見たら、きっと顔に出る。


 鞄を机に置く。


 その瞬間。


「おはよ」


 振り向いた結衣と目が合った。


 息が止まる。


「……おはよ」


 声が少し裏返る。


 結衣は気づいていない。


 いつも通りの顔で、


「昨日、ゲーム進んでさ」


 普通に話し始める。


 距離も、声のトーンも、

 昨日までと何も変わらない。


 それなのに。


(無理)


 夢の中の顔が重なる。


 近すぎる距離。


 触れた唇。


 慌てて視線を逸らす。


「どうしたの?」


「……寝不足」


 適当に答える。


「そっか」


 それだけ言って、

 結衣は前を向く。


 本当に、それだけ。


 特別な意味なんて何もない。


 でも。


 胸の奥だけが落ち着かない。


⸻


 移動教室でも。


 昼休みでも。


 放課後でも。


 結衣はいつも通りだった。


「次どこだっけ?」


「理科室」


「一緒に行こ」


 自然に隣を歩く。


 距離が近い。


 肩が触れそうになる。


 それだけで心臓がうるさい。


⸻


 放課後。


 結衣が他の子とゲームの話で笑っている。


 その光景を見ながら思う。


(このまま)


 何も言わなかったら。


 ずっと、

 ただの友達のまま。


 隣で笑って、

 一緒に帰って、

 それで終わる。


 いつか、

 誰かと付き合って。


 私は、

 横でそれを見るだけになる。


 胸の奥が、強く痛んだ。


⸻


 帰り道。


 駅前で別れる直前。


「また明日ね」


 結衣が言う。


 そこで。


 言葉が、喉まで出かかって。


(……今言わないと)


 もう、逃げられないと思った。


 夢の中の自分の方が、

 よっぽど正直だった。


 足が止まる。


「……ねえ」


 結衣が振り向く。


「なに?」


 その顔を見て。


 もう、誤魔化せないと分かった。


 夢の光景が頭に浮かぶ。


 自分の部屋。

 近すぎる距離。

 触れた唇。


 心臓が強く鳴る。


(……このままだと)


 怖くなる。


 もし、この気持ちを隠したまま、

 また同じ夢を見たら。


 本当に、押し倒してしまう気がした。


 それくらい、

 結衣のことばかり考えている。


 逃げ道を探すより先に、

 言葉が出ていた。


「……私」


 結衣が首をかしげる。


「うん?」


 もう誤魔化せない。


「……私、結衣のこと好き」


「友達じゃなくて」


「キスしたいって思う方の、好き」


 言ってしまってから、

 逃げ場がなくなる。


 結衣は、少し驚いた顔で黙った。


「……そっか」


 しばらく考えてから、言う。


「私も、花音ちゃん好きだよ」

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