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友達じゃなくなった日

 朝、目が覚めた瞬間、心臓が跳ねた。


 夢の内容を思い出す。


 自分の部屋。

 ベッド。

 目の前に結衣がいて。


 押し倒して、

 キスをしていた。


 そこで目が覚めた。


(……最悪)


 布団をかぶる。


 顔が熱い。


 夢なのに、

 感触まで残っている気がした。


 何度も頭を振る。


 ただの夢だ。


 でも。


(……好きなんだ)


 逃げようとしても、

 その結論からだけは逃げられなかった。



 教室に入る。


 できるだけ前を見ないように席に向かう。


 結衣の席は、すぐ前だ。


 見たら、きっと顔に出る。


 鞄を机に置く。


 その瞬間。


「おはよ」


 振り向いた結衣と目が合った。


 息が止まる。


「……おはよ」


 声が少し裏返る。


 結衣は気づいていない。


 いつも通りの顔で、


「昨日、ゲーム進んでさ」


 普通に話し始める。


 距離も、声のトーンも、

 昨日までと何も変わらない。


 それなのに。


(無理)


 夢の中の顔が重なる。


 近すぎる距離。


 触れた唇。


 慌てて視線を逸らす。


「どうしたの?」


「……寝不足」


 適当に答える。


「そっか」


 それだけ言って、

 結衣は前を向く。


 本当に、それだけ。


 特別な意味なんて何もない。


 でも。


 胸の奥だけが落ち着かない。



 移動教室でも。


 昼休みでも。


 放課後でも。


 結衣はいつも通りだった。


「次どこだっけ?」


「理科室」


「一緒に行こ」


 自然に隣を歩く。


 距離が近い。


 肩が触れそうになる。


 それだけで心臓がうるさい。



 放課後。


 結衣が他の子とゲームの話で笑っている。


 その光景を見ながら思う。


(このまま)


 何も言わなかったら。


 ずっと、

 ただの友達のまま。


 隣で笑って、

 一緒に帰って、

 それで終わる。


 いつか、

 誰かと付き合って。


 私は、

 横でそれを見るだけになる。


 胸の奥が、強く痛んだ。



 帰り道。


 駅前で別れる直前。


「また明日ね」


 結衣が言う。


 そこで。


 言葉が、喉まで出かかって。


(……今言わないと)


 もう、逃げられないと思った。


 夢の中の自分の方が、

 よっぽど正直だった。


 足が止まる。


「……ねえ」


 結衣が振り向く。


「なに?」


 その顔を見て。


 もう、誤魔化せないと分かった。


 夢の光景が頭に浮かぶ。


 自分の部屋。

 近すぎる距離。

 触れた唇。


 心臓が強く鳴る。


(……このままだと)


 怖くなる。


 もし、この気持ちを隠したまま、

 また同じ夢を見たら。


 本当に、押し倒してしまう気がした。


 それくらい、

 結衣のことばかり考えている。


 逃げ道を探すより先に、

 言葉が出ていた。


「……私」


 結衣が首をかしげる。


「うん?」


 もう誤魔化せない。


「……私、結衣のこと好き」


「友達じゃなくて」


「キスしたいって思う方の、好き」


 言ってしまってから、

 逃げ場がなくなる。


 結衣は、少し驚いた顔で黙った。


「……そっか」


 しばらく考えてから、言う。


「私も、花音ちゃん好きだよ」

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