アイドルより、隣の人を見ていた
ライブ当日。
駅前は、同じライブに行くらしい人たちで混んでいた。
ペンライトを持っている人、
グッズのバッグを肩にかけている人。
その中で、結衣は少しだけ居心地悪そうに立っている。
「人、多いね」
「……人気あるから」
私も少し緊張していた。
でも、それより。
私服の結衣を見るのが、少しだけ新鮮だった。
学校では見ない、ラフなパーカーに、
少し色の落ちたジーンズ。
「なんか変?」
見ていたのがばれたのか、結衣が聞く。
「いや……私服、珍しいなって」
「制服じゃないだけだよ」
そう言って、少し笑う。
その何でもないやり取りだけで、
胸の奥が落ち着かなくなる。
⸻
会場に入ると、音と光で空気が震えていた。
曲が始まると、
周りが一斉に立ち上がる。
歓声。
手拍子。
ペンライトの光。
ステージの上で、
Windsのメンバーが歌っている。
――本来なら、
それを見るために来たはずなのに。
気づくと、視線は横に向いていた。
結衣が、少し驚いた顔でステージを見ている。
知っている曲になると、
小さく口ずさんでいる。
楽しそう、というより、
素直に見入っている顔。
その横顔から、
どうしても目が離せなかった。
(……何やってるんだろ)
ステージを見ようとする。
でもまた、視線が戻る。
ライトに照らされた横顔。
曲に合わせて、少しだけ体を揺らす。
その様子を見ているだけで、
なぜか満たされる。
(違う)
アイドルを見に来たんじゃない。
でも。
曲の盛り上がりも、
周りの歓声も、
ほとんど頭に入ってこない。
ただ。
(結衣、楽しそうだな)
そればかり見ていた。
⸻
ライブが終わって、外に出る。
人混みの中で、結衣が言った。
「思ったより楽しかった」
「……うん」
「誘ってくれてありがと」
悪気なく言う。
私は、少しだけ笑った。
「どういたしまして」
でも。
心の中では、別のことを考えていた。
(私……)
アイドルより、
結衣の方ばかり見ていた。
その事実に気づいて。
胸の奥が、
少しだけ騒がしくなった。
⸻
ライブのあとからだった。
気づくと、結衣のことを考えている時間が増えていた。
授業中、ふと前を見ると、結衣の後ろ姿が目に入る。
帰り道、さっき別れたばかりなのに、次はいつ一緒に帰れるだろうと思ってしまう。
家で音楽を流していても、
ライブの曲より、隣で静かにリズムを取っていた結衣の横顔を思い出す。
(……なんでだろう)
特別なことがあったわけじゃない。
ただ一緒にライブへ行って、
並んで帰っただけ。
それなのに。
絵を描いているときも、
ゲームの話をしているときも、
何でもないときの表情も。
気づけば、
頭のどこかに、いつも結衣がいる。
前みたいに、
誰かに取られるのが怖いとか、
そういう気持ちとも少し違っていた。
ただ――
(……一緒にいたいな)
それだけを、
何度も考えている自分に気づいてしまった。
名前はまだ、
つけられなかったけれど。
結衣の存在が、
少しずつ、
私の中で大きくなっていることだけは、
はっきり分かった。




