彼らの馴れ初めを聞きました
よろしくお願いします。
「えぇーっと、レオンハルト殿下。殿下はルナティア嬢の事を私の女神とお呼しておりますが、それはどうしてですの?」
取り敢えずレオンハルト殿下の勘違いを正すことができれば、彼女に騙されていると気付いて下さるかもしれないわね。その方向で何とか話を進めてみましょうか。
「はっ?なんだマリエッタ。私の女神ルナティアを侮辱する気かっ!?」
いくら私の事が嫌いでも、そんなに喧嘩腰にならなくても良いのではなくて?
ちょっと聞いただけですのに、私は別に殿下が廃嫡されようが、塔に幽閉されようが構わないのですよ?
殿下にはこの十年あまり蔑ろにされ続けましたけれど、元より王命による政略結婚ですもの。
早々に『愛さない宣言』をされてしまえば、恋心など芽生える筈もありませんわ。嫌いという感情を持つ前に、殿下に対して無関心になってしまうのは仕方のない事ではありません?
ただ、それを口に出さないないだけのことです。
それでも私としては、殿下の婚約者でいる限りは責任は果たそうと思って過ごしてまいりましたのにね。
あらっ?
国王陛下が私に向かって何やら拝んでいらっしゃいますわ。
殿下はもうかなりギリギリのラインにおりますものね。
私の見立てでは、良くて謹慎、悪くて廃嫡かしら?
これ以上の醜態を晒さなければ、ではありますけれど。
それにしてもレオンハルト殿下のご弟妹は皆様、とても優秀だと聞いておりますのに、どうしてレオンハルト殿下だけこうなんでしょうか。
王妃様は王子、王女を分け隔てなく接しておられて、王族としての心構えなど教育の面でも熱心でしたし、忙しい中でも愛情もたっぷりと注いでいらっしゃる、と言われておりましたのに。
それが本当に『どうしてこうなった!?』という感じですわ。
まぁ、きっと原因は王妃様の隣で涙目になりながら、懇願のポーズを取っている国王陛下である事は薄々、いえ、確実にそうなのでしょう。
レオンハルト殿下の容姿は国王陛下に瓜二つと言われており、実際によく似ていらっしゃいます。国王陛下は先代国王夫妻に徹底的に厳しい教育と王族としての振る舞いを叩き込まれた、と父から聞いております。中々苛烈な教育方針だったそうですわ。
勿論、直接的な教育は家庭教師が行っていたそうです。ですが、教育のスケジュール管理から御学友の選定までありとあらゆる事に先代国王陛下夫妻が干渉し、現国王陛下はまるで傀儡人形のような日々を過ごしていらした、と聞き及んでいます。
その反動なのか。それとも自分の顔によく似たレオンハルト殿下に、在りし日の自分を重ねてしまったのか。国王陛下は、王妃様には内緒でレオンハルト殿下にだけは大変甘かったそうなのです。
私との婚約も陛下がレオンハルト殿下の為にと、無理矢理に王命を出したようなものでしたものね。
甘やかした結果が親の心子知らず、の典型になってしまったのが今の状況なのでしょう。
「いえ、侮辱ではありませんわ。ただ、どうして私の女神、と呼んでいらっしゃるのかが気になっただけです」
「そんなの決まっているだろう!
ルナティアは、私の初恋の人であり、私の女神なのだから!」
どうだ!と言わんばかりの表情で言ってらっしゃるけれど、質問の答えにはなっておりませんわね。
初恋の人、という言葉は上手く引き出せはしましたけれど。
「レオンハルト殿下の初恋の人、でございますか?」
「そうだともっ!
あれは私が八歳の時だった。教育の一環で市井へお忍びで出掛けた私は、そこでルナティアに出会って恋をしたのだ。
それからずっと、『またいつか私の女神に会えますように』と、想いを胸に秘め、再会を夢みてきたのだ。
あれ以来、会う事は叶わなかったが、学園に入学してきたルナティアが、私の為に手作りクッキーを持って私の前に現れ、私たちはとうとう運命の再会を果たしたのだ」
「・・・・・・・」
はっ!!
殿下の記憶があまりにもポンコツ過ぎて、私としたことが言葉を失って呆けてしまいましたわ。
それにしても一貴族のご令嬢が面識も無いのに突然、この国の第一王子に手作りクッキーを持って現れるのはありなのかしら?
誰か止めなかったの?
毒見はしたのでしょうね?
色々と気になる点が有りすぎますけれど、取り敢えず殿下が彼女を初恋の人と勘違いしている事はよぉ~く分かりましたわ。
そう考えて殿下の隣にいるルナティア嬢を見てみれば、やっぱり殿下と同じようにドヤ顔をしていますわね。
そのお顔は私の後ろに立っている方々にも見られている事に気づいていないのかしら?
「レオンハルト殿下の初恋の人は、確かにルナティア嬢で間違いはないのでしょうか?
他人の空似、という事もあるのでは?」
「なっ!マリエ「マリエッタ様ったらひっどーい。それって嫉妬ですか?私に対する嫉妬ですよね?
私がレオン様の初恋の相手で、八歳からずーっと私の事を好きだったのが悔しいんですよね?
だ・か・ら、私を虐めたりしたんですよね~。
まっ、気持ちは分からなくもないですけど?
で・も!私に謝罪ぐらいは欲しいですよねぇ。
私に謝ってくれるならマリエッタ様への罰を軽くして貰えるように頼んでみますよ?私のレオン様に。ね?」ーー う、うむ、私の女神がそう言うのならな」
殿下の言葉に被せるように、ルナティア嬢がドヤ顔を通り越して、『女神の化身と言われている貴女の笑顔が歪んでいるけど大丈夫?』と思わず声を掛けたくなるほど、歪つな笑顔を浮かべながら一気に言い切りました。
こんな物言いをすぐ側で聞いているのに、まだ『私の女神』とかほざくレオンハルト殿下と彼女は、もしかしてお似合いのカップルなんじゃないのかしら?
ちらりと国王陛下を見れば・・・え?絶対に違う?
全力で首を横に振って否定されてしまいましたわ。
あら、やだっ!
私と国王陛下ったら、目だけで意思疎通が出来ていますわよ?
これはレオンハルト殿下よりも、私と国王陛下との相性の方が良いということなのかしら?
まぁ、陛下は私のタイプではありませんけれど。
「・・・ルナティア嬢も、レオンハルト殿下の初恋の人がご自分であると、お認めになるのですか?
十年前に殿下とお会いした記憶がある、と」
「勿論ですよ!子どもの頃だったから詳しい事は覚えていないけど、レオン様の名前と顔はバッチリ覚えていましたよ。一緒に王都の下町を回った事も!
だから学園に入ってすぐにレオン様に会いに行ったんじゃないですかぁ~」
そう言って、ルナティア嬢はレオンハルト殿下の腕にキュっとしがみつくと、上目遣いで嬉しそうに殿下を見ています。
ハイ、嘘、発覚です。
偽証罪です!
詳しい事は覚えていないとぼかしつつも、自分が初恋の人だと言い切ってしまったら意味がないと思うのですが、そこまでは考えが及ばなかったのですかね。
まぁ、今は最高に幸せな気分で、気が大きくなっているのでしょう。
「そうですか、覚えておいでなのですね。
ですが・・・おかしいですわね。
私はルナティア嬢の事を全く覚えておりませんが?」
「はぁ?当たり前じゃないですか!
私が子どもの頃に出会ったのはレオン様であって、マリエッタ様ではありませんから」
ルナティア嬢、ダメ押しで言い切ってくれてありがとう。
「そうですか?実はレオンハルト殿下が市井にお忍びで出掛けた日は、私もご一緒させて頂いておりましたの。
ですから私は、一緒に回ったレオンハルト殿下の初恋の相手をよく存じております。ですからそれが貴女では無いと断言出来るのですよ」




