(16)――「父さんと母さんを殺したって言う根拠はあるの?」
【語り部:在江在処】
おれは風視ちゃんに、約束通りに全てを語る。
自分が死なずの四鬼であるということを。
五年前の出会いを。
おれが風視ちゃんに殺されたいと願っていることを。
その為に風視ちゃんの両親を殺害したことを。
業務妨害の犯人はおれで、風視ちゃんと万全の状態で出会う為にやっていたことを。
「そう。あのときの……」
黙っておれの話を聞いていた風視ちゃんは、おれの言葉をゆっくりと咀嚼し、飲み込むと、ため息を漏らすように口を開く。
「……生きてたんだ」
そう呟いた風視ちゃんの表情は曇りがちだった。そうなって当然だ。だってあの日おれに会わなければ、そしておれを助けようとなんてしなければ、風視ちゃんは両親を殺されることなく、今日も平和に一日を過ごしていたのだろうから。その後悔と自責の混じった顔は、おれにとってはぞくりとそそられるものがあった。
「それなら――」
どこにそんな余力があったというのだろう。風視ちゃんの絹糸のように艶やかな髪が揺れたと思った次の瞬間には、彼女はおれの目前にまで迫ってきていた。その一挙一動が目で追えなかったわけではないが、油断しきっていたおれには不意打ちとして見事成功を果たしていた。
半ば茫然としていたおれを押し倒し、片足で胸元を踏みつけて。
流れるような動作でおれの首元に禍々しい大鎌の刃先を突きつけ、風視ちゃんは言う。
「――質問しても良い?」
時間差でふわりと垂れた黒髪は、しかしその真下にいるおれから表情を隠すことは叶わず。今にも意識を手放しかねない苦しげな表情で、風視ちゃんはそう問いかけた。
「良いよ、なんでも訊いて。なにが知りたい?」
おれは風視ちゃんのことならなんでも知っている。
だから風視ちゃんがおれとフェアである為に、この時間は必要だと思った。
「父さんと母さんを殺したって言う根拠はあるの?」
「根拠?」
顔をしかめるおれに、風視ちゃんは頷く。
「殺したって言うだけなら、誰にだってできる。もし本当に犯人がお前だとしたら、犯人しか知らないようなことのひとつやふたつ、言えて当然でしょう?」
「確かに、それはそうだね」
風視ちゃんはあくまで犯人を殺さなきゃいけないのであって、むやみやたらに人を殺したいわけではない。その線引きが、彼女の中では緊要なのだ。
義務的な殺意。
だけど、それがどうした。
本来、人間は他人に殺意を抱くことはあれど、それを実行に移すには至らない。自分と同じ造りである生物を殺すということは、その苦痛も想像できてしまえるからだ。そこに強烈な抵抗感が生まれるから、戦場での発砲率だって存外に低い。
けれど風視ちゃんは、両親を殺した犯人を殺さなきゃいけないと言う。
殺意を抱くだけでなく、それを実行に移す覚悟が、風視ちゃんには確かにあるのだ。
だからこれは、おれの求めている死で間違いない。
渇望する死の足音が、確実に近づいてきている。
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